フレディ―・ケパード 1924年

Freddie Keppard 1924

フレディ―・ケパードは本によって書き方が少々異なる。ある本では二代目ジャズ王になり損ねたというものもあるし、やはり二代目ジャズ王であったというものもある。僕はこのアルバムを見つけた時、かなりの期待をもって、もちろん最近この手のレコードは人気がなく安かったこともあるが、迷いなく購入した。初代ジャズ王バディ・ボールデンには録音がないが、一部の書籍などでは二代目ジャズ王と書かれる[フレディ・ケパード]の演奏に興味があったからである。
なお、このレコードは、フランスのレコード会社「BYG」から発売されているもので、他にデューク・エリントンの最初の吹込みを取り上げたレコードなどもある。「BYG」は前衛ジャズのレーベルとして有名であるが、こういう古い録音を復刻させる取り組みは素晴らしいと思う。
油井正一著「ジャズの歴史」によれば、ケパードは「クジラの口」と綽名される獰猛な巨人で、大変なワン・マンであったという。オリジナル・クレオールというバンドに加入するやこのバンドの事実上の支配者となったという。「キング」という尊称を持って団員たちからたてまつられ、ウィル・ジョンソンというマネージャーがいたにもかかわらず、出演料などの給料などを受け取り、団員に渡す役も自身の仕事にしてしまう。
そして給料日が近づいてポケットが膨らんでくると、ケパードは先ず賭博に出かけてしまう。博打に勝つと給与を渡すが、負けると払わないこともあったという。現代ならばとんでもないことであるが、昔はそういうこともあったようである。
1916年このバンドはニューヨークのウィンター・ガーデンに出演し成功をおさめます。この成功に着目したヴィクター・レコードは、レコード吹込みの契約を申し出ました。ところがこの話をケパードは断ってしまう。そして、ジャズ史上の最初の録音は1917年O.D.J.B.という白人グループによって行われることになるのである。
しかし、ガンサー・シュラー氏によると、彼を二代目ジャズ王と呼ぶ人たちがいたことも確かで、かのジェリー・ロール・モートンはキング・オリヴァーよりもルイ・アームストロングよりもこのケパードを高く評価していたという。
さらにシュラー氏はこう記す。「フレディ―・ケパードが、ジャズの本格的録音の開始(1923年)よりも10年前に優れた演奏をしていたと想定することは可能である。確かにその可能性はある。しかし証拠がない。黒人演奏家と白人のレコード会社の間に壁を置いた不幸な時代状況のために、我々はその証拠を永久に奪われてしまった」と。シュラー氏は彼の優れた演奏が記録されなかったのは人種差別のためで、白人が支配するレコード会社が、黒人の彼の演奏を録音しようとしなかったからであると結論付けている。
そして油井正一氏は次のように述べます「現代において、ケパードを高く評価するのには無理がある。なにせケパードの録音は全て彼の没落期に行われ、1日に密造酒を半ガロンから3/4ガロン飲んでヘベレケの状態での録音だからである。」

<Date & Place> … 1924年1月21日 リッチモンドにて録音

<Personnel>…クックズ・ドリームランド・オーケストラ (Cook’s dreamland orchestra)

Band leaderドク・クックDoc Cook
Cornetフレディ・ケパードFreddie Keppardエルウッド・グラハムElwood Graham
Tromboneフレッド・ガーランドFred Garland
Clarinetジミー・ヌーンJimmie Nooneクリフォード・キングClliford King
Alto saxジョー・ポストンJoe Poston
Tenor saxジェローム・パスクォールJerome Pasquall
Violinジミー・ベルJimmy Bell
Banjoスタン・ウィルソンStan Wilson
Bbビル・ニュートンBill Newton
Drumsフレッド“タビー”ホールFred “Tubby” Hall

<Contents> … "The chronogical/Jimmie Noone 1923-28"(Classocs records 604)&"Archive of Jazz/Freddie Keppard"(BYG 529.075)

CD-3シザー・グラインダー・ジョーScissor Grinder Joe
CD-4ロンリー・リトル・ウォールフラワーLonely little wallflower
CD-5ソー・ジス・イズ・ヴェニスSo this is Venice
CD-6モーンフル・マンMoanful Man
CD-7ザ・メンフィス・メイビー・マンThe Memphis maybe man
CD-8ザ・ワン・アイ・アイ・ラヴ・ビロングス・トゥ・サムボディ・エルスThe one I love belongs to somebody else

現在日本で、いや以前からだがケパードのレコードはあまり見かけない。僕が彼の名義で保有しているのは左のBYG盤だけである。それにもこのセッションは収録されているが、パーソネルが若干異なる。上記は右のジミー・ヌーンのChronological・CDに記載されたものだが、BYG盤との違いを記す。
1.BYG盤では、バンジョーのスタン・ウィルソンは加わっておらず、ピアノにトニー・スポールディング(Tony Spaulding)なる人物が加わっていることになっている。しかし音を聴くとピアノの音はCD-5「ソー・ジス・イズ・ヴェニス」とCD-8「ザ・ワン・アイ・アイ・ラヴ・ビロングス・トゥ・サムボディ・エルス」で一瞬だが確かに鳴っているが他曲では聴こえない。
2.BYG盤では、ドラムスはタビー・ホールではなくバート・グリーン(Bert Green)となっている。
いずれが正しいのかは僕には判断できないので双方を記しておく。
なお、BYG盤には重複する4曲しか収録されていないので、こちらを主としよう。
CD-3「シザー・グラインダー・ジョー」
ベルのような音で始まる。ケパードの熟練のミュート・ソロの後ヌーンのソロそしてこの時代らしくパスクォールのタンギングによるソロ、再びケパードのミュート・ソロが続く。ケパードのミュート・プレイは見事である。
CD-4「ロンリー・リトル・ウォールフラワー」
BYG盤未収録。余りジャズらしくない曲で、コルネット、クラリネットのソロはない。アルトが活躍しているがこれはヌーンか?
CD-5「ソー・ジス・イズ・ヴェニス」
ケパードのワウワウ・ミュートのコルネットの熟練した技を聴くことができる。ヴェニスに題材を取った異国情緒の溢れる曲。ここでもピアノの音が聞こえる。
CD-6「モーンフル・マン」
BYG盤未収録。アンサンブルが面白い。ヌーンも大きくフューチャーされており美しい音色を聴くことができる。ケパードもミュート、オープンでと活躍している。
CD-7「ザ・メンフィス・メイビー・マン」
テナー・サックスがフューチャーされる。ケパードはオープンでのプレイに徹し、アンサンブルをリードし、最後に短いソロを取る。
CD-8「ザ・ワン・アイ・アイ・ラヴ・ビロングス・トゥ・サムボディ・エルス」
ヌーンがフューチャーされる。ヌーンの後ケパードの短いソロが入る。わずかにピアノの音がする。

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