アーティー・ショウ 1938年

Artie Shaw 1938

僕が最も信頼するジャズ評論家粟村政昭氏は、1970年ごろに出版した『ジャズ・レコード・ブック』のアーティー・ショウの項で、「今日のモダン・ファンはアーティー・ショウのレコードなどには鼻もひっかけぬであろう」と書いている。それから約50年以上経つがアーティー・ショウが再評価されたという話も聞かないので、その後もずっと「鼻もひっかけぬ」状態が続いていると思われるが、アメリカなどでは非常に高く評価されているという話を聞いたことがある。
アーティー・ショウは、15歳の時に家出して以来、何度が郷里に帰ったこともあるようだが、アメリカ各地を転々としながら腕を磨き、30年頃ニューヨークに進出する。そして色々なジャズ・マンと共演を果たしながら腕を磨いたり、田舎に引っ込んだりしていたが、1936年5月異色の編成のスモール・グループを結成し注目を集めるようになる。そして弦楽4重奏を加えたビッグ・バンドを結成するがこれは見事に失敗してしまう。そして翌37年春通常編成のビッグ・バンドを結成するが、スタートがやや遅くベニー・グッドマン、トミー・ドーシーなどのビッグ・バンドの後塵を拝する形となってしまう。しかしショウは着々とバンドの強化に力を注いでいた。1938年初頭にメンバーの3分の一を入れ替え、専属歌手に白人バンドとしては最初に黒人女性歌手、カウント・ベイシー楽団を辞めたばかりのビリー・ホリディを雇い入れセンセイショナルな話題を提供した。
そしてボストンの「ローズランド・ステート・ボールルーム」に長期出演契約を結ぶなど上昇気運に乗るようになった。さらに後にグレン・ミラー楽団で名を上げたジェリー・グレイを迎えハリー・ロジャース、アル・アヴォラというアレンジャー陣を充実させ、バンドスタイルは一新し、素晴らしいビッグ・バンドに急成長するに至るのである。
こういったショウ楽団の評判に目を付けたRCAヴィクターは1938年7月ショウ楽団と専属契約を結ぶ。その第1回目の録音が1938年7月24日に行われる。その内の1曲「ビギン・ザ・ビギン」が空前の大ヒットとなり、一躍ベニー・グッドマン、トミー・ドーシーと並ぶスイング・バンドの地位を獲得した。
1938年はビリー・ホリディが専属歌手として在団した時期であるが、レコーディングはほとんどない。ビリー自身「歌手としての私の経歴はレコードでたどることができるが、アーティー・ショウ時代は空白である」と自伝に書いている。原因はビリーはコロンビアの専属で、ショウはヴィクターの専属だったからである。しかし実際は1曲だけ録音は存在するのである。それは7月24日録音の「エニー・オールド・タイム」であるが、その録音・販売・オクラ入りの経緯は「ビリー・ホリディ 1938年」に記したので、そちらを参照してください。

<Date&Place> … 1938年7月24日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … アーティー・ショウ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Artie Shaw and his orchestra)

Band leader&Clarinetアーティー・ショウArtie Shaw
Trumpetチャック・ピーターソンChuck Petersonクロウド・ボウエンClaude Bowenジョニー・ベストJohnny Best
Tromboneジョージ・アルスGeorge Arusハリー・ロジャースHarry Rodgersテド・ヴェズリーTed Vesely
Reedsロニー・ペリーRonnie Perryハンク・フリーマンHank Freemanレス・ロビンソンLes Robinsonトニー・パスターTony Pastor
Pianoレス・バーネスLes Burness
Guitarアル・アヴォラAl Avola
Bassシド・ワイスSid Weiss
Drumsクリフ・リーマンCliff Leeman
Vocalビリー・ホリディBillie Holiday

まずこの「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ11/ザ・サウンド・オブ・スイング」には、何度も書いて申し訳ないが録音データの記載がない。よって上記パーソネルはWebディスコグラフィーから拾ったものである。

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ11/ザ・サウンド・オブ・スイング」(RCA RA-63)&"Billie Holiday/Kind of Holiday"(House of Jazz 220121)

Record4A面1.ビギン・ザ・ビギンBegin the beguine
Record4A面2.インディアン・ラヴ・コールIndian love call
Record4A面3.バック・ベイ・シャッフルBack bay shuffle
CD2-20.エニー・オールド・タイムAny old time
[Billie Holiday/Kind of Holiday]CDボックス
A-1.「ビギン・ザ・ビギン」
コール・ポーター作の名曲で、アレンジはジェリー・グレイ、名編曲である。このレコードは当時ミリオン・セラーを記録したという。ショウ、パスターのソロ各セクションのアンサンブルを交錯させたアレンジが見事。現在聴いてもその素晴らしさは十分に通用する。
A-2.「インディアン・ラヴ・コール」
ルドルフ・フリムルがミュージカル「ローズマリー」のために書いた名曲という。最初ショウのCLとタム・タムによるバックだけで進行し、やがて合唱が入ってくる部分で曲のムードを出し切り、そこから後は見事なジャズ化が行われるとは解説氏。ブラス陣、サックス陣の使い方も見事で、またパスターのヴォーカルは、この曲のジャズ・ヴォーカルの典型として後にルイ・アームストロングも踏襲するほどの名唱だという。後半のストップ・タイムなどアレンジも工夫が凝らされている。
A-3.「バック・ベイ・シャッフル」
ショウ自作のオリジナル。リーマンのDsもきびきびしており、ショウ、ピーターソン、パスターのソロも短いが光っている。ラスト・コーラスもカンサス・リフ風に重量感のあるアンサンブルで盛り上げている。
CD2-20.「エニー・オールド・タイム」
唯一ビリー・ホリディが加わったショウ楽団のレコード。この録音に関する経緯は冒頭で触れたように、「ビリー・ホリディ 1938年」をそちらを参照のこと。
ゆったりとしたナンバーで、いかにもこのスイング時代らしいアンサンブルが中心だが、冒頭にショウの短いClソロ、アンサンブルを挟んでビリーの2コーラスのヴォーカルとなる。その後短いTsソロからアンサンブルとなって終わる。全体的にはなかなかいい出来である。
左はこの曲が収録されている"Billie Holiday/Kind of Holiday"(House of Jazz 220121)というオランダのレコード会社が出しているCD10枚組ボックス。しかしそれよりもYoutubeにアップされているので、割と簡単に聴くことができる。

<Date&Place> … 1938年9月27日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … アーティー・ショウ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Artie Shaw and his orchestra)

Trombone … テド・ヴェズリー ⇒ ラッセル・ブラウン(Russell Brown)
Reeds … レス・ロビンソン ⇒ ジョージ・ケーニヒ(George Koenig)
以外7月24日と同じ

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ11/ザ・サウンド・オブ・スイング」(RCA RA-63)

Record4A面4.ナイトメアNightmare
Record4A面5.恋とは何でしょうWhat is this thing called love
A-4.「ナイトメア」
ショウのオリジナル。このバンドのテーマ曲として有名になった。ホテルの部屋で考え事をしていた夜に、「夢魔」のように繰り返しショウの脳裏に浮かんだメロディをもとに書いたと言われる。何かが起こりそうな不穏なムードの中に浮かび上がるショウのプレイは鬼気迫るものがある。
A面5.「恋とは何でしょう」
コール・ポーターの有名なヒット・チューンでアレンジはジェリー・グレイ。イントロが終わるとスイング・ビートに乗った演奏が展開され、短いがショウ、ピーターソン、ジョージ・アルス(Tb)のソロが楽しめる。

ショウ楽団は38年10月26日からホテル・リンカーンのブルー・ルームに出演することになり、ニューヨークにおける最初のビッグ・ビジネスのチャンスを得た。そしてNBCネットワークで全米にショウ楽団の演奏は流され、いよいよ人気は高まっていくのである。

<Date&Place> … 1938年11月17日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … アーティー・ショウ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Artie Shaw and his orchestra)

9月27日と同じ。

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ11/ザ・サウンド・オブ・スイング」(RCA RA-63)

Record4A面6.コペンハーゲンCopenhagen
A-6.「コペンハーゲン」
ディキシー、スイング・バンドが好んで取り上げる曲。ルイ・アームストロングも録音している。かつてショウは弦楽四重奏を加えたビッグ・バンドで録音したことがある。全篇ショウのClとスインギーなアンサンブルに終始している。リーマンのバッキングが良い。

<Date&Place> … 1938年12月19日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … アーティー・ショウ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Artie Shaw and his orchestra)

全ては分からず。但し
Tenor Sax … ジョージ・オールド(George Auld)
Drums … ジョージ・ウエットリング(George Wettling)
上記2人が加わったようだ。

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ11/ザ・サウンド・オブ・スイング」(RCA RA-63)

Record4A面7.イット・ハド・トゥ・ビー・ユーIt had to be you

12月に入ってリーマンが病気で倒れたために、短期間ジョージ・ウエットリングが代役を務めた。アイシャム・ジョーンズが1924年に書いたスタンダード・ナンバー。軽快なテンポで、特にサックス・セクションのソフトなアンサンブルが心地よい。ソロはショウと新加入のオールド(Ts)が担当している。

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