ジャズ・ディスク・ノート

第1回2013年5月1日
マイルス・ディヴィス「ザ・ビギニング」

散歩道の4月

ご覧いただきありがとうございます。中年オジサンの僕「のたり庵」のジャズ学習帳です。

このたび初めてホームページ作りに挑戦しました。HTMLを書く、スタイルシートで編集するって難しいですね。何度もくじけそうになりましたが、何とかアップにこぎつけました。本来は3月にアップする予定でしたが、この時期になってしまいました。

さて、僕は高校生時代にジャズを聴き出したのですが、ずっと聴き続けたわけではなく途中長いブランク期間があります。そして約10年ほど前にまたジャズに戻ってきました。トータルのキャリアは余り長くありません。そんなオジサンが改めてジャズを聴き、感じたこと、学んだことを気ままに記すノートです。

散歩道の花

さて、今年の冬は寒かったですね。でも3月に入ってから一気に暖かくなってきました。冬が終わり春めいてくるとホッとするのは、寒さが苦手の僕だけでしょうか。僕は春風が大好きです。外に出てふわっと春の風に包まれると、全てが和んできます。「春の海ひねもすのたりのたり哉」は与謝蕪村の有名な句で、これは春になると海がのたりのたりしていると歌っていますが、僕はちょっと変えて「春風や吹いてひねもすのたり哉」です。我が家には縁側はありませんが、縁側に横になり春の陽を浴び、春の風に包まれればこの世は天国です。拙いサイトですが、見ていただいて少しでもほんのりとできるようなサイトつくりを心掛けていきます。

ところで、現在日本の企業の多くは60歳定年制を取っているのではないかと思います。僕は、会社勤めで、先月満59歳を迎えました。ということは来年定年を迎えることになります。ただニュースなどによると65歳まで雇用が義務化されたとも聞きます。僕は中小企業どころではなく零細企業に勤めるサラリーマンですが、この制度改革は現実にはどのように適用されていくのでしょうか。そんなことも折に触れて綴っていきたいと思います。

「イン・ナ・サイレント・ウェイ」ジャケット

僕が勝手に師と仰いでいるジャズ評論家の粟村政昭氏は、高校卒業前(1950年ころ)突然ジャズに目覚め「ひとつ、ジャズなるものを聞いてみよう」と思い立ちジャズの深みに嵌り込んだそうです。 僕の場合は、小学生の時に友達の影響で、ビートルズ、ベンチャーズと出会って夢中になり、中学時代はリズム&ブルース(R&B)が好きになり熱中するという感じで音楽を聴いていました。そして高校に入って「高校生になったんだから、そろそろジャズを聴かなければ…」という義務感から自主的にジャズに近寄って行きました。その頃ジャズは、ロックやR&Bより高等な音楽という偏見を持っていました(今は持っていないのでご勘弁を)。とはいえどこからどう近寄っていったらよいか分かりません。ジャズ好きの親兄弟、親戚、友達もいません。そこで僕が頼りにしたのは、今は無き雑誌「スイングジャーナル」でした。なぜスイングジャーナルというジャズ専門雑誌を知っていたかというと、そもそもポップスが好きだった僕は、ごくたまに「ミュージックライフ」、「ティーンビート」という洋楽ポップスの雑誌を立ち読みしており、すぐそばに置いてある「スイングジャーナル」という雑誌がジャズの専門誌らしいと察しをつけていました。いつかこの雑誌を読むような人間になりたいと思っていたのですが、ついにその日が来たのです。

そして最初に買ったスイングジャーナルは既に手放しており、現在所有していませんが、特集だけははっきり覚えています。その特集を見て最初に購入するジャズ・アルバムを決めたのです。特集名ははっきり覚えていませんが、「マイルス・デイヴィスの新作“In a silent way”を聴く」というもので、内容はそのままマイルス・デイヴィスの新作が前作“FILLES de KILIMANJARO”と同様にエレクトリック色・ロック色を強めている、これは是か非かのようなことを何人かの評論家の先生が論じるというものでした。“In a silent way”は69年9月か10月の日本発売だと思うので、9月発売の10月号か、その前の9月号くらいだったろうと思います。

「キリマンジャロの娘」ジャケット

もちろん、他にも記事は当然あったのですが、はじめて聞く名前・言葉ばかりで何のことか全くわからず記憶にも残っていません。「マイルス・デイヴィス」という名前もその雑誌で始めて知りました。これは全く自信のない曖昧な記憶なのですが、話題の中心“In a silent way”に対しては、賛否両論でいわゆる問題作というような扱いをされていたと思います。僕は、専門雑誌で特集されるくらいだから、このマイルス・デイヴィスという奴はどうも大物らしいと見当つけたのです。その時の僕は取りあえずジャズのメイン・ストリームのものを聴きたいと思っていたので、この大物の問題作“In a silent way”、 “FILLES de KILIMANJARO”以外のアルバムであれば、ジャズの主流に位置するのではないかと考え、その辺りから聴いてみようと思ったのです。これが僕のジャズの入門の第一歩でした。。

そこで第1回は僕が初めて購入したジャズ・アルバムを紹介します。

第1回 Miles Davis ”The beginning"

マイルス・デイヴィス「ザ・ビギニング」レコード・ジャケット

マイルス・デイヴィス “ザ・ビギニング”

Miles Davis “The beginning” Prestige7221

1955年6月7日録音 Rudy Van Gelderスタジオ録音

<Personnel>

マイルス・デイヴィスMiles Davistrumpet
レッド・ガーランドRed Garlandpiano
オスカー・ぺティフォードOscar Pettifordbass
フィリー・ジョー・ジョーンズPhilly Joe Jonesdrums

<Contents>

A面
B面
1.ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン(Will you still be mine) 1.ア・ギャル・イン・キャリコ(A gal in calico)
2.アイ・シー・ユア・フェイス・ビフォ・ミー(I see your face before me) 2.チュニジアの夜(Night in Tunisia)
3.アイ・ディドント(I didn’t) 3.グリーン・ヘイズ(Green haze)
「カインド・オブ・ブルー」ジャケット

最初に買うアルバムは“In a silent way”、 “FILLES de KILIMANJARO”以外のMiles Davisのアルバムにしようと決めていたが、数多あるマイルスのレコードの中から、なぜにこれを選んだかというといわゆるジャケ買い、つまりジャケットに魅かれたのだ。このジャケットのマイルスの写真を見て欲しい。プレイに没頭し額から汗が滴り落ちる熱演、僕がそのころ勝手に想像していた正にジャズのイメージそのものだった。そもそも1969年当時出ていたマイルスのレコードでジャケットにトランペットを吹いている写真が使われているレコードはなかったと思う。“Kind of blue”のジャケットでトランペットを口に当てているが、あれは撮影用のポーズで吹いていないと思う。

ところでこのアルバムは、数あるマイルスのレコード・CDの中でひときわ地味な存在のような気がする。レコード評に取り上げられたところを見たことがない。何故か?しばらくの間不思議だった。当時もっていたシュワンのカタログにも載っていなかった。もしかしたらこれは非常に珍しい貴重なレコードなのでは?掘り出し物かも?高い値がつくかも?とヨコシマな高校生は思ったものだった。かなり後になって僕が中山康樹氏著「マイルスを聴け!」を購入したのもマイルス全作品を取り上げたというこの本でこのレコードの氏素性を確かめたかったからだった。

「ミューシング・オブ・マイルス」CDジャケット

しかし、マイルス研究者として名を馳せる中山氏の本にも載っていない、どうなっているんだろうと思って、何度も本を見直すうち、やっと全く同じ曲が収録されてあるCDがあることに気がついた。そのタイトルは「ザ・ミュージングス・オブ・マイルス」("The musings of Miles" Prestige7007)というものである。そこでこのCDを購入して聴いてみた、同じだ。6曲が6曲とも同じ演奏だ。どうして”The beginning”を”The musings of Miles”などというタイトルで再発するのだ、紛らわしいではないかと思ったが、どうも事情は逆で最初は”The musings of Miles”というタイトルで発売になり、その後”The beginning”というタイトルで発売、さらにその後CDを発売する時には元に戻したようだ。 どうもPrestigeに限らずジャズのレコード会社は、こういうことを頻繁かどうかは分からないがやるみたいだ。僕のような勉強不足な人はまた買ってしまう。そこが付け目か?もしそうだとしたらひどい話だ。関係ないが、シングル盤で発売した曲はLPには入れない、ファンには同じ曲を2度と買わせるのは申し訳ないという方針を曲げなかったビートルズなどとは全く違った発想だ(イギリスでのこと)。つまりジャズ界は鵜の目鷹の目で勉強しないと損をするということなのかもしれない(その後も何度もだまされましたが)。因みに割と最近、ディスク・ユニオンで”The musings of Miles”のオリジナル盤を売っていた。2万円だった。当然買えませんでした(涙)。

僕が勝手に師事している粟村政昭氏もその著書「ジャズ・レコード・ブック」において、このレコードには全く触れていない。師のもう一つの著書「モダンジャズの歴史」において、当時はウエスト・コースト・ジャズが全盛であり、東部の黒人ジャズマンは活躍の場も制限され、恵まれていなかったとし、このレコードと”Dig”のアルバム・カバーに、裸の上に粗雑な背広を羽織った写真を使っていることを当時の陽の当たらぬ黒人ジャズマンたちの生活の象徴として取り上げている。このCDジャケットはオリジナルのレコード・ジャケットと同じようだ。この背広は粗雑なんだろうか?ファッションの知識のない僕にはよく分からないのだが…。

まずこのアルバムの位置づけについて考えてみよう。このアルバムは1955年6月7日の録音で、この前のアルバムはというとMilesとセロニアス・モンクというピアニストの喧嘩セッションとして有名なセッションを収録したもの(“Bags groove”と”Miles Davis and the modern jazz giants”に分けてレコード化)で、録音日は1954年12月24日。約半年間空いている。因みに、このセッションはMilesとモンクの喧嘩が定説化されたような感があるが、Milesもモンクも喧嘩などしていないと言っている。多分世間は喧嘩した方が面白いのでそう言っているだけなのだろう。

そしてこのアルバムは、実はMilesの唯一のワン・ホーン・アルバムである。ワン・ホーンとは、リズム・セクションの他にリード楽器は一つだけということで、リード楽器奏者にとっては己の感性と技量のみが勝負といった極めて厳しい条件のものである。Milesのペット+リズム・セクションというトランペッターにとっての最小バンドと言える。ではなぜこの時期にこのようなバンドで吹き込みを行ったのかというと、Milesは自分のレギュラー・バンドを作りたかったのだと思う。これまでどちらかというとジャズでは、ビッグ・バンドはちょっと違うと思うが、恒常的なバンドという考え方は少なかったのではないかと思う。いろいろなレコード会社の録音においても、リーダーをまず決め、後はその時その時でメンバーを雇って呼んで録音を行うというのが多いようだ。ライヴやツアーでも同様の感じがする。 ところでバンドを作る場合、最も基本になるのはやはりリズム・セクションだ。Milesは「俺のバンド」と言えるような、恒常的な鉄壁なバンド組むことを目指したのではないかと思う。そのためのまずはリズム・セクション選びを行ったのが、本アルバムではないだろうか?

前作のリズム・セクションのメンバーは、ピアノがセロニアス・モンクとホレス・シルヴァー、ベースはパーシー・ヒース、ドラムはケニー・クラークである。モンクは独立独歩の人で、自分の下でレギュラー的に働くような人間ではない。シルヴァーは後にも共演しているが、これもMilesの部下に留まるようなピアニストという感じはしない。パーシー・ヒースとケニー・クラークは、ミルト・ジャクソン、ジョン・ルイスと共にMJQ(Modern Jazz Quartet)を結成している(ケニー・クラークは55年に退団)。

フィリー・ジョー・ジョーンズ

先ずドラムは、当時はまだ新人の分類に入っていたのではないかと思うPhilly Joe Jones。彼はレコーディングとしては、1953年のPrestigeでのセッション(アルバム“Collectors’ item”収蔵)以来の共演となる。後にはマイルスの大のお気に入りになるドラマーで、奴は俺がやろうとしていることをすべて知っていて、的確にそれに応えてくれると最大限の評価をしている。

オスカー・ペティフォード

そしてベースのOscar Pettifordは、デューク・エリントンなどビッグ・バンドの経験が豊かだが、それだけではなくディジー・ガレスピーと最初のバップコンボを結成するなど、モダン・ベースの父とも言われる名手。一説によると、この録音時Pettifordは、他のメンバーと折り合いが悪くこの録音ではわざと音をはずしたり、タイミングをずらしたりしているという。そしてそういう気に入らない連中とは2度と共演しないという。これでは次作以降では使えない。この後2、3作後からは、ベースにはポール・チェンバースが入りレギュラー・メンバーとなる。。

レッド・ガーランド

そしてピアニストはPhilly Joeの紹介で新人のRed Garlandを試し、決定した。そのいきさつについてマイルス本人は、「このThe musings of Milesは、ちょっとしたレコードで、アーマッド・ジャマルからの影響がモロに出ている」、「俺は、アーマッドのように弾けるピアニストを探していた。それでPhilly Joeから紹介を受けたRed Garlandを使うことにしたのさ」と言っている。

このアルバムがアーマッドの影響が強いことは、”The beginning”のライナーノートにも書いてあるし、本人も認めているので、顕著なのだろう。アーマッドは特にA面1Will you still be mineとB面1A gal in calicoはよく演奏していたらしい。僕自身はアーマッドのこの演奏は聴いたことがない。このアーマッド・ジャマルというピアニストはマイルス・ファンには知名度が高い人だが、日本ではそれ以外ではそれほど聴かれていないのではないか、出ているレコード・CDは数少ないようだ。では、マイルスはアーマッドの何が気に入っていたのかというと、「旋律的な控えめさと軽さ」と言っている。

さて、僕はレコードを持って家に帰り、早速家のステレオ(当時普及していたセパレート・タイプと言われるもの)のターンテーブルに載せて針を置いた。1曲目Will you still be mineはPhilly Joeのたたき出す4ビートに乗って、イントロなしでマイルスのペットがテーマをいきなり吹きだす。スインギーだ。しかし、最初に感じたことはこの時代のジャズでは、一番多いあのチャンチャカチャンチャカという能天気なシンバルがうるさいということだ。もっとデリケートに出来ないのか、一本調子にムキになって叩いているようにしか感じられなかった。僕はしばらく、なぜPhilly Joeが高評価されるのか分からなかった。でもこのチャンチャカチャンチャカがリード奏者を鼓舞するのだろうか?しかし最近はそう感じなくなった。慣れたのだろうか?それとも高校時代聴いていたステレオのせいなのだろうか?CDを最初に聴いた時にはシンバルがうるさいとは感じなかった。だからCDの方が、音が良いとは思わないのだが…。このレコードとCDとの音の違いは実は重要なことだとは最近知った。そもそもこの録音を担当した高名な録音技師ルディー・ヴァン・ゲルダーがCD化に当たってリマスターしたといっているのだから音が変わっていて当然なのだがが…。このことはまた別の機会に!

1曲目Will you still be mineは、作曲家兼シンガーでもあるマット・デニスの作品。オープンで吹くマイルスは非常に軽快で、原曲のメロディーを発展させて明快な素晴らしいソロを取る。レッドのピアノ・ソロもいい感じだ。ピアノ・ソロに移るときドラムは、ブラシにチェンジするのも非常にいい感じだ。フィリー・ジョーのブラッシュ・ワークも素晴らしいと思う。僕はこのアルバムのベスト・テイクだと思う。

2曲目I see your face before meはしっとりしたバラッド。マイルスは情感に浸りきったようなミュート・ソロをとる。レッドのピアノもリリカルで素晴らしい。

3曲目I didn’tはマイルスのオリジナル。 ”The beginning”のライナー・ノートを書いているジョー・ゴールドバーグはセロニアス・モンクの代表曲の一つ“Well you neednt “へのアンサー・ソング的な意味合いがあると述べている。これは前回のセッションのことを思い浮かべているのだろうか?“Well,you needn’t “(お前は要らないんだろ?)に対してI didn’t(要らないよ)ということか、本当かなぁ?また、ベースのオスカーがわざと音やタイミングをはずしたりしていると聞いてからどうも気になって仕方がない。この曲のマイルスのソロのバック、レッドのソロのバックで、それまで刻んでいた4ビートを崩した不思議なフレーズを弾くがそれがそうなのかなぁなど考えてしまっている。

B面1曲目A gal in calicoはとても覚えやすい親しみやすいナンバー。マイルスのペットも楽しそうに響いている。アーマッドの愛奏曲という。

2曲目は先輩ディジー・ガレスピーの名曲Night in Tunisia。中山氏はこんな寂しい「チュニジアの夜」はイヤだと書いているが、確かにワン・ホーンのクアルテット向きの曲ではないような気がする。とはいえ、そう思うのはかの有名なテーマの部分だけで、アドリブに入ってしまえば余り関係ない感じもする。エンディングがなんかちぐはぐな感じもするが、ここがペティフォードの仕掛けかもしれないなぁなどと思いながら聞いている。

最後のGreen hazeはマイルスのオリジナルのスロー・ブルース。そういえば、以前にはBlue hazeというオリジナルがマイルスにはあった。

”The beginning”のライナー・ノートには、この録音はかの有名なニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの後ではなく、前の録音だと強調している。この辺りのことはまた別機会に触れたい。

高校1年の時、初めてこのジャズのLPを買い、しかも次々に買うお金があろうはずもなく、当分はこのLPばかりを聴いて過ごしていたことがとても懐かしい。

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第2回2013年5月3日
デイヴ・ブルーベック「タイム・アウト」

新緑の散歩道

ご覧いただきありがとうございます。僕はジャズ・ファンですが、ジャズ・マニアとまでは言えないと思います。ファンとマニアとではどう違うのかというと、明確に区別はできないでしょうが、マニアは熱狂的なファン、全く躊躇せず三度のメシよりジャズが好きと言い切れる人かなと思います。僕はジャズは好きですが、ジャズ以外に好きなものがないかというとそうでもありません。 またそれほど数多くのレコード・CDを持って聴きこんでいるわけでもなく、本などを読んで研究に余念がないというわけでもありません。また、他の人より卓越した聴く耳があるというわけでもありません。
散歩道の花 では、どうしてジャズのサイトなどを立ち上げたのかということを始めのうちに書いておこうと思います。一言で言うと「ジャズ評論家の真似事がしてみたかった」のです。
ではなぜジャズ評論家の真似事がしてみたかったのかというと、ジャズがマイ・ブーム第1期(高校・大学時代)のころスイング・ジャーナル誌などにミュージシャンやその録音にまつわる薀蓄などを並べつつレコード評などを書いている評論家の方々がものすごくカッコよく思え、「よし俺も大きくなったらジャズ評論家になる」と思い込んだことがありました。
その後興味がコロコロ変わりすっかり忘れていたのですが、またジャズを聴きだした最近のマイ・ブーム第2期の現在ふと思い出したのです、「そうだ、俺はジャズ評論家になりたかったんだった…」。といってジャズ評論家になれるわけもありません。残念ながら、それほど知識もないし卓抜たる審美眼(耳かな?)を持っているわけではないことを自分でよく承知しているからです。
でも何か書いてみたい、人に迷惑を掛けないような形でレコードやCDを批評してみたい。昔なら、自費出版でジャズ評論などを出版するという方法しかなかったのでしょうが、今はこのホームページという手法があるではないか、これなら出版などという多額な費用も要らず興味を持った人だけが見てくれると思いついたのです。そんな全く個人的理由でこのサイトは立ち上げようとし、そんなことを意識しながらレコードなどを聴いていくうちに否応なく気づかされたのは、「いかに自分がジャズを知らないか」ということでした。
しかし何かしたいという気持ちもあり、「僕のジャズ学習帳」ということで、まだまだ初心者の僕がそのレコードやCDをどう聴いたのか、そのレコード・CDの成り立ち、ミュージシャンのことなどをわかる範囲(狭いですが)でまとめておこうと思うに至りました。
そんなことから「入門者が学習しているところを見ても面白くないという」という方、自分はよく聴きこんでいるぞ、ジャズに一家言持っているぞという方には、深い知見もないこのサイトは何の役にも立たず面白くもないと思います。しかしジャズを聴き始めたばかり、これから聴いてみようという方には、こんなレコード・CDもある、こんな風に聴く人間もいるということで何かのお役にたつこともあるかもしれません。本当は、よくジャズをご存知の方に見ていただいて、「これは違うぞ、これはこういうことなのだ」とご指摘いただくとありがたいのですが、これは図々しい望みというものでしょう。

ということで第2回です。

第2回 デイヴ・ブルーベック “タイム・アウト”

デイヴ・ブルーベック「タイム・アウト」CDジャケット

Dave Brubeck ”Time out"

Dave Brubeck“Time out” columbia CL1397

1959年6月25日、7月1日、8月18日録音。
1959年内にアメリカでは発売になったようだ。

<Personnel>

デイヴ・ブルーベックDave BrubeckPiano
ポール・デズモンドPaul DesmondAlto sax
ジーン・ライトGene Wrightbass
ジョー・モレロJoe Morellodrums

<Contents>

A面
1.トルコ風ブルー・ロンド(Blue rondo a la turk)
2.ストレンジ・メドゥ・ラーク(Strange meadow lark)
3.テイク・ファイヴ(Take five)
4.スリー・トゥ・ゲット・レディ(Three to get ready)
5.キャシーズ・ワルツ(Kathy’s waltz)
6.エヴリバディーズ・ジャンピン(Everybody’s jumpin’)
7.ピック・アップ・ザ・スティックス(Pick up the sticks)
「テイク・ファイヴ」EP盤ジャケット

前回人生最初に買ったジャズ・アルバムはMiles Davisの“The beginning”と書いたが、それはアルバムで、その前にもジャズのレコードは買ったことがあった。それがこのデイヴ・ブルーベックの”Take five“のシングル盤。なぜこのレコードを買ったかというと、中学時代に音楽の先生が聴かせてくれ、気に入ったからだった。
それが中学の何年生の時か思い出せないが、突然先生が「今日はみんなでジャズを聴いてみよう」といい、このシングル盤をかけたのだ。シングル盤だからA面「テイク・ファイヴ(Take five)」、B面「トルコ風ブルー・ロンド(Blue rondo a la Turk)」の2曲しかない。まずA・B面それぞれレコードを流し、そのあと先生が簡単な解説をし(覚えていない)、もう一度A・B面聴いて授業は終わりという流れだったと思う。
「テイク・ファイヴ」EP盤ジャケット裏面 当時この2つの曲に強烈に魅かれたという記憶はないのだが、レコードを買ってみようという気になったのだろう。先生もテイク・ファイヴはジャズでは異例の5拍子の曲で〜と解説したが、なぜ初めてジャズを聴く人が多いと思われる中で、「異例の曲」を紹介するのかよくわからなかったことと、その時まるでジャズなど知らなかった僕がトルコ風ブルー・ロンドで9/8拍子が4/4に切り替わる時「ああ、ジャズだなぁ」となぜか思った記憶がある。中学時代といえば真黒なR&Bファンだった僕が珍しくR&B以外のレコードを買ったのがこのシングル盤である。

コマーシャルに使われた(1980年代)こともあり、たぶん日本でもっとも有名なジャズ楽曲はこの”Take five”なのではないだろうか?確かに非常に覚えやすいメロディーだ。しかし、僕がジャズを積極的に聴きだした当時はBrubeckという人の評判はあまり芳しいものではなかったような気がする。スイングしないといわれ、頭でっかちの「ヒット曲はあるがあまりいいアーティストではないよなぁ」的雰囲気だったような気がする。実はこのアルバムを購入したのは結構後になってから、レコードではなくCDで購入した。そもそも買うかどうかで迷った記憶もある。あまりにも有名で、今更買うのもなぁ…という気になってしまうのだ。

まず、このレコードタイトルの“Time out”だが、ダブル・ミーニングで「調子っぱずれ」という意味と「時間切れ」という意味があるらしい。「調子っぱずれ」は、ジャズに多い4/4拍子ばかりではないということの自嘲した表現だろう。
また、このアルバムは、1959年6月25日、7月1日、8月18日の3日間で録音されている。ディスコグラフィーによると
1959年6月25日…5.Kathy’s waltz、4.Three to get ready 、6.Everybody’s jumpin’の3曲。
      7月 1日…3.Take Five、2.Strange meadow lark の2曲
      8月18日…1.Blue rondo a la Turk、7.Pick up sticks の2曲
この2か月弱の間に他のアルバムも録音している。同じメンバーで“The Riddle”(CL1454)である。しかし発売はこの“Time out”が早い。それだけ吟味されて作られたアルバムということなのだろうか。なぜ時間がかかったのか、或いは時間をかけたのか?これだけ有名なレコードなのにこの辺りの事情がよく分からない。プロデュースは3か月後にMiles Davisの”Sketch of Spain”を担当し、以後15年にもわたってMilesを担当することになるテオ・マセロ(Teo Macero)だ。

1.Blue rondo a la turk
  9/8拍子で始まり、途中9/8と4/4の交換となり、4/4でDesmondそしてBrubeckのソロとなる。そしてまた9/8と4/4の交換があり、テーマの9/8に戻る。確かに通常のジャズには珍しいパターン。ここでのDesmondそしてBrubeckのソロは気に入っている。Brubeckのソロは後半に進むほど音数が少なくなる。
2.Strange meadow lark
  Brubeckのゆったりした長いルバート風のイントロで始まる。アルバム中最も長い曲。標題の”meadow lark”は雲雀のことらしい。美しいメロディーを持った曲だとは思うがちょっと冗長な感じがする。
3.Take five
  5/4拍子。このアルバム唯一のPaul Desmondの作曲。ジャズでは珍しく、ポップスのビルボード・ランキングで25位まで上がった。これもダブル・ミーニング。「5拍子を取る」と「5分休憩」という意味を掛けている。この曲はもうすでに50年以上前の演奏だが全く古い感じがしない。何故古ぼけないのか考えてみた。それは究極のシンプルさにあるのではないだろうか。サンプリング・マシーンなど当たり前の昨今だが、当時そんな機械はない。Brubeckはまさに5分30秒弱の演奏時間中ほぼ同じパターンを繰り返し、一切崩さない。これはこれで難しいと思うのだが…。このBrubeckの作り出すリズム・パターンに乗ってDesmondのプリティーなアルトが美しく、Joe Morelloのソロも効果的だ。
4.Three to get ready
  一見というか一聴普通の3拍子のようにも思えるが、4拍子も混じった複雑なリズムの曲。で、面白いかというと…。
5.Kathy’s waltz
  Brubeckのお嬢さんに捧げた曲。普通の4拍子でスタートするが、途中からピアノが3拍子ノリになり、ドラムとの絡みが複雑になる。変な曲、落ち着かない曲という印象を僕は受けるのだが。
6.Everybody’s jumpin’
  6/4拍子の曲。
7.Pick up the sticks
  これも6/4拍子の曲。ベースのGene Wrightが、Take fiveのピアノのように6拍子のパターンを決めて弾いている。

この他にもBrubeck変拍子のジャズ・アルバムをリリースしているが、粟村氏はドラムの才人Joe Morelloの才能の浪費であると述べている。確か不自然さを感じさせないのは、Wright、Morelloのリズム隊の腕によるだろう。リズムに工夫を凝らしまくっていることはわかるが、はっきり言って僕は1枚通しで聞くのはちょっとつらいレコードではある。

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第3回2013年5月12日
キャノンボール・アダレイ「ライブ!」

新緑の美濃の寺

うだつのある屋根

ご覧いただきありがとうございます。4月の中旬に所用があり、岐阜の関・美濃近辺に行ってきました。新緑がまぶしいくらいにきれいでした。観光目的ではなかったのですが、ちょっとだけ「うだつの街」として有名な美濃の古い街並みを歩いてみました。

うなぎ「辻屋」

関市の名店うなぎの「辻屋」で夕食です。僕は、東北の出身、東北のうなぎは関東タイプで、蒸してから焼きます。しかし、岐阜のうなぎは関西風で蒸さずに焼きます。ちょっとパリッとした食感です。でもうなぎが取れなくなったことの影響でしょう、値段が滅茶苦茶高くなりました。今では上だと、3500円くらいしました。ビックリしました。

「ワークソング」EP盤ジャケット

前回中学生の時にDave Brubeckの”Take five“のシングル盤というかEP盤を買ったことを書きました。実は、その他にも買ったジャズのレコードがありました。これもシングル盤というかEP盤です。 僕はどこでどう知ったか全く記憶がないのですが、ナット・アダレイの作った”Work song”という曲が好きで、中学生のころだったと思うがレコード・ショップに探しに行ったのです。その時見つけた”Work song”は2種類、1枚はオスカー・ブラウン・ジュニアという人が歌っているシングル盤とこのキャノンボール・アダレイという人(当時は何をする人か知らなかった)のEP盤で、この曲が歌ものということに違和感があり、キャノンボール盤を購入したのです。正解でした。この”Work song”は素晴らしいと思います。キャノンボールは何度もこの曲を録音していますが、このヴァージョンが最高だと思います(すべて聴いているわけではないけど…)。 長い間この演奏はこのEP盤しか持っていませんでした。それはこの曲が入ったLPがなかなか見つからなかったのです。そして6、7年前にネットで見つけて購入することができました。今ではEMIのジャズ名盤復刻シリーズ「JAZZ名盤999FORECAST」シリーズの1枚として復刻されお求め易くなっています。

そこで第3回は僕が初め探し求めて購入したジャズ・アルバムを紹介します。

第3回 キャノンボール・アダレイ “ライヴ!”

キャノンボール・アダレイ「ライブ!」レコード・ジャケット

Cannonball Adderley ”Live !"

Cannonball Adderley “Live !” Capitol ST 2399

1964年7月31日〜8月2日録音 Hollywood "Shelly's Manne-Hole"にてライヴ録音

<Personnel>

キャノンボール・アダレイCannonball Adderley Alto sax
ナット・アダレイNat AdderleyCornet
チャールス・ロイドCharles LloydTenor sax & Flute
ジョー・ザヴィヌルJoe ZawinulPiano
サム・ジョーンズSam Jonesbass
ルイス・ヘイズLouis Hayesdrums

<Contents>

A面
B面
1.悲しい目をした少年(Little boy with the sad eyes) 1.スィート・ジョージア・ブライト(Sweet Georgia bright)
2.ワーク・ソング(Work song) 2.ザ・ソング・マイ・レィディ・シングス(The song my lady sings)
3.テーマ(Theme)

このアルバムは6管制を取っていた当時のCannonballのコンボのテナー奏者がユーセフ・ラティーフからCharles Lloydに変わり、またレコード会社もRiverside(64年倒産その影響か?)からCapitolに変わった初めての録音である。しかし発売は4枚目。アルバム全体として、熱気を帯びた実にライブらしい長尺の演奏で各自のソロもたっぷり聴ける好盤だと思う。

最初にこのEP盤を買ったのは中学時代なので1966年〜68年(早生まれなので)の間である。しかしなぜその時代にこの録音の抜粋がEP盤としてわざわざ日本で発売されたのだろうか?推測でしかないが、それは66年に再来日を果たすCannonballに便乗して売ろうというとしたことが考えられる。アルバム発売しても売れるかどうかわからないが大ヒット曲の“Work song”の最新録音として売ろう、あわよくばLPも売ろうということではないかと思われる。 またこのメンバーを見て欲しい。亡くなった人が多いが、その後一家を成す大物が目白押しだ。それぞれのメンバーにとってのこのアルバムという見方をしてもそれなりの曰く因縁が浮かんでくる。

「ワークソング」レコードジャケット

大将のCannonballとNatは、兄弟仲が良いことで知られているが、一度二人でコンボを組むがうまく行かず、解散。兄はMilesに認められてそのコンボに加わる。弟はフリーとして色々なバンドやセッションに加わって経験を積む。そして兄弟は再び59年に一緒にコンボを組むのである。NatはNatで兄とは別にRiversideと契約し、1960年“Work song”で大ヒットを飛ばす。Natはなぜ仲良しの兄のコンボで最初にレコーディングをしなかったのだろう。発売前はこれほどのヒットになるとは思わなかったんだろうか。

またCannonballはこの時代テナー・サックスを加えた3管制にこだわっているように見える。半年前まではテナー、フルートに堪能でオーボエまで吹くユーゼフ・ラティーフをメンバーに加えていた。ユーゼフ・ラティーフは回教徒なのでこういう名前だが、本名はビル・エヴァンスというどこかで聞いたことのある名前のれっきとしたアフリカン・アメリカンであり、独立独歩の怪人ともいわれている人である。その後釜としてCannonballはチコ・ハミルトンのコンボで音楽監督をしていたCharles Lloydを引き抜く。そしてそのLloydが加わった最初の録音がこの“Live!”である。

ピアノのJoe Zawinulはまだこの頃は知る人ぞ知るの新人に近い存在で、後にCannonballのコンボでこれも大ヒットしたファンキー・チューン「マーシー・マーシー・マーシー」を作曲する。退団後Milesのバンドに呼ばれ、ウエイン・ショーターと「ウエザー・リポート」を結成する人物である。

要は、大将のCannonballは別格とし、ベース、ドラムを除いた2人はそれぞれ才気煥発、それぞれ曲も作るし自他ともに才人という自負がある人々であり、それなりに自己主張も強い。そのことがA面Nat、B面はLloydということになって表れていたのだろう。この作品は色々な才能が交錯する作品としても実に興味深い1作と言えるだろう。

では具体的に曲を見て行こう。 A-1は、“Little boy with sad eyes”(悲しい目をした少年)というタイトルは何となくジャズっぽくなく才人Lloydの作品のようだが、実はCannonballの弟Natの作品。ジャズとしては異色の構成の曲と思う。 イントロをLloydのフルートとZawinulのピアノで始め、ピアノの中音から低音主体のダッダーンというパターンが基調になっている。テーマも少し変わったメロディーで、ソロに入ってまずはNatのコルネット、<ダッダーン>で繋ぎ、Cannonballのアルトソロ、<ダッダーン>Lloydのテナー、そしてテーマに戻り、エディンディングもLloydのフルートで締める。

A-2はマイ・フェヴァリット”Work song”である。”Work song”はファンキー・ブームの代表曲として知られるが、作はNatで1960年1月27日にRiversideの自己名義のアルバム”Work song”(Riverside 12-318)で録音を果たしている。因みにその時のメンバーは、ブラス、ホーン系はNatのコルネットのみで、Cannonballは参加していない。その後Natは兄のコンボに参加し、同曲もCannonballのコンボの看板曲となっていくのである。
演奏は、Cannonballのアルトのルバートから始まる。そしてテーマに入るが、まさにゴスペル由来の伝統“call & response”の典型のようなテーマだ。そしてアルトがテーマの”call“を吹き、コルネット、テナー、ピアノの“response”が入るときはゾクゾクする。このピアノが効いていると思うが、この録音以外でZawinulは“response”に参加していない。ここがファンキーなのにと思うのは僕だけか?ソロは最初にCannonballのアルト、メロディーのあるフレーズで素晴らしい。続くNatのコルネットによるソロもハードだがメロディアスだ。実に聞き応えのある出来だと思う。

B面は一転してLloydの曲が並ぶ。B-1Sweet Georgia brightは、スタンダード曲の“Sweet Georgia brown”のもじりだろう。”ぶっ飛ばし”といってもよいような急速テンポの曲。テーマが終わるとLloydのエキサイティングなソロ、ついでNatがこれまた激しい演奏で迫ってくる。

B-2 The song my lady singsは一転した実にゆったりとしたバラード。このLP最長の15分に及ぶ。まずCannonballがゆったりとたっぷりと歌い上げる。次いでNatが情感たっぷりにミュート・プレイを繰り広げる。次いで本作で唯一のソロをZawinulが取る。シングル・トーン中心のエモーショナルないいソロだ。ジャズに関する著作も多い作家の村上春樹氏はその著「ポートレイト・イン・ジャズ」でこの曲におけるキャノンボールのソロは理屈を超えて胸に迫るものがあると述べている。

EP盤の解説者岩浪洋三氏がこのアルバムは、キャノンボールがキャピトルに移籍して4枚目の発売になるLPと紹介している。しかし録音は移籍後初録音である。僕は、どうもレコード会社の戦略というのがわからない。レコード番号でみるとCapitol SM 2399。このレコーディングは1964年7月31日‐8月2日にかけての録音で、この期間録音テープは回しっ放しだったらしい。それだけ力を入れたということか。しかしキャピトル移籍後初発売は、1965年録音の“Domination ” (Capitol ST 2203)、64年10月録音の“Fiddler On The Roof ”(Capitol ST 2216)が第2作、同じく10月録音で、歌手のErnie Andrews のバックを勤めた“Live Session!” (Capitol ST 2284)が3作目で、4作目が本作である。“Domination ”はオリヴァー・ネルソン指揮のオーケストラをバックにした作品。「こちらの方が売れる、これで流れをつかもう」ということなのだろうか。

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第4回2013年5月16日
グレン・ミラー「オリジナル・ベスト・コレクション」

5月初めの散歩道

GW終盤仙台の枝垂れ桜

ご覧いただきありがとうございます。僕が住んでいるところは関東地方の南部に当たります。トップの写真は5月初旬のいつもの散歩道ですが、新緑から初夏への移り変わりの装いです。ゴールデン・ウィークの終盤に出身地の仙台に遊びに行きました。ゴールデン・ウィークの序盤には桜は未だ見頃だったそうですが、さすがに終盤には花をだいぶ落としていました。

ビートルズのEP盤

前回のキャノンボール・アダレイ、前々回のデイヴ・ブルーベックでEP盤ということを書きました。最近の若い方はご存じないと思いますが、当時レコードは、シングル盤(ドーナッツ盤)、EP盤(コンパクト盤)、LP(アルバム)という主に3種類がありました。
右の写真は、ビートルズの初期の黄金のEP盤です。当時EP盤をコンパクト盤という言い方もありましたが、現在「コンパクト盤」というと通常CD(コンパクト・ディスク:CD)を思い浮かべてしまいます。ところでこのEP盤はアルバムにしか入っていない「ツイスト・アンド・シャウト」、それぞれ別のシングル盤として発売された大ヒット曲「プリーズ・プリーズ・ミー」、「シー・ラヴズ・ユー」、「抱きしめたい」が1枚で聴けるのです、素晴らしい!と思いました。しかしこのままだと「抱きしめたい」B面にしか入っていない「ジス・ボーイ」を聴くことができないので、改めて買いましたが…。

ヴェンチャーズのEP盤 左の写真は、日本では当時ビートルズと人気を二分したヴェンチャーズのゴールデンEP盤です。シングル盤(ドーナッツ盤)は直径7インチ(約17僉法∧厂味蔚覆困勅録、片面1曲なのでシングル盤、真ん中に大きな穴あったのでドーナッツ盤と言われていたと思います。プレイヤーでの再生は45回転でもっとも値段が安い(僕がレコードを買い始めた時は1枚330円だった)けど音質は良かったと思います。 EP盤(コンパクト盤)は、直径はシングル盤と同じ直径7インチ、再生は33回転で、曲の長さが短いポップス系は片面2曲入っていることがが多く、僕がレコードを買い始めた時は1枚500円でした。シングル2枚分の曲が入っていて、シングル盤2枚より安かったので、よく買ったが音質は良くなかった記憶があります。EPとはExtended Playの略で、「収録時間がLP(フル・アルバム)よりは短いが、シングルよりは長い」という意味だそうです。

LP(アルバム)のLPはLong Playの略で、当時一番収録時間が長く値段も高く、小・中・高校時代はもちろん、大学に入ってからも、なかなか簡単に買えるものではありませんでした。

そこで第4回はもう1枚だけEP盤を買ったアーティストのアルバムです。
2枚組なので2回に分けて紹介します

第4回 グレン・ミラー “オリジナル・ベスト・コレクション” 1枚目"

グレン・ミラー「オリジナル・ベスト・コレクション」レコード・ジャケット

Glenn Miller ”Original best collection Vol.1

Glenn Miller “original best collection” RA-9001〜9002 2399

1931年4月10日〜1942年7月15日録音 

<Personnel>

グレン・ミラーGlenn Miller Band master&Trombone
メンバー…略

<Contents>

A面
B面
1.ムーンライト・セレナーデ(Moonlight serenade) 1.イン・ザ・ムード(In the mood)
2.ミネトンカの湖畔(By the water of Minnetonka) 2.グレン・アイランド・スペシャル(Glenn island special)
3.サンライズ・セレナーデ(Sunrise serenade) 3.マイ・プレイヤー(My prayer)
4.茶色の小瓶(Little brown jug) 4.ジョンソン・ラグ(Johnson rag)
5.ランニン・ワイルド(Runnin’ wild) 5.スターダスト(Star dust)
6.ペーガン・ラヴ・ソング(Pagan love song) 6.ラグ・カッターズ・スイング(Rug cutter’s swing)
7.虹の彼方に(Over the rainbow)

いきなり縁起の悪い話で恐縮だが、昨年(2012年)会社で付き合いのある方の父親が亡くなり、告別式のお手伝いに伺った。亡くなられた方はちょうど90歳になられたところだったという。男性での享年90歳は大往生と言えるだろう。その方は生前ジャズが好きでことのほかグレン・ミラーがお気に入りだったという。それで告別式の間、お坊さんの読経の時は別にしてずっと「ムーンライト・セレナーデ」が低く流れていた。僕は受付を仰せつかっていたので、弔問客が途切れた間などに考えていた。ついついこの曲を口ずさみそうになった。自分が死ぬときは、自宅で「ムーンライト・セレナーデ」などが流れている中で夢を見るように、穏やかに息を引き取れたなら最高の往生ではないか。さらには本当にいい曲とはこういう曲ではないか、フリーだ、アヴァンギャルドなど言っても口ずさめない曲など音楽とは言えない、いや口ずさめる曲こそが本当に良い曲ではないか。

グレン・ミラーのEP盤

そこでふと思い出した、本当に最初に僕が買ったジャズのレコードはグレン・ミラーのコンパクト盤(EP盤)だったのだ。それが右の訳のわからないEP盤。僕はデイヴ・ブルーベックよりも、マイルス・ディヴィスよりも前にグレン・ミラーを聴いていたのだ。なぜか、それは貧乏だったが、音楽好きだった母が労音か民音のコンサートで自衛隊の軍楽隊のようなものがあり、そのコンサートに連れて行ってくれたからで、そこではグレン・ミラーの音楽が演奏されていた。僕ぐらいの世代では知らず知らずのうちにこの手の音楽を聴いていたのだった。

グレン・ミラーのEP盤裏

その後、ヴェンチャーズ、ビートルズ、ローリング・ストーンズその他のロック・ミュージック、そしてR&Bなどにはまり若いこともありマイルスやジョン・コルトレーンの音楽こそが真の音楽だと信じ込んだ時期があったが(長かった)、この歳になると美しいメロディーに魅かれるようになる。いやずっと美しいメロディーは好きだったのだ、美しいと感じる音楽が変わった、いや美しいと感じる音楽の幅が広がったのかもしれない。

一時期グレン・ミラーを離れたのは、余りにもポップな曲とソロに重点を置かなさすぎる、アドリブがほとんどないというものだったろう。このアルバムは、なんといってもアメリカン・ポップを代表する音楽の一つには違いないので、オリジナルの代表的な演奏だけでも持っていようと思って購入した。久しぶりに聴くと本当に有名曲ばかりでビックリする。因みに左のEP盤のジャケットの写真はグレン・ミラー本人ではなく、映画「グレン・ミラー物語」でグレン・ミラー役を演じた俳優ジェームス・スチュアートです。
さて、グレン・ミラー・オーケストラのレコードはいろいろたくさん出ているが、その中にはレイ・マッキンレーなどグレン・ミラー・オーケストラを引き継いだ人たちによる録音ものも多い。このアルバムはグレン・ミラーが亡くなって25周年の1969年にメモリアル・アルバムとして出たものを日本で一部曲目を入れ替えて編集したもので正にオリジナル・グレン・ミラー・オーケストラの決定版と言えるものだろう。

A-1 ムーンライト・セレナーデ Moonlight serenade 1939年4月4日録音
 言わずと知れたグレン・ミラー・オーケストラのオープニング・チューン。ミラー自身が作曲した3連符を効果的に使ったロマンティックなナンバー。クラリネットをサックス・セクションのリード楽器にするという斬新なアイディ アによりほかのバンドにはない洗練されたサックス・ヴォイシングでエレガントなメロディーが奏でられる。
映画「グレン・ミラー物語」によると、Tpのジョーが唇を怪我したためリード奏者がいなくなり、窮余の策としてク ラリネットがリードを吹いたことになっているが、当時Tpにジョーという名前の奏者はいない。んー、よく分からな い!サックス・セクションがメロディーをリードし、最初はTpはミュートでソフトにバッキングを行うがコーラスか らはオープンで吹く。A-3サンライズ・セレナーデとカップリングするためにこのタイトルにしたという。これはジ ャズかそうではないかという議論は昔からあったようだが、まあいいではないの、とにかく美しい曲。
A-2 ミネトンカの湖畔 By the water of Minnetonka 1937年11月29日録音
 アメリカ・インディアンの音楽研究家サーロウ・リューランスが21年インディアンの民族的な旋律をもとに書き、 J.M.キィヴァナスが歌詞の添え、セミ・クラシック的な歌曲としてアメリカでは広く知られている曲らしい。 ミラーがビクターと契約し、ブルー・バード・レーベルのために行った初吹き込み3曲のうちの1曲。25センチS P盤両面にわたる大作。グレンがジャズ・アレンジに取り組んだ意欲作。イントロの後2コーラスのアンサンブル、 Irving Fazolaのクラリネット2コーラス、ミラー自身のソロ、Pee Wee Erwinのトランペットソロ、Hal McKintyre のアルト・サックス・ソロが1コーラスが配される。
A-3 サンライズ・セレナーデ Sunrise serenade 1937年11月29日録音
 白人バンド・リーダー兼ピアニストのフランキー・カールが作曲し、カサ・ロマ・オーケストラの吹込みがヒットしていたが、名アレンジャービル・フィネガンのアレンジ、ミラーのリード・セクションの美しいサウンドで2か月後 に吹き込んだミラーの盤が追い越して大ヒットしたという。
A-4 茶色の小瓶 Little brown jug 1931年4月10日録音
 1869年にJ.E.ウィナーが書いたクリスマス・ソングで、カレッジ・ソングとして歌われたものをミラーが取り上げ、彼の楽団の初のミリオン・セラー・レコードとなった。編曲はこれもフィネガンの傑作で、ラストのリフ処理、音の 強弱でドラマティックな効果を上げている。 しかし、映画「グレン・ミラー物語」では、細君にとっては、この曲は2人の思い出であり好きで聞きたがっていた が、ミラーはどうも気が進まず放っておき、ムーンライト・セレナーデなどがヒットした後、細君へのプレゼントと してミラーがアレンジしたようなシナリオだったような気がする。
A-5 ランニン・ワイルド Runnin’ wild 1939年4月18日録音
 1922年ジョー・グレイ、リー・ウッド(作詞)、A.ハリントン・ギブスが共作したナンバー。ヴォードヴィルなどで盛んに歌われた曲という。非常に速いテンポのホットなナンバーに仕上げている。
A-6 ペーガン・ラヴ・ソング Pagan love song 1939年4月18日録音
 トーキー映画の初期に作られたMGM「異教徒(“The pagan ”1930)」の主題歌としてネイシオ・ハーブ・ブラウン が作曲したものという。原曲は3拍子だったらしいが、ここではアップ・テンポのキラー・ディーラー・スタイルで 演奏している。
A-7 虹の彼方に Over the rainbow 1939年6月27日録音
 MGM映画「オズの魔法使い(“Wizard of Oz “1939)」の主題歌でアカデミー主題歌賞を受賞した超有名スタンダード・ナンバー。作曲はハロルド・アーレン。ヴォーカルはレイ・エバール(Ray Eberle)で、美しいバリトン・ヴォ イスで人気があった人だという。割と速いテンポで演奏している。

B-1 イン・ザ・ムード In the mood 1939年4月1日録音
 グレン・ミラー楽団のトレード・マーク的な最大のヒット曲。作曲者はジョー・ガーランド。ガーランドはドン・レッドマン、ラッキー・ミリンダ―など黒人一流バンドに在籍サックス奏者兼アレンジャーとして活躍した。当時流行 のリフ・ナンバーでミラーのユニークなアイディアによるアレンジはサックスとブラスをコントラストさせた快適な アンサンブル、テックス・ベネキーとアル・クリンクのTsのバトル・ソロ(僕はこのオリジナルの他いくつかのミ ラー・バンドのヴァージョンを聴いたがサックスのフレーズはほぼ同じである)、ライド・ハーレイのTpソロに続く
ラスト・アンサンブルにおけるリフのfade-out-and-jump-back手法、2小節のストップ・タイムが大変効果的で ある。この曲は39年8月の録音であるが、41年にミラー楽団が映画「銀嶺セレナーデ」の中でも演奏、ショウ・バン ド的な演出でまたまたヒット・チャートをにぎわしたという。
B-2 グレン・アイランド・スペシャル Glenn island special 1939年4月1日録音
 ニューヨークの有名なボール・ルーム・グレン・アイランド・カジノのためにカウント・ベイシー楽団のトロンボーン奏者兼ギタリストのエディー・ダーハムが作曲したリフ・ナンバー。ミラー楽団のキラー・ディラー・ナンバーと なっていた。速いテンポの演奏で、Tp、Ts、Tbのソロがフューチャーされている。
B-3 マイ・プレイヤー My prayer 1939年11月5日録音
 1950年代にヴォーカル・グループ、ザ・プラターズがリヴァイヴァルヒットさせて日本でもおなじみの曲。原曲はジプシーのヴァイオリン奏者ジョルジュ・ブーランジェが作った“Avant de mourir”という曲で、1939年ジ   ミー・ケネディーがこの曲を基に作詞作曲し39年にヒットした曲という。これもレイ・エバールのヴォーカル・ナ ンバーであり、スイートなミラー・サウンドの典型的なものと言える。
B-4 ジョンソン・ラグ Johnson rag 1939年11月5日録音
 これもホットなダンス・ナンバー。Ts、Tp、Tbのソロがフューチャーされる。
B-5 インディアン・サマー Indian Summer 1939年11月5日録音
 オペレッタの作曲家ヴィクター・ハーバートが1919年にピアノ曲として作り、後にハーバート自身がオーケストラに編曲した器楽曲だが、アル・デュービンが歌詞を書き、歌曲化してその年のヒット曲となったという。まさに小 春日和(インディアン・サマー)を連想させるようなほんわかした曲。これもレイ・エバールのヴォーカル・ナン バーとして取り上げ、再びヒットさせたという。
B-6 スターダスト Star dust 1940年1月29日録音
1929年にホーギー・カーマイケルが作曲したポピュラーの名曲。スイング時代にはビッグ・バンドがこぞって取 り上げた。ミラー楽団では、テックス・ベネキーのTs、ジョン・ベストのTpのソロがフューチャーされている。
B-7 ラグ・カッターズ・スイング Rug cutter’s swing 1940年1月29日録音
 フレッチャー・ヘンダーソンの弟ホレスが作曲し、ヘンダーソン楽団のレパートリーとなっていたものを貰い受けたもので、ホレス・ヘンダーソンのアレンジがそのまま採用されているという。Rugは敷物で、Rug cutterとは敷物を 切ってしまう人ということで、激しいステップ踊る人をユーモラスに表現したもの。32小節形式のポピュラー・ソ ング型の曲で、Tb、Tp、Tsのソロを配したジャズっぽいミラー・サウンドの典型的な作品。

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第5回2013年5月19日
グレン・ミラー「オリジナル・ベスト・コレクション」Vol.2

5月中旬散歩道の初夏

エゴノキの花

ご覧いただきありがとうございます。余り変わり映えしなくて申し訳ないですが、最近の散歩道です。そろそろ初夏の装いが感じられます。最近デジタル・カメラが壊れてしまい、前回第4回の写真は携帯電話のカメラ、今回は1眼レフのカメラで撮影しています。違います?実は今回の撮影散歩は目的がありました。大好きなエゴノキの花を撮ろうと思ったのです。時期としてはちょっと遅かったかなという感じですが、何とか撮れました。僕の近くの森のエゴノキは大きく育ったものが多く、近距離からとれるものが少なく残念です。


2枚組の2回目です

第5回 グレン・ミラー “オリジナル・ベスト・コレクション” 2枚目"

グレン・ミラー「オリジナル・ベスト・コレクション」レコード・ジャケット

Glenn Miller ”Original best collection Vol.2

Glenn Miller “original best collection” RA-9001〜9002

1931年4月10日〜1942年7月15日録音 

<Personnel>

メンバー…略

<Contents>

A面
B面
1.タキシード・ジャンクション(Tuxedo junction) 1.チャタヌガ・チュー・チュー(Chatanooga choo choo)
2.ダニー・ボーイ(Danny boy) 2.真珠の首飾り(Astring of pearls)
3.ペンシルヴァニア6−5000(Pennsylvania six-five thousand) 3.アメリカン・パトロール(American patrol)
4.ビューグル・コール・ラグ(Bugle call rag) 4.カラマズー(I’ve got a gal in Kalamazoo)
5.アンヴィル・コーラス(Anvil chorus) 5.ジューク・ボックス・サタディ・ナイト(Juke box Saturday night)
6.ヴォルガの舟歌(Song of the Volga boatman) 6.ザット・オールド・ブラック・マジック(That old black magic)
7.サン・ヴァレー・ジャンプ(Sun valley jump) 7.セントルイス・ブルース・マーチ(St. Louis blues march)
グレン・ミラー物語DVD

初めて見たジャズ映画が「グレン・ミラー物語」でした。1953年製作で第27回アカデミー賞録音賞を受賞しています。ジャズ映画って何かというと、ジャズマンのことを取り上げた映画のことです(正式な用語ではありません)。この映画を見た時のことは覚えています。多分高校生の時だったと思います。でももちろんすべて覚えているわけではありません。主演のグレン役はジェームス・スチュアート似ているので起用されたようです。覚えているのは、初めから売れたわけではなくいい奥さんと結ばれること、有名な「イン・ザ・ムード」、「ムーンライト・セレナーデ」などの心地よいサウンドです。また、戦争で亡くなったことも印象に残っています。楽しげな軍隊での軍楽隊エピソードはあまり覚えておらず、飛行機に乗って飛び去った後、行方が分からなくなったということは覚えていました。トータルとしてみるととても楽しい映画です
その後しばらく見る機会はなかったのですが、最近はご覧のようにワンコインでDVDが買えます。改めて見直すと、事実と違うのでは?と思う部分もあるのですが、これは記録映画ではないので仕方ないでしょう。では何映画なのでしょう?エンターテイメントなんでしょうか?実は僕個人はよく分からないでいます。やはり印象に残っているのは、終盤パリに向かう飛行機に乗るが、その飛行機が行方不明になるという結末はハッピー・エンドのアメリカ映画らしくありません。グレンが亡くなったという方を受けて涙を見せる夫人ですが、あっと言う間に立ち直り、でもグレンの音楽は生きているという結末は強引にハッピー・エンドらしく装ったとしか見えません。

グレン・ミラー物語サントラ盤

改めてDVDを見て感じたことは、入隊関連のことで38歳で妻も子もいて、率いるバンドが人気絶頂のミュージシャンがなぜ志願兵として軍隊に入るのか、愛国心が強いのだと言われればそれまでですがどうも不思議でなりません。そして入隊時の地位が少尉、すぐに大尉になっています。いいのでしょうか?戦場で、最前線で命を張っている男たちを尻目に実戦を全く経験しない兵隊がいきなり少佐になってしまっていいのでしょうか?確かに軍楽隊の演奏中に爆撃機が飛来するというエピソードもありますが、取って付けたような感じを否めません。白人だから?黒人は怒りませんか? この映画はアメリカでも大当たりしたそうで、気をよくしたユニヴァーサル映画は2年後に「ベニー・グッドマン物語」を製作します。

C-1 タキシード・ジャンクション Tuxedo junction 1940年2月5日録音
これもミラー楽団の18番。黒人のトランぺッターでバンド・リーダーでもあるアーキンス・ホーキンスが作曲、自身の楽団で吹きこんでいるが、ミラー楽団のものが決定的な大ヒットとなった。近年でも白人ヴォーカル・グループのマンハッタン・トランスファーが歌いリヴァイヴァル・ヒットしている。 スイング・バンドの定石を破ったミラーの斬新なアレンジが功を奏している。ダンス・ナンバーとしても快適なテンポであり、サックスとブラスの短い交換、印象的なドラム・ブレイク、ラストのリフ・アンサンブルでサウンド強弱でドラマティックな効果を作り出しているなど、当時のダンス・ナンバーの型を破ったものと言える。

C-2 ダニー・ボーイ Danny boy 1940年2月5日録音
 アイルランド民謡“Londonderry air”で、ミラー楽団の代表的なスイート・ナンバー。ハリー・ベラフォンテの歌でもヒットした。クラリネットのリードするサックス・セクションのビューティフルなサウンドを前面に立てている。
C-3. ペンシルヴァニア6−5000 Pennsylvania six-five thousand 1940年2月5日録音
 1940年ミラー楽団が長期に出演したニューヨークのペンシルヴァニア・ホテルの電話番号を題材にしたノヴェルティ風のジャンプ・ナンバー。ミラー楽団専属の名アレンジャー、ジェリー・グレイの作曲で、メンバーによるヴォーカルが面白く取り入れられている。Tp、Tsのソロ・パートもあり、ポピュラーなジャズ・ナンバーとしてベスト・セラーになったが映画「グレン・ミラー物語」では愛妻ヘレンへの誕生日の贈り物として演奏されている。映画では、妻となるヘレンを強引にニューヨークに呼びついたらここに電話するようにとメモを渡す。そこに書いてあった電話番号で、結婚後ヘレンにプレゼントするように演奏する。ヘレンはもちろんこの番号の意味はよく分かり、他の人々がニンマリする2人を首をかしげてみている、2人にしか分からない軌跡の符号というところだろう C-4 ビューグル・コール・ラグ Bugle call rag 1940年4月28日録音
 1920年代初頭に白人ジャズ・バンドの草分けとして活躍したニューオリンズ・リズム・キングスのメンバーが合作した曲でスタンダード・ナンバーとなっているという。ベニー・グッドマン楽団も18番にしているが、ミラー楽団はスイートなミラー・スタイルとは異なり、ホットでワイルドな演奏を繰り広げる。Tb、Ts、Drのソロも白熱的で、こういう演奏が若いダンス・ファン、ジャズ愛好家に受けたことは想像できる。
C-5 アンヴィル・コーラス Anvil chorus 1940年12月13日録音
 ヴェルディの歌劇「ルイ・トロヴァトーレ」の中でアンヴィル(鉄床)を打楽器に使った有名なコーラスをジャズ化したジェリー・グレイのアレンジによるもので、当時SP2面に渡って収められたらしい。充実したセクション・サウンドを活用したアンサンブル・プレイにTs、Tp、Dr、Clなどのソロを配した「ミネトンカの湖畔」に次ぐ大作。
C-6 ヴォルガの舟歌 Song of the Volga boatman 1941年1月17日録音
 有名なロシア民謡をユーモラスにアレンジしたもの。アレンジはビル・フィネガン、ミュートによるTp、Tsなどのソロも聴けるが、後半手拍子をバックにしたTbセクションのフーガ風な扱いも面白い。 C-7 サン・ヴァレー・ジャンプ Sun valley jump 1941年2月20日録音
 映画「銀嶺セレナーデ」にミラー楽団が出演した時にジェリー・グレイが書き下ろしたジャンプ・ナンバーで形式はAA’BA32小節で、ビリー・メイのTp、ハル・マッキンタイアのClのソロがフューチャーされる。

D-1 チャタヌガ・チュー・チュー Chatanooga choo choo 1941年5月7日録音
 「サン・ヴァレー・ジャンプ」と同じく映画「銀嶺セレナーデ」のために書かれた主題歌の一つ。世界で最初のゴールド・ディスク授与曲となったほど大ヒットした。ハリー・ウォーレン(作曲)、マック・ゴードン(作詞)のノヴェルティ・ナンバー。映画では黒人アクロバット・タップのデュオ、ニコラス・ブラザーズが歌って踊る楽しい見せ場を作っていたという(見てません)。映画「グレン・ミラー物語」でも使われた。
レコードの方ではTs奏者テックス・ベネキーがヴォーカリストとしてコーラス・グループ、ザ・モダネアーズと掛け合いでユーモラスに歌っている。この曲もミラー楽団の大ベスト・セラーである。
D-2 真珠の首飾り Astring of pearls 1941年11月3日録音
 これもジェリー・グレイのオリジナルでミラー楽団の代表作の一つ。エレガントでロマンティックな曲想もさることながら、サックス・ブラス両セクションを見事にかみ合わせて歌い上げるメロディはダンスに最適で、中間にフューチャーされる寛いだTpソロはビックス・ベイダーベックの再来と言われたボビー・ハケットが吹いている。ハケットはミラー楽団で普段はギターを弾いていただけに彼のソロのは言った吹込みは珍しい。「タキシード・ジャンクション」とともにジャズ・アレンジとしても素晴らしい古典的名作で、これもベスト・セラーをマークした。
D-3 アメリカン・パトロール American patrol 1942年4月2日録音
 この曲は最近ではとんと聞かなくなったが、僕が、小学校時代運動会で必ずと言っていいほどかかっていた。19世紀にミーチャムという人が書いた曲でこれもジェリー・グレイがダンス・ナンバーにアレンジして評判になったという。演奏はサックス・セクションで出て、全体にアンサンブル演奏を基調としてミラー・スタイルの典型といえよう。
D-4 カラマズー I’ve got a gal in Kalamazoo 1942年5月20日録音
 これはミラー楽団が2本目に出演した1942年の映画「オーケストラの妻たち(“Orchestra wives”)」の主題歌としてハリー・ウォーレン(作曲)、マック・ゴードン(作詞)の共作した曲。これもベスト・セラーとなった。この吹込みはTs奏者テックス・ベネキーがヴォーカリストとしてコーラス・グループ、ザ・モダネアーズと掛け合いで歌うノヴェルティー風の演出である。
D-5 ジューク・ボックス・サタディ・ナイト Juke box Saturday night 1942年6月14日録音
 A.スティルマン、P.マクグランスが合作したノヴェルティ・ナンバー。解説によると、ジューク・ボックスからの音楽という形で、ハリー・ジェイムスそっくりのTpによる「チリチリピン」やコーラス・グループのインク・スポッツの18番「イフ・アイ・ディドント・ケア」が物真似風にフューチャーされているという。ユーモアにあふれた曲。
D-6 ザット・オールド・ブラック・マジック That old black magic 1942年6月15日録音
  ビング・クロスビー主演映画「スター・スパングルド・リズム(“Star spangled rhythm “)」の主題歌で、クロスビーやフランク・シナトラらのレコードが大ヒットしたらしい。ハロルド・アーレンの1942年のトップ・ヒット曲で、ここではスキップ・ネルソンのヴォーカル・ナンバーとして取り上げられている。この吹込みは42年7月15日に行われているが、この前後3日間の吹込みがオリジナル・グレン・ミラー・オーケストラの最後のレコーディングとなった。
D-7 セントルイス・ブルース・マーチ St. Louis blues march 録音日未定
 いわずと知れたW.C.ハンディのブルースの名曲をジェリー・グレイがマーチ風にアレンジしたもの。この演奏はミラーが志願して入隊、アーミー・バンドを結成してからの吹込みで、メンバーや録音日は明らかにされていない。アイゼンハワー元帥がこの演奏を聴いて大いに兵士の士気を鼓舞するものとして賛辞を送ったというグレイの編曲は普通の軍楽隊の演奏能力で十分演奏できるように平易な手法で書かれているという。マーチ・テンポの楽しさとジャズ風のフレイジングがマッチしており、第2次世界大戦中盛んに軍隊で演奏されたようで、映画「グレン・ミラー物語」でも空軍閲兵のシーンに使われていた。

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第6回2013年5月27日
エンリコ・ピエラヌンツィ「シーワード」

初夏の散歩道5月後半

ご覧いただきありがとうございます。前回まで割と古い録音のレコードやCDをご紹介してきましたが、僕だって、それほど新しくはないかもしれませんが、現役の現在も活躍中のアーティストの作品を聴くこともあります。
どうしてこういう幹に? 日本人はジャズでピアノ・トリオが好きな国民だといわれます。アメリカでは派手さがないためか余り好まれず逆に日本の影響を受けてよく聞かれるようになったという話を何かで読みました。ヨーロッパではどうなんだろう?ところで僕もピアノ・トリオは大好きです。ということで今回はヨーロッパ出身のピアニストのトリオ盤です。

第6回 エンリコ・ピエラヌンツィ ”シーワード”

エンリコ・ピエラヌンツィ「シーワード」CDジャケット

Enrico Pieranunzi ”Seaward"

 Soul note 121272RM-2

1995年3月3日、4日 ミラノ・MU REC Studioにて録音
CDナンバーのRM-2はRemastaredの2回目ということではないかと思う。

<Personnel>

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico PieranunziPiano
ハイン・ヴァン・デ・ゲインHein van de Geynbass
アンドレ・チェカレリAndre' Ceccarellidrums

<Contents>

1.Seaward
2..L’heure oblique
3.Straight to the dream
4.Footprints
5.The memory of this night
6.Yesterdays
7.Je ne sais quoi
8.This is for you / But not for me
9.Keywords
10.I hear a Rhapsody
11.What you told me last night
6枚組CDボックス

僕は、60年代終盤から70年代序盤にジャズに嵌り、25年くらいのブランクがあってまたジャズを聴きだしたのだが、復活してしばらくは皆目ジャズの現状が分からず、全く聞いたことがない名前のプレイヤーが目白押しだった(今でもその状況はあまり変わっていませんが)。そしてヨーロッパのジャズマンの進出ぶりにも驚いた。しかし考えてみれば四半世紀も離れればニュー・カマーがどんどん登場しているのは当然のことだ。そこで僕は、現在現役の誰か良いピアニストとピアノ・トリオはないものだろうかと少しばかりいろいろ聴いてみて、2013年現在最も気に入ったのがこのエンリコ・ピエラヌンツィとそのトリオ盤である。
ちなみに、僕はピアノ・トリオのどんなところというかどんなピアノ・トリオが好きなのかというと、ピアノ、ベース、ドラムが絡み合い、一体となってグイグイと迫ってくるようなダイナミズムのあるピアノ・トリオが好きなのである。まさにこのエンリコのトリオはそんな僕の嗜好にピッタリの演奏をしてくれるトリオなのである。 誰に言われたか、何で読んだのかは全く覚えていないが、ジャズに復帰してしばらくした後、「エンリコ・ピエラヌンツィというピアニストはなかなかいいよ」と言われCDを買ってみた。恥ずかしながら何を買ったのか覚えていない(痴呆症か?)そのCDには特に感心した覚えはないのだが、2,3年前あるレコード屋さんで6枚組のセットを見つけ割安だったので買ってみたうちの1枚がこの「シーワード」だ。6枚セットのボックスを開けてみて、特に意味はなく最初に聞いたのがこのアルバムで、「これはいい!」と思いお気に入りになった。そしてそれ以前に購入したアルバムを改めて聞き直すとやはり良いのである。この辺りが自分の耳が信用できないところだ。その後無理のない程度にエンリコのCDを見つけると購入している。
6枚組CDボックス裏面 エンリコは多作家で2013年現在70枚ぐらい自己名義のアルバムがあるという。僕は2013年現在で28枚保有しているが、どんなに気に入ったアーティストでもコンプリートに収集しようという性癖がないので、必死に集めるということはしないだろうが、今後も見つけたら買うということを続けるだろうと思う。 エンリコ・ピエラヌンツィのいいところは、自作だけではなくスタンダードなどカバー曲を適度に配しているところだと思う。オリジナルだけだとその曲が素晴らしいものであればよいのだが、そうばかりとは言えず、どれがテーマどう展開しているのかが分からないということもあるが、スタンダードのカバーの場合、原曲は知られているのでこの曲をどう展開するのかという楽しみがある。このアルバムでは、11曲中自作が曲、カバーが3曲、自作とカバーのメドレーが1曲である。

このアルバムは、オランダ出身のベーシスト/ハイン・ヴァン・デ・ゲイン、フランスの至宝と言われるドラマー/アンドレ・チェカレリとのトリオ演奏盤だ。僕はエンリコ作品の半分も知らないが、僕の持っているアルバムでこのメンバーでのトリオ演奏はこのアルバムだけである。
ということで内容です。


1. Seaward Seawardとは「海へ向かって」というような意味だろう。エンリコの作品で、抒情的というよりはなんか思索的な 感じがする。こういう作風は黒人にはない白人独特のものだと思う。意外にテンポは速い曲。
  2. L’heure oblique これもエンリコの作品。実にゆったりとした曲。この曲辺りも抒情というよりも思索性を感じてしまう。ベースの ヴァン・デ・ゲインも同じでこの辺は白人ヨーロッパ人トリオらしさが前面に出ている。7分半(7:46)を超す長 尺作品。この曲と7曲目の自作が英語題ではない。何語なんだろう?
3.Straight to the dream エンリコの作品。1、2曲目と同じように4ビート展開ではなく始まるが、途中ベースの4ビート・ウォーキングに乗 ってスインギーな展開も聴かれる。。
4.Footprints ウエイン・ショーター作の有名な作品。テーマからベース・ソロに移り、次にエンリコのアドリブとなるが、これ ぞまさに僕が最も好むピアノ・トリオの展開スタイル。ベース、ドラムが絡み合い、一体となってグイグイとダイ ナミックに迫ってくる。
5.The memory of this night 再びエンリコの作品。この曲には抒情的なものを感じる。意味合いとしては「この夜の記憶」ということなのだろ う。ラストの自作曲“What you told me last night”(昨晩君が僕に言ったこと)と関連性があるのだろうか?
6.Yesterdays ジェローム・カーンの名作。僕は初めCDジャケットなどを見ないで聴いたので分からなかった。原曲のメロディー を崩して弾いている。終わり近くになって聴いたことのあるメロディーで出てきて、やっとカバー曲と気づいた。 途中でスインギーな展開がある。
7.Je ne sais quoi エンリコのオリジナル。イタリア語かな?ハインのベースが大きくフューチャーされている。
8.This is for you / But not for me エンリコのオリジナル“This is for you”とジョージ・ガーシュインの名作“But not for me”のメドレー。 曲頭からスリルのあるスインギーな展開が楽しめる。曲と曲の間はこのアルバムではソロの少ないアンドレのドラ ム・ソロが繋ぐ。“But not for me”もスリルあるスインギーな演奏、3人が一体感が最高。
9.Keywords エンリコのオリジナル。この曲もハインのベースを大きくフューチャーしている。ハインのベースは派手に弾きま くるということではなく、あくまで曲想に忠実にリリカルに歌い上げている。
10.I hear a Rhapsody   ジョージ・フラゴス、ジャック・ベイカー、ディック・ギャスパレの3人が1941に共作にしたスタンダード・ナン バー。エンリコのアドリブはスインギーに展開し、続くのドラムとの交換、ベース・ソロからテーマ、エンディン グに向かう。
11.What you told me last night   最後はエンリコの作品。エンリコのソロで始まる抒情的なナンバー。

僕は、ヨーロッパのミュージシャンのジャズ・ピアノ・トリオの演奏を意識して聴き、CDを買ったのもこのピエラヌンツィが初めてだと思う。アメリカの黒人の繰り広げる世界とは全く違う。どう違うのかというと、うまく説明できないのだが…。しかしこのCDは僕にヨーロッパのジャズってのもいいもんだなぁと思わせてくれた。

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第7回2013年6月2日
アート・ファーマー「アート」

ご覧いただきありがとうございます。今日は雨という天気予報が外れ、いいお天気になったので、僕の家から割と近い道志村までドライヴに行きました。その時の写真をご紹介します。道志村は神奈川県から山梨県の山中湖に向かう街道にある村です。道志川という清流が流れ、風光明媚で多くのキャンプ場などがあります。昔と云っても30年ほど前は、道はくねくねと曲がり、舗装されていない個所も多かった記憶があります。今ではだいぶ道も整備され走りやすくなっています。今日は車も少なくかなり短い時間で、折り返し地点と定めていた道志村の道の駅まで行くことができました。道が整備されたころから不思議なことに余り混むことが無くなったように感じます。近隣に住む僕などにはありがたいことです。

道志村道の駅道の駅 道志村「道の駅」で休憩しました。僕は缶コーヒーのブラックを飲みながら煙草を一服し、家人は名物という「豆腐ソフトクリーム」を食べていました。ちょっと味見させてもらいましたが、しっかり豆腐の味がしながら違和感がなくおいしかったです。せっかくカメラを持って行ったのでこういうものを撮影しないなんて…だめですねぇ。 カメラの持ち歩きがまだまだ慣れず、何か珍しいことがあった時に撮影しようという考えがすぐには思い浮かびません。山菜などを少し買い込んで帰り道につきました。

さて、このホームページを立ち上げてそれほど経っていませんが、何度かジャズを聞くのには長いブランクがあったと書きました。僕は大学に入ってしばらくしてまったくジャズを聴かなくなってしまっていました。でも、その間もレコードだけは手放さず持っていました。そして20年以上が経ち、カミサンに「このたくさんある(そんなにないのだが、全く興味のない妻には膨大に映るらしい)レコード邪魔だから、処理するなり、整理するなりしてよ」と言われ、捨てる気は全くないのだが、どうしたもんかなぁと困っていたのです。
そんな40代半ばのある日、どうしてそうなったか全く覚えていないのですが、たまたま家族みんなが外出し、一人で1日中家にいる機会(つまり留守番)がありました。何をして過ごそうかと思った僕は、ふとジャズのレコードを久しぶりに聴いてみようと思い立ったのです。まず、コーヒーを淹れ、大したこともないオーディオ・セットに向かい、では何を聴こうかと思うのですが、これといったものが浮かびません。仕方なく手にかかったものは必ず聞くといことを決まりとして目をつぶってレコード棚から引っ張り出すことにしました。そしてたまたま引っ張り出されたのが、今日ご紹介するアルバムです。その時正直な気持ちは「困ったなぁ、地味なの選んじゃったなぁ」というもので、よほど変えようかと思いました。しかし変えてもほかの候補が思い浮かぶわけでもなく、「よし、初志貫徹!」と決心し、高校以来約25年ぶりくらいにこのレコードをターン・テーブルに乗せ、針を落としたのです。そして約四半世紀ぶりに聴いてどうだったかというと、一言で言うと「感動した」のです。そしてこのアルバムを聴くことでジャズって本当にいいもんだなぁと再認識してまたジャズを聴きだしたのです。そんな僕のジャズ復帰のきっかけになったアルバムをご紹介します。

第7回アート・ファーマー ”アート”

アート・ファーマー「アート」レコード・ジャケット

 Art Farmer ”Art"

 SMJ-7059(SGL-7001))

1960年9月21日、22日、23日 Nola's Penthouse Studioにて録音

<Personnel>

アート・ファーマーArt FarmerTrumpet
トミー・フラナガンTommy FlanaganPiano
トミー・ウィリアムスTommy WilliamsBass
アルバート・ヒースAlbert HeathDrums

<Contents>

A面
B面
1.ソー・ビーツ・マイ・ハート・フォー・ユー(So beats my heart for you) 1.春よりも若く(Younger than springtime)
2.グッドバイ・オールド・ガール(Goodbye , old girl) 2.ザ・ベスト・シング・フォー・ユー・イズ・ミー(The best thing for you is me)
3.フー・ケアーズ(Who cares) 3.アイム・ア・フール・トゥー・ウォント・ユー(I'm fool to want you)
4.アウト・オブザ・パースト(Out of the past) 4.ザット・オールド・デヴィル・コールド・ラヴ(That old devil called love)

ジャズのレコードには、その良さが分かるようになる年齢というものがあるのかもしれない。僕はこのレコードを、粟村氏の名著「ジャズ・レコード・ブック」で知り、高校時代に買っていた。粟村氏はこのレコードをどう評価していたかというと、まず彼のベストではないとした上で、「ファーマーの長所を生かした通人向きの秀作で、自薦のポピュラー曲を縦横に歌い上げる彼のプレイは全く『巧い』の一言に尽きる」と高く評価しています。
しかし、僕が買って聴いたのは1度だけだったと思う。当時マイルス・デイヴィスの“Four & more”が最高のトランペット・プレイが聴けるアルバムと思っていた僕は、このアルバムを地味すぎるなぁと思い敬遠していたのだ。若気の至り、つまり「通人」ではなかったということでしょう。
粟村氏も言うとおり、ここでのアート・ファーマーは全く奇を衒うことなく、原曲を美しく吹き上げ、アドリブも原曲のメロディをそのイメージを崩すことなく自分なりに発展させて歌い上げている。シンプルなことこの上ない。
そして40代も半ばにさしかかったその時の僕は、本当はそれでいいのではないか、本当の音楽、ジャズとはそういうものではないかと思ったのだった。何も難しいことはない。それでまたジャズの世界に戻ることになったという記念碑的なアルバムである。あの時このレコードを棚に返し、他のレコード例えば先ほど上げたマイルス・デイヴィスの“Four & more”でも聴いていたらどうなっていただろうか、再びジャズに戻ったろうか、それならその前の自分と変わりがないのである。このアルバムに素直に感動できるようになった自分に気が付かないままだったのかもしれないと思う。
このアルバムはファーマー32歳の録音である。ベニー・ゴルソンとの双頭バンド”ジャズテット”で活躍中の録音である。またこのレコード・ジャケットが凝っている。というか手が込んでいる、ということは金がかかっている。なんと油絵でしっかり描かれた作品「アート」なのだ。それを複写して印刷している。書いた人のことは分からないが、ミュージシャンの写真1枚載っていればいい方というようなジャズのアルバムの中で極めて珍しいと思う。

A-1 ソー・ビーツ・マイ・ハート・フォー・ユー(So beats my heart for you)
 「わが心君にときめく」というデ・シルヴァー&ヘンダーソンが1930年に作った恋の歌だという。トミー・ウィ  リアムスの心地よいスイング・ビートのイントロで始まるミディアム・ファーストの曲。ファーマーは美しい音で  きらびやかなアドリブを展開する。実にのびやかで堂々としたプレイに感じる。フラナガンのリリカルなプレイも  彼らしくて素晴らしい。まさにこの録音は、トミー・フラナガンの参加で一流の作品になることが決まったような  ものだ。
A-2 グッドバイ・オールド・ガール(Goodbye , old girl)
  映画にもなったブロードウェイ・ミュージカル“Damn Yankees(邦題:くたばれ!ヤンキース)の主題歌というメロ  ディアスなスロー・ナンバー。ファーマーはここでも堂々とテーマを歌い上げ、ロマンティックにアドリブを展開  する。レコード解説の故岩浪洋三氏は、マイルス・ディヴィスのバラッド・プレイは物悲しく冷徹な感じを抱かせ  るが、ファーマーのプレイはどこか人を包み込むようなほっとするような温かいフィーリングがあると述べている。
A-3 フー・ケアーズ(Who cares)
  ジョージ・ガーシュインの作ったアップ・テンポでスインギーな曲。テーマの後のアドリブで、ファーマーは全く  淀みなく、流麗にフレーズを重ねていく。実に気持ちの良い演奏である。エンディングはドラムとのフォー・ヴ   ァースの交換でテーマに戻る。
A-4 アウト・オブザ・パースト(Out of the past)
  ともにジャズテットを率いた親友ベニー・ゴルソンのオリジナル。ファーマー自身ゴルソンの作った曲はたくさん  あるが、その中で最良の曲の一つと評している。フラナガンのスムースなソロも気持がよいが、トミー・ウィリア  ムスも趣味のよいソロを聴かせてくれる。

B-1 春よりも若く(Younger than springtime)
  これも映画にもなったブロードウェイ・ミュージカル“South pacific(邦題:南太平洋)”の中の1曲でリチ ャード・ロジャース作の傑作。ミディアム・テンポのファーマーの円熟したバラード・プレイが楽しめる。フラナ ガンのソロも短いながらいい感じである。トミー・ウィリアムスもバックに、ソロにいいプレイで応じている。
B-2 ザ・ベスト・シング・フォー・ユー・イズ・ミー(The best thing for you is me)
  こちらはミュージカル映画“Call me Madam(コール・ミー・マダム)”の挿入歌で、アーヴィング・バーリンの 作曲。アップ・テンポで演奏されるが、速さを感じさせない流麗なファーマーのソロが素晴らしい。フォー・ヴ   ァースでテーマに繋がれる。
B-3 アイム・ア・フール・トゥー・ウォント・ユー(I'm fool to want you)
  元はトミー・ウォルクという人が作った歌の曲という。高音から低音まで幅広いレンジを使い、豊かに美しくフ ァーマーは吹き込んで行く。アメリカ盤でのライナー・ノーツを担当した評論家ナット・ヘントフはこの演奏を 「最近のレコードの中では最も感心したジャズ・バラードの一つ。ジャズのリリシズムにおける最上のもの」と評 しているという。本当にリリカルに、センシティヴにファーマーは歌い上げる。
B-4 ザット・オールド・デヴィル・コールド・ラヴ(That old devil called love)
最後は心地よいミディアム・テンポによる演奏。ファーマーは非常にイマジネィティヴなソロを展開する。高音 に来てちょっと裏返すような奏法はマイルスの影響を感じさせると解説の岩浪氏。ベースのソロも素晴らしいと   思う。

世評では、アート・ファーマーの最高傑作は1958年録音の「モダン・アート」ということになっているらしい。しかし、僕はこの「アート」の方が好きだ。何せこの「アート」はワン・ホーンで挑んだファーマーの意欲作だ。じっくりファーマーの温かく美しい音・フレーズを味わい、フラナガンのリリカルなプレイを楽しめるこれは最高のアルバムだと思う。最後にトミー・ウィリアムスが作り出すビートも非常に心地よく貢献度が高いと思う。
僕の持っているのは日本ビクターから発売された日本盤。ジャケット左上の”Globe"というロゴはアメリカのレコード会社だろう。そして裏面には(Argo原盤)と書いてある。これほど気に入ったアルバムだから、本当はアーゴのオリジナルが欲しい。しかしあまり見かけたことが無いし多分いい状態のものだとかなり高額なのではないかと思う。

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第8回2013年6月9日
ズート・シムス「ズート」

ご覧いただきありがとうございます。僕の住んでいる地域は10日ほど前に梅雨入りしました。みなさんのところはいかがでしょうか?その後しばらく晴天が続いていたのですが、やっと梅雨らしくなってきた感じがします。空がどんよりとしていて、森の中は暗いです。撮影したものの中から最も明るいものを選びましたが、やはりちょっと暗めですねぇ。因みに撮影日は6月6日です。

道志川渓谷

直近の森の写真は全体的に暗いので、先週ドライヴした道志川の風景をアップしてみます。川はもう初夏の装いです。

道志川道端で 道志道をドライヴ中に見つけたちょっとした花畑です。無粋な僕は花の名前が分かりません。

前回ジャズに戻るきっかけを書きました。最初に聴いたアート・ファーマーの「アート」です。その日をこのレコードを皮切りに、夕方まで合計9枚を聴きました。すべてレコードでA・B両面をかけ、CDは聴きませんでした。もう1枚が今日ご紹介するズート・シムスの「ズート」です。なぜかあと7枚が全く覚えていません。どちらもArgoが原盤です。どちらもタイトルがシンプルです。アート・ファーマーの「アート」とズート・シムスの「ズート」ですから…、それもどちらもTpとTsのワン・ホーン・アルバムで世評の高いアルバムです。

第8回 ズート・シムス ”ズート”

ズート・シムス「ズート」レコード・ジャケット

Zoot Sims ”Zoot"

 SMJ-7425(SGL-7125)或いはARGO LP 608

Argo盤のジャケットでは1956年10月12日 ニュー・ヨーク Capitolにて録音
jazzdiscoのディスコグラフィーには1956年10月12日 シカゴにて録音と出ています。

<Personnel>

ズート・シムスZoot SimsTenor sax&alto sax
ジョン・ウィリアムスJohn WilliamsPiano
ノビ―・トッターKnobby TotahBass
ガス・ジョンソンGus JohnsonDrums

ズート・シムス「ズート」日本盤レコード・ジャケット

<Contents>…日本盤の収録曲順です。

A面
B面
1.ボヘミア・アフター・ダーク(Bohemia after dark) 1.920スペシャル(920 special)
2.ウッディン・ユー(Woody’n you) 2.ザ・マン・アイ・ラヴ(The man I love)
3.ガスズ・ブルース(Gus’s blues) 3.55th・アンド・ステイツ(55th and states)
4.ザット・オールド・フィーリング(That old feeling) 4.ブルー・ルーム(Blue room)




ズート・シムス「ズート」Cadet盤レコード・ジャケット

<Contents>…Cadet盤の収録曲順です。

A面
B面
1.920スペシャル(920 special) 1.ガスズ・ブルース(Gus’s blues)
2.ザ・マン・アイ・ラヴ(The man I love) 2.ザット・オールド・フィーリング(That old feeling)
3.55th・アンド・ステイツ(55th and states) 3.ボヘミア・アフター・ダーク(Bohemia after dark)
4.ブルー・ルーム(Blue room) 4.ウッディン・ユー(Woody’n you)


ズート・シムスは日本では大変人気が高いサックス・プレイヤーだ。そしてレコード・CDもたくさん出ている。母国アメリカのことはよく分からないが、レコードがたくさん出ているということは、それだけ人気が高いということだろう。彼は人柄からか来る仕事は拒まなかったという。来た仕事を最高のレベルで果たす、それがプロというものだという考えだったと思う。その人気の秘密は粟村政昭氏が喝破したように「全経歴を通じて、前衛性という点では一度も話題に上ることはなかったが、よく歌いよくスイングする」ということに尽きるのではないだろうか?その粟村氏が当時の購入可能のものの中では一番良いと評価したのが、この「ズート」で、Riversideに「ズート!」というアルバムがあるが、「!」の付かないArgo/Cadet盤の方なのだ。でもちょっと気になるのは「購入可能なもの」という表現で、購入が難しいものにはもっと良いものがあるのだろうか?粟村氏はこう言う思わせぶりことをあまり言わない方なのだが…。なお、粟村氏の「ジャズ・レコード・ブック」ではこのアルバムのレーベル・ナンバーを”Cadet 608"と記載している。
実は、このレコードも高校の時に購入していたが、あまり聞いていなかった。なぜ聴いていなかったかというとやはり高校生という血気に逸った(はやった)年代には、余りピンと来なかったのだろう。命を懸けて吹いているのかと自分は安穏な学生のくせに、何という不遜な態度であったことか、今思い出しても恥ずかしい。
さて、このアルバムにはちょっとばかり気になることがある。まず日本盤は日本ビクターから発売になっているのだが、そこには大きく「Globe」のロゴが入っている。R&Bが好きだった僕は、よくMotownレーベルのレコードを買ったがそこにもこのロゴは入っていたような気がする。これは僕の推測だが、MotownやCadetなどマイナー・レーベルは、Victor、Columbiaのような大手と違い、海外への販売ルートを持っていない。「Globe」はアメリカのレコードを中心とした大手配給会社で、マイナー・レーベルはこのルートを通じて日本などの海外へ音源を販売していたのではないかと思う。そして日本国内では日本ビクターと提携し販売していたのではないだろうか。この辺りは何か分かったら追記していきたい。
僕が高校生時代に購入したのは、もちろん日本ビクターから出た国内盤版だった。しかし、残念なことにこのレコードは余り音がよくないのである。そこにCadet原盤というのを見つけたので購入した。しかしCadetはArgoというレコード会社が1965年に社名を変更したものだ。この「ズート」はCadetの時代になってからの録音かというと1956年録音だからそうではなく、Argo時代のもので実際Argoから最初は出たのである。再発時には、ArgoがCadetに社名が変わっていたので原盤権もCadetに移り「Cadet原盤」という表記になったのであろう。
次に、曲順が日本盤とCadet盤ではかなり違う。日本盤のA面とCadet盤のB面は曲も順序も同じだが、日本盤のB面とCadet盤のA面は順序がかなり異なる。詳しくは上記の比較を見て欲しい。 なぜこのように配列を替えたのだろうか?誰が替えたのだろうか?どんな意図なのだろうか? 僕は、Argo盤は持っていないが、Cadet盤を後に入手してこの違いが分かった。僕には謎だが、ジャズ・ファンの間では有名な話なのだろうか?ライナー・ノーツの解説はジャズ評論家の本多俊夫氏だが、このことには一切触れていない。
日本で人気の高いズートの代表作だけにこの辺りのことは明確にしてほしい。
さて、ズートが名を挙げたのは、47年にWoody Hermanのいわゆるセカンド・ハードに加わってからで、レスター・ヤング派のスインガーとしてスタン・ゲッツと並んでクール派の双璧とも言われている。
他のメンバーを見ると、ピアノのジョン・ウィリアムスは1929年生まれで、ゲッツやチャーリー・マリアーノなどクール派と仕事をすることが多く、こちらも堅実でスインギーなプレイでは定評があるプレイヤー。「スター・ウォーズ」などの映画音楽で有名な作曲家とは同名異人。自身名義のアルバムも出ているが、数が少ない。その数少ないアルバムが日本で廉価版CD化されている。このアルバムの演奏の音を聴くと硬質だなぁと思うのだが、レコードのせいなのか、オーディオ装置のせいなのかそれともウィリアムスの弾き方か僕には分からない。
ドラムのガス・ジョンソンは1913年生まれで、ジェイ・マクシャン楽団でチャーリー・パーカーの共演歴があることで有名。モダン、中間派、ビッグ・バンドなど幅広く活躍をしている。この録音では、唯一の黒人。
ベースのノビー・トッターは、1930年にヨルダンで生まれ、44年にアメリカに渡ってからベースを学んだという変わり種。なんとベースを手掛け始めたのは53年ということで、この録音の3年前でしかないのに、安定した手腕を見せている。彼は53年〜54年に兵役に服し日本に駐留、秋吉敏子や同じく日本に駐留していたハンプトン・ホースらと演奏し腕を磨いたという。
で、どちらの曲順で紹介するのがいいのだろう?取りあえずここはCadet盤で行こう。

A-1 920スペシャル (920 special)
  タイトルは知らなくても、メロディを聞けば「ああ、これか」と思うような古き良き時代のスインギ―かつキャッチ―なナンバーで、A面トップにはふさわしいか。ズート、ウィリアムスもリラックスして楽しげに歌っていく。この曲辺りのウィリアムスのピアノはかなり硬質に感じる。巻頭1曲なのでメンバーそれぞれの顔見世的なソロもある。ノビ―のソロはウォーキングのみだが、この辺りが経験の少なさで、思い切ったソロは弾けないのだろうか。ウィリアムスが見兼ねて絡んでいくような感じがする。

A-2 ザ・マン・アイ・ラヴ (The man I love)
  ガーシュイン・ナンバーで、1924年ミュージカルの「レディー・ビー・グッド」のために作られたが、なぜかそこでは使用されず、1927年の「ストライク・アップ・ザ・バンド」で使われた。このアルバムでは唯一のスローナンバー。コールマン・ホーキンスの熱演などたくさんの名演がある。ホーキンスのソロはどちらかというと荒ぶる魂とでもいうべき激しいソロだが、ズートはレスター派と言われるが性格的な豪放なところもあると思う。ソフトな音出しで始まるが、ソロが進むにつれ次第に豪快な節回しなどが出てくるところが面白いと思う。

A-3 55th ・アンド・ステイツ (55th and states)
  ズートの作ということになっているが、これもヘッド・アレンジよるものではないかと解説の本多氏。しかしこのタイトルの意味はどういうものなのであろうか?この辺りのウィリアムスも硬質的に感じる。

A-4 ブルー・ルーム (Blue room)
  ロジャース=ハートのコンビによる1926年のミュージカル「ザ・ガール・フレンド」の主題歌。ズート-ウィリア ムス‐ズート‐フォー・ヴァース‐テーマというこのアルバム定番の形。

B-1 ガスズ・ブルース (Gus’s blues)
  ドラムのガス・ジョンソンの作曲。ブルースとタイトルについているが、いわゆるブルースではない。構成としてはA・A’・B・A”形式だが、リフ、テーマというメロディーはなく、Aはマイナーのブルース、A’とA”は普通のブルース、そしてBは8小節でAとA’・A”をつなぐブリッジになっていて、合計44小節という面白い構成という。 解説の本多氏は、当時の白人プレイヤーが好みそうなお遊びの曲のようでヘッド・アレンジ(その場の打ち合わせで作ってしまうというか決めてしまう)の曲だろうと述べている。ジャズでは珍しくフェイド・アウトで終わっている。

B-2 ザット・オールド・フィーリング (That old feeling)
  1938年ウォルター・ワンジャー制作のミュージカル映画『1938年のヴォーグ』の挿入歌。ヴァージニア・ヴェリルが歌い、アカデミー賞にノミネートされた。1952年、第二次大戦中、飛行機事故に遭いながらも軍事慰問を続けたジェイン・フローマンの伝記映画『わが心に歌えば』にも使われ、スーザン・ヘイワードが演じヒットした(唄はフローマン自身の吹き替え)。もとはゆったりとしたバラードだったらしいがなぜかアップテンポで演奏されることが多い曲。ズートも軽快に自分のメロディーを発展させ吹きまくる。

B-3 ボヘミア・アフター・ダーク (Bohemia after dark)
  3曲目は、「モダン・ベースの父」ともいわれるオスカー・ペティフォードのあまりにも有名な曲。ズートは時折アルト・サックスも吹くがここでもその腕前を披露している。日本盤ではA面のトップだったので、1曲目から変化球か!という気がしないでもなかったが、本来の曲順を見て何となく納得した。ともかくズートの颯爽としたプレイが楽しめる。ズート-ウィリアムスのソロの後お決まりのサックスとドラムのフォー・ヴァースが入り、テーマに戻る。

B-4 ウッディン・ユー (Woody’n you)
  ラストはディジー・ガレスピー作の有名曲。こういう演奏を聴くと軽快にスイングするアルトもいいけど、重厚さのある音色のテナーはいいなぁと思ってしまう。そう思わせるのもズートだからか。ともかくスムースにスイングしていくズートのテナーが楽しめる。ズート-ウィリアムスのソロの後トッターのベース・ソロになるがここでもウォーキングで通している。

ともかく「よく歌うズート」の典型的なアルバム。理屈抜きに楽しめる1枚。

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第9回2013年6月16日
チャールス・ロイド ”オリジナル・フォレスト・フラワー”

ご覧いただきありがとうございます。6月15日・16日は土・日曜日でしたが、所用のため森に散歩に行けませんでした。所用のためとはいっても、16日(日)は早起きしサッカーのコンフェデレーション杯初戦日本対ブラジルを見ました。初めから見るつもりだったのですが、起きられず後半20分過ぎからです。日本は得点を挙げることができず3対0で敗れました。やはりブラジルは強い。僕が見ている間は決定的なチャンスと言える状況さえなかったと思います。
そのようなわけで新しい写真がないので、6月初めの道志村で写したものを掲載します。

4月に見つけた「フォレスト・フラワー」 今回取り上げるアルバムは森の花(Forest flower)をテーマにしたものなので、4月に撮影した森の花を掲載します。名前は森の中にある案内に書いてありましたが、恥ずかしながら忘れてしまいました。花の写真を撮るのは難しいものです。なにせ戸外なので風が吹かれて揺れるのです。ご紹介する写真もピントがずれているようです。

梅雨の森 散歩には行けませんでしたが、森の中を車で通りました。季節は梅雨真っ只中、森の中は日中でも暗い。写真は先週の森の様子です。






第9回チャールス・ロイド ”オリジナル・フォレスト・フラワー”

チャールス・ロイド「オリジナル・フォレスト・フラワー」レコード・ジャケット

 Charles Lloyd ”Original forest flower"

impulse SR3009

B-1、4…オリジナルはChico Hamilton“Passin’ thru”
録音はレコードのライナー・ノーツとjazzdiscoとも同じで1962年9月18日、20日 イングルウッド・RVGスタジオ
その他…オリジナルはChico Hamilton“Man from two worlds”
録音はレコードの解説では1964年初頭となっているが、jazzdiscoでは1963年12月11日 イングルウッド・RVGスタジオとなっている。

<Personnel>

チャールス・ロイドCharles Lloydtenor sax & flute
チコ・ハミルトンChico HamiltonDrums
ガボール・サボGabor SzaboGuitar
アルバート・スティンソンAlbert StinsonBass
ジョージ・ボハノンGeorge BohanonTrombone B面1、4のみ

<Contents>

A面
B面
1.フォレスト・フラワー(サンライズ/サンセット)(Forest flower / sunrise-sunset) 1.パッシン・スルー (Passin’ thru)
2.ブルース・メドレー (Blues Medley)
a)リトル・シスターズ・ダンス Little sisters dance
b)シェイド・トゥリー Shade tree
c)アイランド・ブルー Island blue(アイランド・ブルース Island bluesの誤りか)
2.マレット・ダンス (Mallet dance)
3.マン・フロム・トゥー・ワールド (Man from two world) 3.ラヴソング・トゥ・ア・ベイビー (Love song to a baby)
4.ロンサム・チャイルド (Lonesome child)

今ではラジオのFMでもジャズ番組はあまりないようだ。僕がジャズを聴き始めたころは数こそ少なかったがジャズ番組が放送されていた。僕の記憶では高校1年か2年のころという漠然とした記憶しかないのだが、その番組中でこのA面1曲目の「フォレスト・フラワー」10分30秒余りの長尺の曲をフル・ヴァージョンで流していた。それを聴いた僕は小遣いがたまると早速このレコードを探しにヤマハ仙台店に向かった。その時「フォレスト・フラワー」が入っているレコードはこれだけだったので、このレコードの「フォレスト・フラワー」とラジオでのオン・エアが同じ曲かどうか不安ながら購入したのであった。
帯付きレコード 家に帰って聴いてみて同じだったので安心した。でもこれは実際にはいつのことだったのだろう。レコードについている帯を見てほしい。「チャールズ・ロイド来日記念盤」とある。チャールズ・ロイドが来日したのは1968年だという。普通来日記念盤というものは、来日する少し前に発売するものだ。まあ売れ残ったアルバムを買ったということでは何も疑問はないのだが…。

僕がジャズを聴き始めたころは、チャールズ・ロイドにはある形容詞がついていたという記憶がある。それは「才人」というもので、よく「才人チャールズ・ロイド」という言い方がなされていたような記憶がある。ところでこのアルバムは、「チャールズ・ロイド来日記念盤」として、日本で編集されたものだ。このアルバムはImpulse!から発売されたものだが、実は本国アメリカではImpulse!にロイドのリーダー・アルバムはない。このアルバムは、ロイドが加入し音楽監督を務めていたチコ・ハミルトン名義のアルバム2枚からの抜粋である。いくら音楽監督で、自作だといっても他人名義のアルバムからのチョイスをリーダー・アルバム的に発売するのはどうかと思うが、この時期アメリカでのロイドの人気はものすごいものだったそうだ。そのロイドが日本にやってくる、来日記念盤を出せば売れるだろう、しかしImpulse!にはアルバムがない、どうしよう?ハミルトン名義とはいっても実質的にはロイドが仕切っていたようなものなのだから、単独ではなく抜粋でオリジナルアルバムを作ればいいのではないかということになったかどうかは知らないが、そんなことが想像されるではないか。などということは後になって気づいたことで、入手した当初は大好きな「フォレスト・フラワー」が手に入ったので、嬉々として毎日聞いていたのである。
アトランティック盤 このアルバムは日本タイトルが「オリジナル・フォレスト・フラワー」という。しかし、作者チャールズ・ロイド名義のアルバムでフォレスト・フラワーが収録されているのは1966年Atlanticに吹き込んだ「フォレスト・フラワー」というアルバムことになるのだが、それはオリジナルのフォレスト・フラワーではない。
オリジナルのフォレスト・フラワーはチコ・ハミルトンの“Man from two worlds”というアルバムに入っているのである。現在このチコ・ハミルトンのアルバムは廃盤になっており、CD化は1993年にされたようだが、それほど見かけない。ということはオリジナルのフォレスト・フラワーは入手が難しい曲と言えるだろう。僕がジャズを聴きはじめた当時「フォレスト・フラワー」はいわゆる名曲・名演として定評があったような気がする。その曲を入手するのは現在ではハードルが高いというのは、ちょっと寂しい気がする。でも僕は詳しくないのだが、YouTubeなどでは簡単に聴けるのであろうか?ところでAtlantic盤「フォレスト・フラワー」は2012年5月「JAZZ BEST COLLECTION 1000」の中の1枚としてワーナーミュージックからCDが発売されており、入手は難しくない。
まあともかく曲を聴いていこう。

A-1 フォレスト・フラワー(サンライズ/サンセット) (Forest flower / sunrise-sunset)
 チャールズ・ロイドの代表曲の一つ。メンフィスの出身だがカリフォルニアに住んでいたロイドらしい、美しいフォーク調のメロディーが印象的なナンバー。一部がサンライズ(夜明け)とサンセット(日没)がセットの組曲である。 この曲は1963年に作曲され、一度コロンビアに録音されたという(未聴)。これを大きく手直しし一部二部に分けて組曲風にし、決定版として録されたものが本録音だという。サンライズはボサノヴァ風のリズムをバックに、テーマはテナーとギターのハーモニーで提示される。サボ、ロイドのフレッシュなソロの後スティンソンのソロとなる、これも素晴らしいもので彼の才気を感じさせるがこの未完の逸材が24歳で世を去ったことはいかにも惜しい。夭折した天才ベーシストというとジミー・ブラントン、モダン期ではスコット・ラファロが有名で、あまりスティンソンが取り沙汰されることはないが、このソロを聞いただけで、抜群のテクニックと構成力を持った天才だということがわかる。
その後には御大ハミルトンのソロが入る。日本ではあまり高評化されていないが、僕はこのハミルトンという人が割合好きだ。かなりの多作家で勘弁してほしい作品も数多あるが、この辺りのソロは素晴らしいと思う。何が素晴らしいかというと、ドラマーによく見受けられるノリ重視、パワー重視の叩きまくりというプレイではない。スネアーも叩く場所で微妙に音が違うが、そういったところとリム・ショットもリムとスネアーの同時打ち、リムのみなど音色の違いでソロを組み立てるという他にはあまり見られないソロなのだ。
続いてテナーとギターのテーマがあり、実に自然に二部のサンセットに入っていく。このメロディが実に平和で楽しげなのだ。テナーとギターのピンター・プレイも楽しげだ。感じとしては「日没(サンセット)」というより「明るい午後」という感じだ。テナーとギターの高音での掛け合いは遊び心満載でとても楽しい。こういうジャズがあってもいいんじゃない?!
A-2.ブルース・メドレー (Blues Medley)
a)リトル・シスターズ・ダンス (Little sisters dance)
b)シェイド・トゥリー Shade tree
c)アイランド・ブルー Island blue
 一応異なる3曲のブルースをスティンソンのベースとハミルトンのドラムで繋ぐという珍しい形式の曲。聴いていると自然だが、こういう形式の曲は本当に珍しいのではないか。それぞれのブルースはまあ普通のブルースなので、一番の聴き所は、つなぎのスティンソンの力強いベースなのではないかと思う。僕のは日本編集の再発版だが、オリジナル版でよい再生装置で低音部をグンと出して聴きたい曲だ。 c)はチャールス・ロイドは何度か吹き込んでいる。のタイトルは、このレコードのジャケット、ライナー・ノーツ、ラベルとも「アイランド・ブルー Island blue」となっているが、jazzdiscoや他のアルバムでは「アイランド・ブルース Island blues」となっている。僕の知る限りでの初演は、この録音に先立つ1963年1月にリプリーズ吹き込んだChico Hamilton名義のアルバム”A different journey"(日本ではワーナーミュージックからCD化されて再発済)だが、その後もキャノンボール・アダレイ・セクステットに参加後シングル盤用にレコーディングされ(日本ではEMIミュージックから再発されたキャノンボール名義の”Fiddler on the roof"にボーナス・トラックとして収録、自身のアルバムでも”Dreamweaver”、”Nirvana"、”Love-in"などで繰り返し演奏している。
A-3. マン・フロム・トゥー・ワールド (Man from two world)
 僕はこういう曲がわからない。題意は「二つの世界から来た男(直訳)」ということだが、何をしたいのかわからない。確かにザボのシタールを思わせる東洋風のプレイ、ロイドのコルトレーン張りのプレイの絡みが面白いと、何でも誉める岩浪氏はいうのだが、そんなに面白いとは思えないのだが…。

B-1.パッシン・スルー (Passin’ thru)
 解説の岩浪氏はフォーク調の美しいメロディと解説しているが、確かにラテン系のリズムとエキゾティックなメロディの組み合わせというのは分かるのが…。この曲とB-4を収蔵しているアルバム「パッシン・スルー」について、師粟村氏は「ダウンビート誌で好評を得たが、素直な感動を呼ぶだけのものにかけていた」と簡潔にまとめている。
B-2.マレット・ダンス (Mallet dance)
 ハミルトンのマレットをフィーチャーした曲。テナーとドラムのデュオ。ハミルトンはマレット・プレイが得意だというが、僕はこの人は普通のスティックでたたいた方が持ち味が出ると思う。というのはこの人は「ドラムはパワフルに叩きまくる」だけではないということを身を持って表した先駆者ではないかと思うのだ。
B-3 ラヴソング・トゥ・ア・ベイビー Love song to a baby
 ロイドがフルートを吹く、リリカルなワルツ。旋律はとても美しいナンバー。他のプレイヤーが取り上げたのを聞いたことがないが、スタンダード化してもおかしくないと思う。
B-4 ロンサム・チャイルド (Lonesome child)  ロイドのルバートから始まる。岩浪氏はチャールズ・ミンガス風だという。が僕は不勉強のためどこがミンガス風かわからない。僕はもろブルース・リフ系の作品だと思う。バックが同じリフを繰り返し、そのリフに乗っかってソロを展開していくという手法で、決め手は一つでどんだけソロで盛り上げられるかにかかっている。

総評的に言うと、チャールズ・ロイドという人は才人であることは間違いないと思う。粟村氏は1969年に2版を発行した「ジャズ・レコード・ブック」において、この年はチャールズ・ロイド来日の翌年にあたり、彼のレコードはアトランティックからどちらかというとサイケデリックで若者向けな形で出ていた頃である。「コルトレーン亡き後ロリンズが低迷を続ける中、ファンはロイドのグループに期待をつなぐであろう。ロイドのジャズ・ミュージシャンとしての本当の勝負はこれから始まる」と期待を寄せている。
ロイドは現在もヨーロッパにあって現役を続けているのだが、ロイドのこのころ(60年代)の演奏、また現状の演奏を聴いても変わらぬ一つの印象がある。それは「音が軽い」ということなのだ。軽快というのではない「軽い」感じがする。かれは低音部の早いパッセージをいとも簡単に淀みなく吹きこなすテクニックを持っているが、その音が軽い感じがするのだ。これだけ低音部が軽い人も珍しいと思う。
確かにコルトレーンの影響は顕著だと思うが、コルトレーンは低音部から例えば中音部、高音部へ1拍6連符、8連符、10連符などで持っていく速いパッセージを吹くが実に重量感あふれ迫力がある。それがロイドにはない。それは狙いなのか、録音機材の問題なのか、わざとかそうではないのかがわからない。
僕としては、チャールズ・ロイド=才人=軽い人的な感じをぬぐえないでいる。しかし「フォレスト・フラワー」はやはり名曲だと思うし、このオリジナル・スタジオ録音を入手できるようにしておいてほしいとは思う。現在どうやれば入手できるのだろうか。たまチコ・ハミルトンの「Man from two worlds」のアナログ盤は中古レコード店で見かけることがあるが。

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第10回2013年6月23日
アニタ・オディ "ディス・イズ・アニタ"

ご覧いただきありがとうございます。正に梅雨真っ只中ですね。先週は台風4号が接近して大雨に見舞われた地域の方々にはくれぐれもお見舞い申し上げます。
僕の住む地域は、雨は降ったものの大雨というほどでもなく助かりました。写真は久しぶりに雨が上がって晴れ間が覘いた22日土曜日の午前中に散歩に出かけ撮影したものです。土の道は多様ぬかるんでいましたが、それほど歩きにくくもなかったです。木々の葉に雨が当たって枝や幹を伝って直接に地面に雨が落ちる量が少ないためでしょうか?いったんぬかるんでしまうと直射日光が当たらず乾きにくいのですが、この地域は雨の量が少なかったのでそこまで至らなかったようです。


時折差し込む日光 天候はまだまだ不安定で、曇っている時間が長いのですが時折強烈な日光が差し込みます。日光はもう夏のものです。
季節はもう夏、森は鬱蒼としてきました。

アニタ・オディは大好きな歌手なので、僕の「なんちゃってコンプリート」の対象アーティストである。コンプリートとはコンプリート・コレクション(Complete collection=完全収集)の略である。では、アニタのコンプリート・コレクションを目指しているのかと言えば、そうなのである。でも貧しくさらに根気もない僕なので、そこは「なんちゃって」なのである(最近「なんちゃって」は使わないか)。
そもそもコンプリート・コレクションとは、大変なのである。あるアーティストのコンプリートを目指すとする。それはよくそのアーティストのオリジナル盤(初版のレコードなど)を完全に集めることと思われがちだがそうではない。第1回に取り上げたマイルス・ディヴィス「ザ・ビギニング」を例にとってみよう。これは最初「ザ・ミュージング・オブ・マイルス」という名で世に出た。このオリジナル盤はもちろんだが、それが再プレスされていればそれらも全て収集しなければならない。「ザ・ビギニング」に名称が変わってからも同じである。これらはレコードだが、CD化されているのでCDもオリジナル、再発全てを収集する。それらすべてを収集してもコンプリートとは言えないのである。
その他に海外盤がある。日本以外アメリカはもちろんイギリスでは形を変えて出ているかもしれないし、フランス、カナダ、メキシコその他の国でも発売されているかもしれない。それらも全て収集しなければコンプリートとは言えないのである。 アーティストで言えば、さらに海賊盤というものがあるし場合によっては企業のCMに使われたものもあるかもしれない。あるアーティストのコンプリート・コレクションは仇や疎かなことではできないのである。マイルス・ディヴィスだって、デビュー当時はSP盤の時代だった。一つの録音にしてもSP盤、10インチレコード、30センチLP、CDと形が変わってきている。その全てを揃えなくてはならない。そんなことは可能なのだろうか?でも目指している方もいるだろうし、僕はそういう方は文句なしに尊敬する。そういう方こそそのアーティストに関しては最も詳しいと言える。

ところで僕の「なんちゃってコンプリート」はどんなものかというと簡単だ、レコード・ショップなどで「保有していないレコード或いはCDを見つけ、値段が予算以内だったら買う」というものだ。特別に探しに行くことはいない。言い訳だが、そもそも僕は好きなアーティストが多く、一人を極めるということができない。要は「あれも聴きたい、これも聴きたい」なのである。 それなら特別に「なんちゃってコンプリート」の対象アーティストなどと決めなくてもいいようだが、自分なりに「なんちゃってコンプリートの対象アーティスト」と認定する(エラそう)ことはそれなりの重みがあるという感じがする。そうやって買っていった結果アニタのレコード及びCDは現在39枚になった。アニタ・マニアから見れば少ない数値と思うが、逆にこんないい加減な買い方でもここまでは揃うのである。でもマニアとして集めるのはここからが大変なのだとは思う。


第10回アニタ・オディ "ディス・イズ・アニタ"

アニタ・オディ「ディス・イズ・アニタ」レコード・ジャケット

Anita O’day “This is Anita “ 

Verve MV-1136 monoral 日本での再発盤

<Personnel>

ポール・スミスPaul SmithPiano & Celesta
バーニー・ケッセルBarney KesselGuitar
ジョー・モンゴラゴンJoe MondragonBass
アルヴィン・ストーラーAlvin StollerDrums
編曲・指揮 バディー・ブレグマンBuddy Bregman

<Contents>

A面
B面
1.ユー・アー・ザ・トップ (You’re the top) 1.アズ・ロング・アズ・アイ・リヴ (As long as I live)
2.ハニーサックル・ローズ (Honeysuckle rose) 2.月とてもなく (No moon at all)
3.バークレイ・スクエアのナイチンゲイル (A nightingale sang in Berkeley square) 3.タイム・アフター・タイム (Time after time)
4.フー・ケアーズ (Who cares ?) 4.夢で逢いましょう (I'll see you in my dreams)
5.言い出しかねて (I can’t get started) 5.惚れっぽいの (I fall in love two easily)
6.ファイン・アンド・ダンディー (Fine and dandy) 6.ビューティフル・ラヴ (Beautiful love)

小川正雄氏のレコード解説では1956年録音となっているが、後に購入したCDの記載によると、
A-4、6、B-1、…カルテット・ナンバー 1955年12月6日録音
A-1、2、3、B-2、3、4 …上記カルテット+ミルト・バーンハイト、サイ・ゼントナー、ジョー・ハワード、ロイド・エリオットの4人のトロンボーンが加わったナンバー 1955年12月8日録音
A-3、B-5 … ポール・スミスのピアノ或いはチェレスタ+ストリングスのナンバー 1955年12月7日録音となっている。

僕が買った最初のジャズ・ヴォーカルのレコード。これを買うことに決めたのは、絶対の信頼を寄せる粟村政昭氏の「ジャズ・レコード・ブック」のアニタ・オディの項に、白人最高の女性ジャズ・シンガーであり、ヴァーヴに吹き 込まれた初期のLPはことごとく素晴らしいが、なかでも素晴らしいのはこの「ジス・イズ・アニタ」と「シングス・ザ・モスト」であるとあったからである。しかしこの2枚はかなり性格が違う。「シングス・ザ・モスト」はオスカー・ピーターソン・トリオにアニタ専属的なドラマージョン・プールを加えたカルテットをバックに正に正調ジャズ・ヴォーカルという感じだが、こちらは同じ編成のカルテットをバックにしたナンバーもあるが、4本のトロンボーンが加わったり、ストリングスが加わったりでヴァリエーションに富んでいる。
今(2013年現在)では、ヴァーヴのアニタのレコード或いはCDを購入するのはさほど難しいことではないが、僕がジャズを聴き始めた69年・70年という年代では、アニタのヴァーヴ盤はほとんど廃盤になっており、僕が地方都市に住んでいたせいもあるかもしれないが、地元のレコードショップでは全く見かけることができなかった。そして「シングス・ザ・モスト」より「ジス・イズ・アニタ」を購入したのは、単にこちらを早くに見つけたからである。「スイング・ジャーナル誌」に載っていた通販の広告を見て購入した。確か「ついに入荷!あの名盤<This is Anita>」という広告文に乗せられた格好だが、購入して本当に良かったと思ったものだった。輸入盤で、初めて通販で買ったレコードでもあったのだ。
「ANITA」のジャケット ところで、このアルバムは「ANITA」という名前でも出ている。何かで元々は「ANITA」というタイトルで出て、後に「This is Anita」とタイトルを変えて発売になったということを読んだが本当はどうなんだろうか。僕は粟村氏が「This is Anita」と書いているんだから、「This is Anita」が本来のタイトルだと思うことにしている。因みに僕は、後に再発売されたレコード「This is Anita」とCD「ANITA」を持っていて、状況に応じてかけている。では、最初の輸入盤はどうしたのかというと、なんと愚かなことに処分してしまったのである。今も愚かだが、当時の僕も愚かだったのだ。なぜ処分したのかというと、再発された日本盤には歌詞カードがついていたからで、同じもの2枚は要らないやという愚かな判断をしてしまった。なぜ歌詞カードが欲しかったのかというと、ある曲の歌詞が知りたかったのだ。




さて、聴いてどうだったかというと、実に気に入ったのである。粟村氏はアニタ評として、声に甘さがなさすぎる、音域が狭い、音程がフラットしやすい、歌詞をあまり大切にしない等彼女の欠点をあげつらった後で、しかし天衣無縫のジャズ・フィーリングと抜群のテクニックはこれらを補って余りあると最高の評価をしている。僕は、初めて聞いたこともあり、自分自身音程が不確かなこともあり、粟村氏の上げる欠点も残念ながら長所も分からなかったが、アニタが好きになってしまった。今も僕が最も好きなジャズ・シンガーなのである。
こういうところが僕はジャズに関して非常にツイていると思うのである。最初に買ったレコードが素晴らしい歌手による素晴らしいレコードだったのだ。全く素晴らしくない歌手による全くつまらないレコードを最初に買ってしまっていたら、僕は今でもジャズ・ヴォーカルを聴いていたかどうかわからない。
それでは、そろそろ内容を紹介していこう。このアルバムの企画が素晴らしいと思う。またこのアルバムが素晴らしいのは、編曲と指揮を担当したバディ・ブレグマンによるところも大変に大きいと思う。リズム・セクションはピアノのポール・スミスはそれほど派手な人ではないが、キャピトルやヴァーヴ、アトランティックにリーダー・アルバムがあるようだ。小粋によく歌う人で、後にエラ・フィッツジェラルドのバックも務めている。ギターのバーニー・ケッセルもバップ時代から活躍する名手であり、リーダー・アルバムも数多い。ベースのジョー・モンゴラゴンも、ウエスト・コースト活躍し、多数のレコーディングに参加している。アルヴィン・ストーラーは、それほど有名ではないが16歳から多数のビッグバンドで活躍しているステディーなプレイが身上のドラマーである。ブレグマンは自身ウエスト・コースト系であり、ドラムのアルヴィンを除いて、ウエスト・コースト系のそれぞれヴァーヴとは付き合いのある手堅い布陣を組んでいる。このリズム・セクションを中心に、プラス4トロンボーンもの、ストリングスものとうまく変化をつけている。散漫な印象にならずヴァラエティー豊かに感じられるところが、アレンジのうまさ、歌のうまさということなのだろう。僕が感じる本当のアニタのうまいところは、聴いていて「歌がうまいなぁ」などと決して思わせないのである。すっと歌の世界に引き込まれ、一緒になってスイングしてしまうのである。
まあともかく曲を聴いていこう。

A-1 ユー・アー・ザ・トップ (You’re the top)
まず1曲目、コール・ポーターの「You’re the top」。リズム・セクション+4トロンボーンという編成はどうかと思ったが、実にいい味を出している。分厚いサウンドなのである。アニタは実にスムーズにスイングしていくのだ。僕はこの曲はエラ・フィッツジェラルドのコール・ポーター作品集とこれしか知らないのだが、スインギーということにかけてはアニタの方が上である。ついついつられて歌いだしてしまう素晴らしい歌唱だと思う。さらに第3コーラスでは、歌詞までアドリブで歌っていく。この歌詞を知りたくて日本盤には、歌詞カードがついていることを確認して買い換えたのである。このことは最後に触れようと思う。ぐいぐい引っ張っていてエンディングをスキャットで締めくくる。まさにジャズ・ボーカルを聴いたなと思わせる心憎い演出である。
A-2 ハニーサックル・ローズ (Honeysuckle rose).
2曲目は、ファッツ・ウォーラー作のスタンダード・ナンバー。ウォーキングベースをバックにアニタは第1コーラスを静かに歌いだし、第2コーラスからピアノが小粋に絡らみ、ドラムも入リ、トロンボーンのバッキングと加わりご機嫌にスイングしていく。
A-3 バークレイ・スクエアのナイチンゲイル (A nightingale sang in Berkeley square)
3曲目はA nightingale sang in Berkeley square。一番最初はこのトラックが一番のお気に入りだった。今では珍しいチェレスタに乗ってしっとり歌うアニタ。素晴らしい、惚れちまうやろ。数多いアニタのバラードの中でもトップクラスに評価されているという。因みにナイチンゲイルは夕方に鳴く珍しい鳥でアメリカにはいないという。バークリー・スクエアはロンドンにあるそうで、1939年にエリック・マシュヴィッツが書いたイギリスのポピュラーソングだという。
A-4 フー・ケアーズ (Who cares ?)
ピアノのみで歌いだすヴァース、そしてテンポを上げ軽快に歌いだすところからバックがクアルテッとなり、ポールのピアノ、バーニーのギターがいい感じでソロを取り、再びアニタが抜群のセンスで歌い上げる。
A-5 言い出しかねて (I can’t get started)
僕のベストトラック。これにかなう「言い出しかねて」はないと思う。アニタのスロー・バラードの粋が聴ける。途中のビギン・テンポの伴奏も憎い。ライナーによるとプロ・ゴルファーと結婚したアニタはここでは、ゴルフに絡めて歌詞のアドリブをかましているという。
A-6 ファイン・アンド・ダンディー (Fine and dandy)
今度は、バーニーとのデュエットで歌い出し、途中でアップテンポに上げ、スインギーに歌いまくる。ポールのソロ、バーニーのソロ、文句のつけようがない快唱・快演。

B-1.アズ・ロング・アズ・アイ・リヴ (As long as I live)
ベニー・グッドマン楽団で有名なハロルド・アレンの名曲。アニタはピアノのバックでスロ−に歌いだすが、リズム隊が入ると実に気持ち良くスイングしていく。名人芸である。アニタの歌はもちろんだが、ここでもポール、バーニーのソロも素晴らしい。
B-2.月とてもなく (No moon at all)
ベースの短いイントロからスキャットでスタート、第2コーラスはバーニーのギター、ミルト・バーンハイトのトロンボーンのソロもいい感じだ。僕はよく分からないのだが、この曲は編曲も素晴らしいと思う。解説によるとアニタはブリッジを2小節ごとに半音上げるという心憎いテクニックを披露しているらしい。
B-3 タイム・アフター・タイム (Time after time)
フランク・シナトラの十八番という。アニタはストリングスをバックに、ヴァースからじっくり歌いこむ。繰り返しになるがアニタのうまさとはテクニックがありながら、テクニックをひけらかさないところだと思う。そのためにアニタの歌唱は抜群の説得力を持つ。この曲などはその典型だと思う。
B-4 夢で逢いましょう (I'll see you in my dreams)
アイシャム・ジョーンズの名曲。1954年の同名映画の主題歌という。ここではしっとりとではなくスィンギーに軽快に歌う。間奏でバーニーとミルトが8小節づつ2回ソロを交換するが、これもスインギーだ。編曲も素晴らしい。
B-5 惚れっぽいの (I fall in love two easily)
ジェローム・カーンの名作。ビリー・ホリディの名唱が有名だが、アニタだって負けてはいない。ゆったりとしたヴァースから主旋律に入ってじっくりと歌い込む。
B-6 ビューティフル・ラヴ (Beautiful love)
クラシックっぽいポールのピアノで始まるロシア民謡風のメランコリックな歌。スインギーなクアルテットをバックに夢に見る恋を切なく歌う。途中のバーニー、ポールのソロもまことに快調。
まさに、A面最初に針を落としたが最後、LPの最後まで、聴かずにはいられなくなるまさにジャズ・ヴォーカルの逸品である。

ところで、歌詞カードが欲しかったのは「You’re the top」である。第3コーラスでアニタは、歌詞のアドリブをこのように展開している。まず「You’re the top」のTopをBopに替えて、「You’re the bop」と歌いだす。
その歌詞は
You’re the bop
You’re the Sara singin’
You’re the bop
You’re like Yardbird swingin’
You’re Mile’s gong , you’re the great song that Ekstine’s ever sung
You’re a Moscow view
You’re oh , so cool
You’re Lester Young
You’re the high In a Tin Pan Alley
You’re Tatum’s left hand , Goodman’s swing band
Lena Horne , I won’t stop
最初は、アニタが「あの声があれば…」と憧れたというサラ・ヴォーン、そしてYardbirdことチャーリー・パーカー、そしてマイルス、ビリー・エクスタイン、レスター・ヤング、アート・ティタム、ベニー・グッドマン、リナ・ホーンが登場する。アート・ティタム・ベニー・グッドマンがバップと言えるかどうか。しかし、みんな大物である。ここでどうしても意外なのは、マイルスである。このアルバム録音時点のマイルスは大物とは言えない。そもそも“gong”が分からない。ボクシングなどで試合開始や終了を告げる「ゴング」なのだろうか、本当に“gong”で間違いないのだろうか?何か分かったら追記します。

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