ジャズ・ディスク・ノート

第314回2019年4月24日

ウィリー・ブライアント 1935年

No.314 Willie Bryant 1935

ウィリー・ブライアントと彼のバンド

ボーっとではあるけれどジャズ・ファンを長いことやっているが、この「ウィリー・ブライアント」という名前は、前回テディ・ウィルソンの項を書いている時に初めて知った。因みに「ウィリー・ブライアント」はスイング・ジャーナル社発行の『ジャズ人名事典』に未収録で、これまで313回続けてきた拙HPでも、『ジャズ人名事典』に未収録の人物がタイトルとなるのは初めてである。これだけ長いジャズ・ファン歴の中で初めて知るくらいだから、大した人物でもないのだろうとは思ったが、まさか自分がレコードを持っているとはさらに思わなかった。
といっても単品で持っているわけではなく、「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ 第10巻 ザ・ビッグ・バンド・エラ 第2集」6枚組の片面に収められているものである。この企画ものボックスはこれまで散々お世話になった「第1集」(まだ終わっていないが)の続編である。
さてこれからずいぶんお世話になるだろうと思われる「第2集」の概要を先ずまとめてみよう。

レコードレコード番号名義録音日
1枚目AB面RA-54アール・ハインズ1939年7月12日〜1940年2月13日
2枚目AB面RA-55アール・ハインズ1940年6月19日〜1942年3月19日
3枚目A面RA-56ウィリー・ブライアント1935年1月4日〜1935年8月1日
3枚目B面RA-56テディ・ヒル1937年3月26日〜1937年5月17日
4枚目A面RA-57ベニー・カーター1940年11月19日〜1941年10月16日
4枚目B面RA-57ドン・レッドマン1938年12月6日〜1940年1月17日
5枚目AB面RA-58ハーラン・レナード1940年1月11日〜1940年11月13日
6枚目AB面RA-59カウント・ベイシー1947年3月13日〜1950年2月6日
ウィリー・ブライアント

このようにこのブライアントのもの以外は1937年以降つまりスイングの爆発後の録音であるのに対して、このレコードのみが「爆発」前のレコーディングである。本来は「第1集」に入れるべきものだったのではないかという気がする。何となく員数合わせのような匂いもするなぁ。
さて、このウィリー・ブライアントとはどんな人物なのであろうか?詳しくはレコード・ボックス付属の大和明氏の詳細な解説からまとめたので、プロフィールをご覧ください。まず、写真から判断するとどう見ても白人にしか見えないのである。更にヴォーカルの声を聴いても白人だと思える。しかしベッシー・スミスと共演したり、”チョコレート・レヴュー”に出演していたという経歴は黒人っぽいのである。色の白いクレオールだったのだろうか?
一方バンドメンを見ると、今回が初登場で写真が見当たらないプレイヤーが多く全ては分からないのだが、ベニー・カーターやベン・ウエブスター、コジ―・コール、グリン・パクなどは黒人である。もし彼が白人だとすると、基本的には白人バンド、黒人バンドと別れていたこの時代、自分以外ほとんどのメンバーを黒人で固めるというのは極めて異例であり、もっと喧伝されていい事象だと思う。
また大和氏の解説に拠ると、彼がバンド・リーダーとなったのは、彼が人気のあるタレントだったからであり、このようなことはよく行われたという。しかし彼は、バンドを強化するためにエドガー・バトルやディック・クラーク、テディ・ウィルソン、コジ―・コールといった実力者ミュージシャンを次々と迎え入れる。これは誰の判断だったのであろうか?もしブライアント自身の決断だったとすれば、確かな耳を持ったバンド・リーダーだったと思わざるを得ない。

「ザ・ビッグ・バンド・イーラ 第2集」レコード・ボックス

「ザ・ビッグ・バンド・イーラ 第2集」ビクター RCA レコード3 RA-56

<Contents> … 1935年1月4日 ニューヨークにて録音

record3.A面1.スローイン・ストーンズ・アット・ザ・サンThrowin’ stones at the sun
record3.A面2.イッツ・オーヴァー・ビコーズ・ウィアー・スルーIt’s over because we’re through
record3.A面3.ア・ヴァイパーズ・モーンA viper’s moan

<Personnel>…ウィリー・ブライアント・アンド・ヒズ・オーケストラ (Willie Bryant and his Orchestra)

Band leader & Vocalウィリー・ブライアントWillie Bryant
trumpetロバート・チークRobert Cheekリチャード・クラークRichard Clarkエドガー・“プディング・ヘッド”・バトルEdger “Pudding head” Battle
Tromboneジョニー・ホウトンJohnny HaughtonR.H.ホートンR.H.Horton
Clarinet & Alto saxグリン・パクGlyn Paque
Alto sax & Baritone saxスタンリー・ペインStanley Payne
Tenor saxジョニー・ラッセルJohnny Russell
Pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Guitarアーノルド・アダムズArnold Adams
Bassルイ・トンプソンLouis Thompson
Drumsコジ―・コールCozy Cole

A面1.「スローイン・ストーンズ・アット・ザ・サン」
Tpのエドガー・バトルの編曲によるナンバー。解説の大和氏によれば、このバンドのリズム・セクションの素晴らしさを充分に立証した演奏とのことで、ソロはクラーク(Tp)⇒ペイン(As)⇒バトル(Tp)⇒ウィルソン(P)⇒ラッセル(Ts)の順。特にバトルのブリリアントなソロ、スインギーなウィルソン、同的なラッセルのソロが充実している。
A面2.「イッツ・オーヴァー・ビコーズ・ウィアー・スルー」
当時の典型的なハーレム・スタイルによるトーチ・ソングだという。ウィリー・ブライアントが昔コンビを組んでいたレオナード・リードとの共作。34年にはタフト・ジョーダンのTpとヴォーカルをフューチャーしたチック・ウエッブ楽団の優れた録音もあった(第300回で紹介済み)。
演奏は甘いテーマを縫ってラッセルが実に味のあるTs を展開し、リーダー、ブライアントが甘く暖かい喉を聴かせる。そしてオブリガートを付けるクラークのTpが良い。ここから楽しいリフ・アンサンブルをバックにウィルソンがアール・ハインズ風のタッチの素晴らしいソロを聴かせる。なおサビのAsはペインが担当。
A面3.「ア・ヴァイパーズ・モーン」
大和氏によれば、「Viper」とは麻薬耽溺者のことで、当時ジャズメンにマリファナが広がりつつあったことからこういう曲が出来たのだという。さらに氏は、編曲はエドガー・バトルでこの日の録音の中でもっと優れた演奏とし、先ずリズム・セクションがしっかりしており、プランジャー・ミュートをうまく使ったアンサンブルといい、ソリッドなリズムといい実に素晴らしい。R.H.ホートンのグロウルするプレイともう一人のホウトンとの掛け合いがラッセルのTsソロを挟んで行われる。ハインズ風のウィルソンの短いPソロを経て、バトルがここでも輝かしいソロを披露し、ペインのソロを経て演奏を終えている。語りは勿論ブライアント。

「ザ・ビッグ・バンド・イーラ 第2集」ウィリー・ブライアント面

<Contents> … 1935年5月8日 ニューヨークにて録音

record3.A面4.リガマロールRigamarole
record3.A面5.ロング・アバウト・ミッドナイト‘Long about midnight
record3.A面6.ザ・シーク The shiek
record3.A面7.ジェリー・ザ・ジャンカー Jerry the junker

<Personnel>…ウィリー・ブライアント・アンド・ヒズ・オーケストラ (Willie Bryant and his Orchestra)

⇒d>
trumpetロバート・チークRobert Cheekベニー・カーターBenny Carter
Tenor saxベン・ウエブスターBen Webster In

A面4.「リガマロール」
演奏はストック・アレンジによるものだという。先ずアンサンブルがシャープであり、新加入のウエブスターのドライヴ感あふれるソロが聴きもので、ホウトン(Tb)、ウィルソン(P)、ホートン(ミュートTb)、アダムズ(Gt)、ウエブスター(Ts)、バトル(Tp)とソロが続く。
A面5.「ロング・アバウト・ミッドナイト」
ピアニストのアレックス・ヒルの作で、アレンジもヒルが手掛けている。アンサンブルからホウトンのオブリガードをを伴いながらブライアントが軽快に歌う。続いてバトルのミュートTp、ウエブスター張りに豪快に吹くラッセル(Ts)、ホートンの短いソロを経てアンサンブルで締める。
A面6.「ザ・シーク」
全ブライアント楽団の録音中1,2を争う出来映えを示す。ヘッド・アレンジによって演奏は進められ、ピアノのイントロから活き活きとしたリズムに乗って、ホートンのグロウルTbソロ、ウィルソン(P)、ウエブスター(Ts)のたくましいソロ、続いてドライヴ感溢れるラッセル(Ts)とアドリブが展開する。さらにバトルの歌心溢れるソロに続きラスト・コーラスはパク(Cl)がクライマックスへと盛り上げる。
A面7.「ジェリー・ザ・ジャンカー
これは明らかにキャブ・キャロウェイの「ミニー・ザ・ムーチャー」や「キックイン・ザ・ゴーイング・アラウンド」の商業的成功を意識し、それにあやかろうとした作品。ブライアントとバンドメンのコーラスが同じような雰囲気を醸し出している。ソロはラッセル(Ts)、パク(Cl)、ウィルソン(P)と続く。パクのソロが秀逸。

「ザ・ビッグ・バンド・イーラ 第2集」ジャケット裏面

<Contents> … 1935年8月1日 ニューヨークにて録音

record3.A面8.ザ・ヴォイス・オブ・オールド・マン・リヴァーThe voice of old man river
record3.A面9.ステーキ・アンド・ポテトSteak and Potatoes
record3.A面10.ライザLiza

<Personnel>…ウィリー・ブライアント・アンド・ヒズ・オーケストラ (Willie Bryant and his Orchestra)

Band leader & Vocalウィリー・ブライアントWillie Bryant
trumpetオーティス・ジョンソンOtis Johnsonリチャード・クラークRichard Clarkリンカーン・ミルズLincoln Mills
Tromboneジョニー・ホウトンJohnny Haughtonジョージ・マシューズGeorge Matthews
Clarinet & Alto saxグリン・パクGlyn Paque
Alto sax & Baritone saxスタンリー・ペインStanley Payne
Tenor saxジョニー・ラッセルJohnny Russellベン・ウエブスターBen Webster
Pianoラム・ラミレスRam Ramirez
Guitarアーノルド・アダムズArnold Adams
Bassベース・ヒルBass Hill
Drumsコジ―・コールCozy Cole

この日のpセッションには、ベニー・カーターは参加していなという説もあり決定打ではない。

A面8.「ザ・ヴォイス・オブ・オールド・マン・リヴァー」
「オール・マン・リヴァー」を下敷きにしてハリー・”ファーザー”・ホワイトとブライアントが共作した作品。ブライアントらしい軽快な歌の後、ウエブスターの誠に素晴らしいソロが展開される。この時期の彼のベスト・ソロの一つであろうとは大和氏。その後はパクのAsソロを挟んで、ジョンソン(Tp)、ラミレス(P)、パク(Cl)がアンサンブルを縫って華やかなソロを取り、マシューズ(Tb)のソロを挟んでラスト・アンサンブルをさらに盛り上げている。
A面9.「ステーキ・アンド・ポテト」
編曲はテディ・ウィルソンだが、その手法にはベニー・カーターの影響がうかがえるという。ソロはジョンソン(?Tp)に始まり、ホウトン(Tb)、バトル(Tp)のオブリガードによるブライアントの歌に続いて、ウエブスター(Ts)、ホウトン(Tb)と展開する。
A面10.「ライザ」
これもウィルソンによる編曲。この日のセッション中ベストの出来映え。カーター風のサックス・ソロを経て、味のあるマシューズ(Tb)ソロ、ジョンソン(Tp)、再びジョンソン或いはバトルのソロを挟みペイン(As)、そしてラミレス(P)からウエブスター(Ts)とソロが展開する。

僕の保有するレコードは、初版だと思われる。というのはレコード・ジャケット裏面にレコーディング・データが載っているからである。こういう歴史的な録音の場合は、レコーディング・データ必須である。

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第313回2019年4月21日

テディ・ウィルソン 1935年

「ザ・テディ・ウィルソン」レコード・ジャケット

「ザ・テディ・ウィルソン」 CBS SONY SONP 50332-33

1968年にCBSソニーから発売された「ザ・テディ・ウィルソン」は、テディ・ウィルソンの133曲に及ぶ「ブランズウィック・レコーディング」から32曲を厳選・収録し、世界に先駆けて完成したと自賛の帯封が付いて発売された2枚組の日本編集アルバム。発売付きの『スイング・ジャーナル選定ゴールド・ディスク』を受賞している。僕も高校生の時この宣伝文句に載せられて発売されてすぐに購入した。当時の僕は殆どモダン・ジャズしか聴いたことがなく、珠玉の名演集と言われてもソロが短くてどうもあまり名演をたっぷり聴いたという気がしなかったのを覚えている。
ともかくテディ・ウィルソンのブランズウィックでの133曲のディスコグラフィーを見てみよう。1935年のレコーディング・セッションは4度、18曲がレコーディングされている。

1度目の録音については、テディ・ウィルソンがヴィクターのベニー・グッドマンの録音に参加した返礼としてグッドマンが参加しており、またビリー・ホリディの2回目のレコーディングということで既に紹介しているのでここでは割愛する。

因みに第1回目の録音は、「ザ・テディ・ウィルソン」2枚組には収録されていない。テディ・ウィルソン名義のレコーディングなのに、本人のレコードに収録されていないのは「何だかなぁ」という気もするが、「ビリー・ホリディ」名義のレコードの方が売れるような気もするし、そちらを持っている方には重複が避けられてよかったぁという気もする。これはベニー・グッドマン名義の録音なのに、チャーリー・クリスチャンが加わった録音は大概「チャーリー・クリスチャン・メモリアル」というクリスチャン名義のレコードで入手できるのと同様である。
念のためディスコグラフィーを挙げておこう。



「ビリー・ホリディ」レコード第1集

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」A面3〜6 … 1935年7月2日ニューヨークにて録音

A面3.月に願いをI wished on the moon
A面4.月光のいたずらWhat alittle moonlight can do
A面5.ミス・ブラウンを貴方にMiss Brown to you
A面6.青のボンネットA sunbonnet blue

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Clarinetベニー・グッドマンBenny Goodman
Tenor saxベン・ウエブスターBen Webster
Guitarジョン・トゥルーハートJohn Trueheart
Bassジョン・カービーJohn Kirby
Drumsコージー・コールCozy Cole

2度目の録音は7月末に行われた。
CBS SONY SOPH 61-62 日本盤 モノラル

「ビリー・ホリディ Vol.1」レコード1A面ラベル

2度目のレコーディングは、さすがに2度目につき合わせるのは無理と判断されたのかクラリネットにはセシル・スコットが加わっている。ディスコグラフィーによれば、この日は全6曲の録音が行われたが、内3曲にはビリー・ホリディが歌手として参加している。そしてその3曲も「ザ・テディ・ウィルソン」には収録されておらず、「ビリー・ホリディ物語 第1集」(CBS SONY SOPH-61)に収録されている。
そしてビリーの加わっていない2曲の内の1曲「スィート・ロレイン」のみが「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されている。残り2曲は、「ライザ」と「ロッゼッタ」であるが、双方とも僕は未聴である。
ビリー以外は同じメンバーなので、先ずパーソネルから紹介しよう。この企画もの2枚組レコードは解説が充実しているので、お持ちでない方はもし見つけたら(よくディスク・ユニオンなどで安価に出ている)購入することをお勧めしたい。まず、リーダーのウィルソン、ウエブスター、コールの3人はウィリー・ブライアント楽団からの参加で、セシル・スコットは35,6年当時よくヘンリー・レッド・アレンのレコーディングに参加していたという。ジェファーソンは当時はよくフレッチャー・ヘンダーソンやチック・ウエッブの楽団でプレイしていた名手だという。

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Clarinetセシル・スコットCecil Scott
Alto saxヒルトン・ジェファーソンHilton Jefferson
Tenor saxベン・ウエブスターBen Webster
Guitarローレンス・ルーシーLawrence Lucie
Bassジョン・カービーJohn Kirby
Drumsコージー・コールCozy Cole

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」A面7〜9 … 1935年7月31日ニューヨークにて録音

A面7.こんな夜にこんな月ならWhat a night , what a moon , what a girl
A面8.涙かくして街を行くI’m painting the town red
A面9.もえている私It’s too hot for words

ビリーの加わった3曲に関して「ビリー・ホリディ物語 第1集」解説の大和明氏は「ここでも取り上げられたナンバーは取るに足らない流行歌である」と述べ、さらに「『こんな夜にこんな月なら』も『涙かくして街を行く』も、最初のコーラスをアンサンブルとウィルソンのピアノで8小節或いは4小節ずつ交互に進行していくという構成が取られ、ウィルソンのプレイを引き立たせる工夫がされている。」
曲の解説はビリーの大ファンである故大橋巨泉氏が担当している。巨泉氏はここでもビリーをべた褒めで、演奏はコーニー(古臭い)がビリーだけは新しいとしている。僕はこの時代はまだスイングの爆発前夜であり、当時としてかなり高水準の演奏だと思うし、逆にビリーのかすれた声のはすっぱな歌い方が好きではない。「すれっからし」という言葉しか浮かんでこないが、自分に正直で「かまとと」ぶっていないところが良いという感想もあるだろうとは思う。
A面7.「こんな夜にこんな月なら」は、ピアノがリードするアンサンブルの後ビリーの歌が入り、ジェファーソン(As)、スコット(Cl)、ウィルソン(P)、エルドリッジ(Tp)、ウエブスター(Ts)と続き、再度スコットのリードするアンサンブルで終わる。顔見世的ナンバーでそれなりに楽しいと僕は思う。
A面8.「涙かくして街を行く」は、最初に書いたピアノとアンサンブルの交互の進行の後、短いAs、Tpソロの後歌が入る。ここでのヴォーカルは迫力がある。そしてそれを受けたエルドリッジのTpソロも素晴らしい。
A面9.「もえている私」はタイトル通りかなり大胆で卑猥な内容で、ビリーのヴォーカルも何やら反抗的だとは巨泉氏。ヴォーカル後のAs、Cl、Ts、Tpと短いソロが続きその後はアンサンブルで締め括る。

「ザ・テディ・ウィルソン1」レコード 1A面ラベル

<Contents>「ザ・テディ・ウィルソン」A面5 … 1935年7月31日ニューヨークにて録音

A面5.スィート・ロレインSweet Lorraine

1935年2度目のブランズウィック・セッションで唯一「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されているナンバー。またブランズウィック・セッションで初めて歌手を入れないで録音を行ったナンバーでもある。エルドリッジ(Tp)とジェファーソン(As)が第1コーラスをほとんどストレート・メロディで軽やかに演奏し、第2コーラスはリリース部分のウエブスター(Ts)のソロを挟みウィルソンがスイートでロマンティックなソロを取る。ウィルソンの後にはもう一度ウエブスターが出るが後年のウエブスター節は希薄で普通に吹いている感じがする。ベースのカービーはやはり只者ではないことが窺い知れる。

そして3度目の録音は約3か月後の10月末に行われた。この頃はベニー・グッドマンは受けに入りつつあった時期であり、スイング時代到来前夜的な時だったのではないかと思われる。
そしてここでもビリー・ホリディが歌手として参加していて、その音源も前曲「ザ・テディ・ウィルソン」には収録されておらず、「ビリー・ホリディ物語 第1集」(CBS SONY SOPH-61)に収録されている。

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」B面1〜4 … 1935年10月25日ニューヨークにて録音

B面1.日がな一日Twenty=four hours a day
B面2.ヤンキーはショボかったYankee Doddle never went to town
B面3.イーニー・ミーニー・マイニー・モーEeny meny miney mo
B面4.君を得たならIf you were mine
「ビリー・ホリディ Vol.1」レコード1B面ラベル

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Tromboneベニー・モートンBenny Morton
Tenor saxチュー・ベリーChu Berry
Guitarデイヴ・バーバーDave Barbour
Bassジョン・カービーJohn Kirby
Drumsコージー・コールCozy Cole

このセッションで注目されるのはテナー・サックスのチュー・ベリーで、同じホーキンズ派でも前回までのウエブスターは豪放さが持ち味だが、一方ベリーは豪快な中にもまろやかなソフト・トーンを持っているとは解説の大和氏。しかし前回までのウエブスターもそれほど豪放に吹いているわけではないと思うのだが。それにTbのベニー・モーテンもいい味を出していると思うのだが…。
B面1.「日がな一日」は、いきなり出てくるチュー・ベリー、そしてモーテン、エルドリッジなど短いが素晴らしいソロの連続である。曲は愚作で、ビリーもスイングしているものの手の施しようがないと巨泉氏は書くが、インストの素晴らしさで元は取れたと思うよ。
B面2.「ヤンキーはショボかった」。これも当時はやった凡庸な流行歌の一つであるが、ビリーの独特の遅れたノリが聴きもの。サビの終わりに例のヴィブラートを聴かせてくれる。スケールの大きいモーテンのソロの方が聴きもののような気がするが。
B面3.「イーニー・ミーニー・マイニー・モー」
「これも愚曲の典型でビリーの誰も真似ることのできない「乗り」を楽しむしかない」とは巨泉氏。僕はモーテンとウィルソン、エルドリッジ、ベリーのソロ、及びバックのコールのドラミングなど素晴らしいと思う。
B面4.「君を得たなら」について、「トロンボーンのイントロを受けてのウィルソンのソロは、彼の生涯の最高の一つであろう。歌い方、乗り方、非の打ちようがない」とは巨泉氏。正確には「トロンボーンのイントロを受けて一瞬トロンボーンのつなぎがありヴォーカルの前の」ピアノ・ソロのことであろう。さらに氏は続けて「そしてああビリー!この限りない憧れをたたえた名唱をなんと表現したらいいのだろう。後半の「Yes」だけでも僕は胸があつくなる」と感極まっている。確かに熱演で内容も素晴らしいことは、僕にも分かる。

4度目のレコーディングは、12月の初めに行われた。全4曲が録音されたが、ここでも3曲にビリーが参加しており、そのナンバーは「ビリー・ホリディ物語 第1集」(CBS SONY SOPH-61)に収録されている。
また、ビリーの参加していないインスト・ナンバーも1曲あり(『シュガー・プラム』)、こちらは「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されている。
ということで、今回もパーソネルから、とメイシーとバーバーが白人で白黒混合コンボという編成である。

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetディック・クラークDick Clark
Clarinetトム・メイシーTom Macey
Alto saxジョニー・ホッジスJohnny Hodges
Guitarデイヴ・バーバーDave Barbour
Bassグラチャン・モンカーGrachan Moncur
Drumsコージー・コールCozy Cole

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」B面5〜8 … 1935年12月3日ニューヨークにて録音

B面5.ジーズン・ザッツン・ゾーズThese ‘n’ That ‘n’ those
B面6.つき落されてYou let me down
B面7.リズムまき散らしSpleadi’n rhythm around

ビリーの方の解説大和明氏によれば、この日のセッションはエリントン楽団のジョニー・ホッジスに焦点を合わせるように行われたという。というのは他のフロント・ラインを構成するディック・クラーク、トム・メイシーというのはあまり名の知れたプレイヤーではないからであるという。
B面5.「ジーズン・ザッツン・ゾーズ」は、ウィルソンのイントロからテーマを吹くホッジスはさすがの貫禄であると巨泉氏は書くがこの頃はまだホッジスは青二才同然だったのではないかと思う。後年のネーム・バリューで聴き過ぎではないか。
B面6.「つき落されて」は、ホッジスのドラマティックなソロを受けて歌い出すビリーは、抑えた歌唱が光っていると思う。ウィルソンのソロも良いが、バーバーのアコースティック・ギターでのソロは珍しいものであり、聴き応えもある。
B面7.「リズムまき散らし」は、当時よくあったパターンの曲であるという。メイシーのClはグッドマンによく似ている。そして続くホッジスのソロも良いが、さらに続くクラークのTpソロはエルドリッジに比べると迫力がかけるのがよく分かるという。

<Contents>「ザ・テディ・ウィルソン」A面6 … 1935年12月3日ニューヨークにて録音

A面6.シュガー・プラムSugar plum

やはりここでの聴きものは、奔放なホッジスのソロで、クラーク(Tp)やメイシー(Cl)のソロに比べるとその自信に満ち溢れたプレイぶりに驚かされる。

ということで 「ザ・テディ・ウィルソン」と「ビリー・ホリディ物語 第1集」を組み合わせて聴いていくことで、1935年に始まったスイング時代の花と言われるテディ・ウィルソンのブランズウィック・セッションは大概聴くことができる。

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第312回2019年4月15日

アール・ハインズ 1935年

No.312 Earl Hines 1935

アール・ハインズの1935年の録音である。僕が注目したいのは、前回は第300回で紹介したように1934年9月の録音で、録音場所はシカゴであった。そして今回は約5か月後の1935年2月の録音だが、録音場所はニューヨークとなっている。しかしメンバーは5か月前と同じなのである。この時期ビッグ・バンドのメンバーは出入りが激しかったというが、場所をシカゴ⇒ニューヨークに移しても同メンバーというのは珍しいのではないかと思う。
それは何故であろうか?メンバーがこのバンドにいた方がメリットがあると判断したからであろうが、不況のこの時期定期的に仕事が得られるバンドから移るのはリスキーと判断したのかもしれないし、このバンドにいれば良いキャリアが積めると判断したのだろうか?

アール・ハインズ「サウスサイド・スイング」レコード・ジャケット

「アール・ハインズ/サウスサウド・スゥイング」“Earl Hines : Southside swing”(SDL 10351)

<Contents> … 1935年2月12日 ニューヨークにて録音

B面3.ディスアポインテッド・イン・ラヴDisappointed in love
B面4.リズム・ララバイRhythm lullaby
B面5.ジャパニーズ・サンドマンJapanese sandman
B面6.バブリング・オーヴァーBubbling over
B面7.ブルーBlue
B面8.ジュリアJulia

<Personnel>…アール・ハインズ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Earl Hines and his Orchestra)

Band leader & Pianoアール・ハインズEarl Hines
trumpetチャーリー・アレンCharlie Allenジョージ・ディクソンGeorge Dixonウォルター・フラーWalter Fuller
Tromboneルイ・テイラーLouis Taylorandy Williamsビリー・フランクリンBilly Franklinトラミー・ヤングTrummy Young
Alto sax , Clarinet & Violinダーネル・ハワードDarnell Howard
Clarinet & alto saxオマー・シメオンOmer Simeon
Tenor saxセシル・アーウィンCecil Irwinジミー・マンディJimmy Mundy
Guitarローレンス・ディクソンLawrence Dixon
Bassクイン・ウィルソンQuinn Wilson
Drumsウォーレス・ビショップWallace Bishop
アール・ハインズ「サウスサイド・スイング」レコードB面

パーソネルは、前録音1934年9月16日と変更なし。

B面3曲目「ディスアポインテッド・イン・ラヴ」とB面4曲目「リズム・ララバイ」は、ヴォーカル・コーラス・グループザ・パーマー・ブラザーズによるヴォーカル及びコーラス入りである。「ディスアポインテッド・イン・ラヴ」はジミー・マンディの編曲で、マンディは出だしの部分で素晴らしいテナー・ソロを繰り広げる。続くヤングのTbも素晴らしい。「リズム・ララバイ」は、コーラスの後クラレンス・パーマーのルイ・アームストロングを模したエネルギッシュなヴォーカルが興を添える。
B面5曲目「ジャパニーズ・サンドマン」は、日本人としては気になるタイトルだが、これまでも何度か登場している。ハインズの長尺のソロが聴ける。アンサンブルの後ヤングのTb、シメオンのClの短いソロが入るがどちらも秀逸である。
B面6曲目「バブリング・オーヴァー」はアップ・テンポのナンバーで、ルイ・アームストロングにインスパイア―されたTpソロを取るのはウォルター・フラーだそうで、シメオンの低音から高音域まで縦横に展開するシメオンのソロが聴きものである。
B面7曲目「ブルー」は、グッとテンポを落としたナンバーで、ミュートTpソロはディクソン、ハインズのPソロが続く。エンディングの迫力あるアンサンブルなど聴き処が多い。
B面8曲目「ジュリア」は、1934年9月12日録音の「ロゼッタ」と同様Tpのウォルター・フラーのヴォーカル入りである。このフラーのヴォーカルもかなりアームストロングに似せたものになっており、如何にアームストロングの影響が大きかったかが知れるナンバーである。


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第311回2019年4月6日

チック・ウェッブ 1935年

No.311 Chick Webb 1935

チック・ウェッブ「伝説」レコード・ジャケット

「チック・ウェッブ/伝説」“Chick Webb:A legend”(SDL 10344)

<Contents> … 1935年6月12日 ニューヨークにて録音

B面4.ダウン・ホーム・ラグDown home rag

<Personnel>…チック・ウエッブ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Chick Webb and his Orchestra)

Band leader & Drumsチック・ウェッブChick Webb
trumpetマリオ・バウザMario Bauzaボビー・スタークBobby Starkタフト・ジョーダンTaft Jordan
Tromboneサンディ・ウィリアムスSandy Williamsクロード・ジョーンズClaude Jones
Clarinet & Alto saxピート・クラークPete Clark
Alto saxエドガー・サンプソンEdger Sampson
Tenor sax & Fluteウェイマン・カーヴァ―Wayman Carver
Tenor saxエルマー・ウィリアムズElmer Williams
Pianoジョー・スティールJoe Steele
Guitarジョン・トルーハートJohn Trueheart
Bassジョン・カービィ―John Kirby


チック・ウェッブ「伝説」B面ラベル

1934年11月19日の録音からメンバーの交替はなく同じメンバーである。

「ダウン・ホーム・ラグ」
ウィルバー・C・スゥィードマンとロジャー・ルイスの共作によるラグタイムナンバー。ウェイマン・カーヴァ―のフルートがリードする小粋なサックス隊と歯切れの良いブラス人の共演が楽しめる。ソロ・オーダーは、エルマー・ウィリアムズ(Ts)⇒タフト・ジョーダン(Tp)⇒ジョー・スティール(p)⇒ピート・クラーク(Cl)。

<Contents> … 1935年10月12日 ニューヨークにて録音

B面5.ファクツ・アンド・フィギュアーズFacts and figures

<Personnel>…チック・ウエッブ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Chick Webb and his Orchestra)

Bass … ジョン・カービィ― ⇒ デル・トーマス Dell Thomas

「ファクツ・アンド・フィギュアーズ」
エドガー・サンプソン作のアップ・テンポのスイング・ナンバー。エルマーのTs、サンプソンのAs、クラークのCl、ジョーダンのTp、ジョーンズのTb、ウエッブのドラムなどソロが散りばめられている。

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第313回2019年4月21日

テディ・ウィルソン 1935年

「ザ・テディ・ウィルソン」レコード・ジャケット

「ザ・テディ・ウィルソン」 CBS SONY SONP 50332-33

1968年にCBSソニーから発売された「ザ・テディ・ウィルソン」は、テディ・ウィルソンの133曲に及ぶ「ブランズウィック・レコーディング」から32曲を厳選・収録し、世界に先駆けて完成したと自賛の帯封が付いて発売された2枚組の日本編集アルバム。発売付きの『スイング・ジャーナル選定ゴールド・ディスク』を受賞している。僕も高校生の時この宣伝文句に載せられて発売されてすぐに購入した。当時の僕は殆どモダン・ジャズしか聴いたことがなく、珠玉の名演集と言われてもソロが短くてどうもあまり名演をたっぷり聴いたという気がしなかったのを覚えている。
ともかくテディ・ウィルソンのブランズウィックでの133曲のディスコグラフィーを見てみよう。1935年のレコーディング・セッションは4度、18曲がレコーディングされている。

1度目の録音については、テディ・ウィルソンがヴィクターのベニー・グッドマンの録音に参加した返礼としてグッドマンが参加しており、またビリー・ホリディの2回目のレコーディングということで既に紹介しているのでここでは割愛する。

因みに第1回目の録音は、「ザ・テディ・ウィルソン」2枚組には収録されていない。テディ・ウィルソン名義のレコーディングなのに、本人のレコードに収録されていないのは「何だかなぁ」という気もするが、「ビリー・ホリディ」名義のレコードの方が売れるような気もするし、そちらを持っている方には重複が避けられてよかったぁという気もする。これはベニー・グッドマン名義の録音なのに、チャーリー・クリスチャンが加わった録音は大概「チャーリー・クリスチャン・メモリアル」というクリスチャン名義のレコードで入手できるのと同様である。
念のためディスコグラフィーを挙げておこう。



「ビリー・ホリディ」レコード第1集

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」A面3〜6 … 1935年7月2日ニューヨークにて録音

A面3.月に願いをI wished on the moon
A面4.月光のいたずらWhat alittle moonlight can do
A面5.ミス・ブラウンを貴方にMiss Brown to you
A面6.青のボンネットA sunbonnet blue

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Clarinetベニー・グッドマンBenny Goodman
Tenor saxベン・ウエブスターBen Webster
Guitarジョン・トゥルーハートJohn Trueheart
Bassジョン・カービーJohn Kirby
Drumsコージー・コールCozy Cole

2度目の録音は7月末に行われた。
CBS SONY SOPH 61-62 日本盤 モノラル

「ビリー・ホリディ Vol.1」レコード1A面ラベル

2度目のレコーディングは、さすがに2度目につき合わせるのは無理と判断されたのかクラリネットにはセシル・スコットが加わっている。ディスコグラフィーによれば、この日は全6曲の録音が行われたが、内3曲にはビリー・ホリディが歌手として参加している。そしてその3曲も「ザ・テディ・ウィルソン」には収録されておらず、「ビリー・ホリディ物語 第1集」(CBS SONY SOPH-61)に収録されている。
そしてビリーの加わっていない2曲の内の1曲「スィート・ロレイン」のみが「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されている。残り2曲は、「ライザ」と「ロッゼッタ」であるが、双方とも僕は未聴である。
ビリー以外は同じメンバーなので、先ずパーソネルから紹介しよう。この企画もの2枚組レコードは解説が充実しているので、お持ちでない方はもし見つけたら(よくディスク・ユニオンなどで安価に出ている)購入することをお勧めしたい。まず、リーダーのウィルソン、ウエブスター、コールの3人はウィリー・ブライアント楽団からの参加で、セシル・スコットは35,6年当時よくヘンリー・レッド・アレンのレコーディングに参加していたという。ジェファーソンは当時はよくフレッチャー・ヘンダーソンやチック・ウエッブの楽団でプレイしていた名手だという。

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Clarinetセシル・スコットCecil Scott
Alto saxヒルトン・ジェファーソンHilton Jefferson
Tenor saxベン・ウエブスターBen Webster
Guitarローレンス・ルーシーLawrence Lucie
Bassジョン・カービーJohn Kirby
Drumsコージー・コールCozy Cole

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」A面7〜9 … 1935年7月31日ニューヨークにて録音

A面7.こんな夜にこんな月ならWhat a night , what a moon , what a girl
A面8.涙かくして街を行くI’m painting the town red
A面9.もえている私It’s too hot for words

ビリーの加わった3曲に関して「ビリー・ホリディ物語 第1集」解説の大和明氏は「ここでも取り上げられたナンバーは取るに足らない流行歌である」と述べ、さらに「『こんな夜にこんな月なら』も『涙かくして街を行く』も、最初のコーラスをアンサンブルとウィルソンのピアノで8小節或いは4小節ずつ交互に進行していくという構成が取られ、ウィルソンのプレイを引き立たせる工夫がされている。」
曲の解説はビリーの大ファンである故大橋巨泉氏が担当している。巨泉氏はここでもビリーをべた褒めで、演奏はコーニー(古臭い)がビリーだけは新しいとしている。僕はこの時代はまだスイングの爆発前夜であり、当時としてかなり高水準の演奏だと思うし、逆にビリーのかすれた声のはすっぱな歌い方が好きではない。「すれっからし」という言葉しか浮かんでこないが、自分に正直で「かまとと」ぶっていないところが良いという感想もあるだろうとは思う。
A面7.「こんな夜にこんな月なら」は、ピアノがリードするアンサンブルの後ビリーの歌が入り、ジェファーソン(As)、スコット(Cl)、ウィルソン(P)、エルドリッジ(Tp)、ウエブスター(Ts)と続き、再度スコットのリードするアンサンブルで終わる。顔見世的ナンバーでそれなりに楽しいと僕は思う。
A面8.「涙かくして街を行く」は、最初に書いたピアノとアンサンブルの交互の進行の後、短いAs、Tpソロの後歌が入る。ここでのヴォーカルは迫力がある。そしてそれを受けたエルドリッジのTpソロも素晴らしい。
A面9.「もえている私」はタイトル通りかなり大胆で卑猥な内容で、ビリーのヴォーカルも何やら反抗的だとは巨泉氏。ヴォーカル後のAs、Cl、Ts、Tpと短いソロが続きその後はアンサンブルで締め括る。

「ザ・テディ・ウィルソン1」レコード 1A面ラベル

<Contents>「ザ・テディ・ウィルソン」A面5 … 1935年7月31日ニューヨークにて録音

A面5.スィート・ロレインSweet Lorraine

1935年2度目のブランズウィック・セッションで唯一「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されているナンバー。またブランズウィック・セッションで初めて歌手を入れないで録音を行ったナンバーでもある。エルドリッジ(Tp)とジェファーソン(As)が第1コーラスをほとんどストレート・メロディで軽やかに演奏し、第2コーラスはリリース部分のウエブスター(Ts)のソロを挟みウィルソンがスイートでロマンティックなソロを取る。ウィルソンの後にはもう一度ウエブスターが出るが後年のウエブスター節は希薄で普通に吹いている感じがする。ベースのカービーはやはり只者ではないことが窺い知れる。

そして3度目の録音は約3か月後の10月末に行われた。この頃はベニー・グッドマンは受けに入りつつあった時期であり、スイング時代到来前夜的な時だったのではないかと思われる。
そしてここでもビリー・ホリディが歌手として参加していて、その音源も前曲「ザ・テディ・ウィルソン」には収録されておらず、「ビリー・ホリディ物語 第1集」(CBS SONY SOPH-61)に収録されている。

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」B面1〜4 … 1935年10月25日ニューヨークにて録音

B面1.日がな一日Twenty=four hours a day
B面2.ヤンキーはショボかったYankee Doddle never went to town
B面3.イーニー・ミーニー・マイニー・モーEeny meny miney mo
B面4.君を得たならIf you were mine
「ビリー・ホリディ Vol.1」レコード1B面ラベル

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Tromboneベニー・モートンBenny Morton
Tenor saxチュー・ベリーChu Berry
Guitarデイヴ・バーバーDave Barbour
Bassジョン・カービーJohn Kirby
Drumsコージー・コールCozy Cole

このセッションで注目されるのはテナー・サックスのチュー・ベリーで、同じホーキンズ派でも前回までのウエブスターは豪放さが持ち味だが、一方ベリーは豪快な中にもまろやかなソフト・トーンを持っているとは解説の大和氏。しかし前回までのウエブスターもそれほど豪放に吹いているわけではないと思うのだが。それにTbのベニー・モーテンもいい味を出していると思うのだが…。
B面1.「日がな一日」は、いきなり出てくるチュー・ベリー、そしてモーテン、エルドリッジなど短いが素晴らしいソロの連続である。曲は愚作で、ビリーもスイングしているものの手の施しようがないと巨泉氏は書くが、インストの素晴らしさで元は取れたと思うよ。
B面2.「ヤンキーはショボかった」。これも当時はやった凡庸な流行歌の一つであるが、ビリーの独特の遅れたノリが聴きもの。サビの終わりに例のヴィブラートを聴かせてくれる。スケールの大きいモーテンのソロの方が聴きもののような気がするが。
B面3.「イーニー・ミーニー・マイニー・モー」
「これも愚曲の典型でビリーの誰も真似ることのできない「乗り」を楽しむしかない」とは巨泉氏。僕はモーテンとウィルソン、エルドリッジ、ベリーのソロ、及びバックのコールのドラミングなど素晴らしいと思う。
B面4.「君を得たなら」について、「トロンボーンのイントロを受けてのウィルソンのソロは、彼の生涯の最高の一つであろう。歌い方、乗り方、非の打ちようがない」とは巨泉氏。正確には「トロンボーンのイントロを受けて一瞬トロンボーンのつなぎがありヴォーカルの前の」ピアノ・ソロのことであろう。さらに氏は続けて「そしてああビリー!この限りない憧れをたたえた名唱をなんと表現したらいいのだろう。後半の「Yes」だけでも僕は胸があつくなる」と感極まっている。確かに熱演で内容も素晴らしいことは、僕にも分かる。

4度目のレコーディングは、12月の初めに行われた。全4曲が録音されたが、ここでも3曲にビリーが参加しており、そのナンバーは「ビリー・ホリディ物語 第1集」(CBS SONY SOPH-61)に収録されている。
また、ビリーの参加していないインスト・ナンバーも1曲あり(『シュガー・プラム』)、こちらは「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されている。
ということで、今回もパーソネルから、とメイシーとバーバーが白人で白黒混合コンボという編成である。

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Band leader & pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetディック・クラークDick Clark
Clarinetトム・メイシーTom Macey
Alto saxジョニー・ホッジスJohnny Hodges
Guitarデイヴ・バーバーDave Barbour
Bassグラチャン・モンカーGrachan Moncur
Drumsコージー・コールCozy Cole

<Contents>「ビリー・ホリディ物語 第1集」B面5〜8 … 1935年12月3日ニューヨークにて録音

B面5.ジーズン・ザッツン・ゾーズThese ‘n’ That ‘n’ those
B面6.つき落されてYou let me down
B面7.リズムまき散らしSpleadi’n rhythm around

ビリーの方の解説大和明氏によれば、この日のセッションはエリントン楽団のジョニー・ホッジスに焦点を合わせるように行われたという。というのは他のフロント・ラインを構成するディック・クラーク、トム・メイシーというのはあまり名の知れたプレイヤーではないからであるという。
B面5.「ジーズン・ザッツン・ゾーズ」は、ウィルソンのイントロからテーマを吹くホッジスはさすがの貫禄であると巨泉氏は書くがこの頃はまだホッジスは青二才同然だったのではないかと思う。後年のネーム・バリューで聴き過ぎではないか。
B面6.「つき落されて」は、ホッジスのドラマティックなソロを受けて歌い出すビリーは、抑えた歌唱が光っていると思う。ウィルソンのソロも良いが、バーバーのアコースティック・ギターでのソロは珍しいものであり、聴き応えもある。
B面7.「リズムまき散らし」は、当時よくあったパターンの曲であるという。メイシーのClはグッドマンによく似ている。そして続くホッジスのソロも良いが、さらに続くクラークのTpソロはエルドリッジに比べると迫力がかけるのがよく分かるという。

<Contents>「ザ・テディ・ウィルソン」A面6 … 1935年12月3日ニューヨークにて録音

A面6.シュガー・プラムSugar plum

やはりここでの聴きものは、奔放なホッジスのソロで、クラーク(Tp)やメイシー(Cl)のソロに比べるとその自信に満ち溢れたプレイぶりに驚かされる。

ということで 「ザ・テディ・ウィルソン」と「ビリー・ホリディ物語 第1集」を組み合わせて聴いていくことで、1935年に始まったスイング時代の花と言われるテディ・ウィルソンのブランズウィック・セッションは大概聴くことができる。

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