ベニー・グッドマン(以下BGと略)は1928年ベン・ポラックのバンドを辞し、その後リーダーとして或いはサイドマンとして他のバンドの吹込みに参加することが多くなったと前回「ベニー・グッドマン 1928年」に書いたが、評論家野口久光氏は「ベニー・グッドマンRCA全曲集」に寄せた解説で、BGがベン・ポラック楽団を辞めたのは、1929年。しかしポラック在団中の1928年1月BG18歳の時に初リーダー録音を行ったとある。しかし”Benny Goodman/Giants of jazz”(TimeLife STL-105)&”The young Benny Goodman”(Timeless CBC 1-088)などには、ベニー・グッドマンズ・ボーイズ(Benny Goodman’s Boys)名義の吹込みが収録されている。ベン・ポラック楽団での最後の吹込みは1929年7月25日なので、少なくともこの時点ではまだベン・ポラックに在団していたと思われるが、或いは退団はしていたが求められて録音には参加したのかもしれない。ポラック入団後確実に頭角を現し、在団中の1928年にはスターと呼ばれる存在になっていたのだろう。
そしてポラックの楽団を辞した後1931年までの3年間余りで200を超えるレコーディングに呼ばれ、34年の自己バンド結成までに吹込みに参加した曲は500曲にも及んだという。いかに彼が様々なレコーディングから引っ張りだこの人気ミュージシャンであったかが分かる。
しかしこの年の10月にウォール街での株価の暴落から大不況時代に入り、レコーディングの数が減りミュージシャン受難の時代となる。そんな折にフリーであるのは大変だったろうと考えるのは、日本のサラリーマンの性で、却って身軽でよかったのかもしれない。バンドの所属していれば仕事にありつけた時代ではないのである。
ということで、1929年のBGを聴いていこう。実は僕の持っている音源は9曲である。
| Vocal & Band leader | … | ベン・ポラック | Ben Pollack |
| Cornet | … | ジミー・マクパートランド | Jimmy McPartland |
| Trombone | … | グレン・ミラー | Glenn Miller |
| Clarinet | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman |
| Piano | … | ヴィック・ブリーディス | Vic Briedis |
| Banjo | … | ディック・モーガン | Dick Morgan |
| Bass | … | ハリー・グッドマン | Harry Goodman |
| Drums | … | レイ・ボデューク | Ray Bauduc |
| CD-6. | ワン・ワン・ブルース | Wang-wang blues |
| CD-7. | イエロウ・ドッグ・ブルース | Yellow dog blues |
| CD-8. | シャツ・テイル・ストンプ | Shirt tail stomp |
これはベン・ポラック楽団のピックアップ・メンバーによるコンボ演奏。”Ben's bad boys”という名義だが、1928年6月録音の”Benny Goodman's Boys”とほぼ同じメンバーである。ここにポラックのジャズへの意欲が見えると言われるが、こういうメンバーでの録音名義はBGの方が先である。後にBGもビッグ・バンドを率いた中にコンボ演奏を交えたりするがその原点はここからかもしれない。ということはビッグ・バンドの大きな流れの一つの原点と言えるかも。
CD-6.ワン・ワン・ブルース
ポール・ホワイトマン楽団のトロンボーン奏者で、30年代の初め日本に滞在していたバスター・ジョンソンが作曲し、ポール・ホワイトマン楽団のレコードがヒットした曲という。形式はポップス型でブルースではない。BGがキッチリと1コーラス(32小節)のソロを決める。
CD-7.イエロゥ・ドッグ・ブルース
ブルースの父W.C.ハンディの名作。ここではベースのハリーがベースではなくチューバを、ドラムを御大のポラックではなくレイ・ボデュークが叩いている。ニュー・オリンズ風の演奏で、BGのソロには尊敬するジミー・ヌーンのフレーズが出てくる。
CD-8.シャツ・テイル・ストンプ
1928年6月4日に「ベニー・グッドマンズ・ボーイズ」名義で吹き込んでいるナンバーの再演。ソロはBGのクラリネット(もちろんテッド・ルイス風に吹いているという)、マクパートランドのコルネット、ギター或いはバンジョー・ソロ、クラリネットとコルネットの掛け合いとなる。
CD解説の野口久光氏は、「ディキシー風のノヴェルティな演奏で、作者のベン・グッドマンはBGのペン・ネイムかもしれない。というのはBG自身がリーダーとして吹き込んでいるからである。これもベンズ・バッド・ボーイズと名乗るセプテット演奏で、BGはテッド・ルイス奏法(こういう奏法があるんだなぁ)の影響を見せ、ユーモラスなお遊びが楽しい」と書いている。氏には申し訳ないが意味が分からない。
| C-melody sax & Band leader | … | ジャック・ペティス | Jack Pettis |
| Trumpet | … | ビル・ムーア | Bill Moore |
| Trombone | … | ジャック・ティーガーデン | Jack Teagarden |
| Clarinet | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman |
| Piano | … | アル・ゲーリング | Al Goering |
| Guitar | … | ディック・モーガン | Dick Morgan |
| Tuba | … | メリル・クライン | Merrill Klein |
| Drums | … | ディロン・オバー | Dillon Ober |
record1.A-6.スィーティスト・メロディ(Sweetest melody)
BGはこの録音のことをすっかり忘れていたという。リーダーのジャック・ペティスは日本では余り知られていない、というか僕は知らなかったのだが、スイング・ジャズ開拓者の一人だという。彼はフランク・トラウンバウアーと同じC-メロディ・サックスのプレイヤーでニュー・オリンズ・リズム・キングのメンバーであったベテランである。彼はベン・バーニーズ・ポピュラー・ダンス・バンドに加わっていたが、主としてそのメンバーを起用してこの録音に臨んだ。BG、ティーガーデンはシカゴで聴いて知っていたという。
ビル・ムーアがタイトなミュート・プレイで最初のコーラスを吹き、ペティスへの道を創る。中間部のティーガーデンのソロは、ブルースをアクセントに用いながらリズミカルでルーズな、ミフ・モールともトミー・ドーシーとも異なったフレーズを紡ぎだす。続くBGのソロもメロディアスで素晴らしい。
| Violin & Band leader | … | ハーブ・ゴードン | Herb Gordon | ||||||
| Trumpet | … | 不明 | Unknown | ||||||
| Trombone | … | 不明 | Unknown | ||||||
| Clarinet & alto sax | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman | ||||||
| Reeds | … | ブルーノ・サルサ― | Bruno Sulser | 、 | ファド・リヴィングストン | Fud Livingston | or | ディック・ステイバイル(?) | Dick Stabile |
| Violin | … | ブルース・ヤンティス | Bruce Yantis | ||||||
| Piano | … | アーネスト・チャールズ | Ernest Charles | ||||||
| Guitar | … | ディック・モーガン | Dick Morgan | or | ディック・マクドノフ | Dick McDonough | |||
| Bass | … | ポール・ウエストン | Paul Weston | ||||||
| Drums & bells | … | チャールズ・ドンドロン | Charles Dondron |
CD-12.ジェリコ(Jericho)
これはどういう類の音楽なのだろう?ジャズではない。劇場のビットなどで演奏されるような音楽なのだろうか?当時のダンス・バンド列伝みたいなものに名前があるので、ホテルのボールルームなどを中心に活躍したバンドなのであろう。メンバーもBGとファド・リビングストン以外ジャズ方面の人ではなさそうなのでプロフィールは割愛する。ポール・ウエストンという著名なピアニスト兼作曲家がいるが、当時まだ17歳であり、キャリア上ベースを弾いたという記事がないので異なる人物であろう。
音の中心はリーダー、ハーブ・ゴードンと思われるヴァイオリンである。曲の流れとして柔らかな音色のクラリネットが欲しかったので当時フルタイム・スタジオ・ミュージシャンとして名が通りつつあったBGに声がかかったということなのだろう。そういう録音は冒頭でふれたように数多あるが、BGのソロがちゃんと入っているものが選ばれているのであろう。
| Clarinet | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman | |||||
| Vocal | … | エディ・トーマス | Eddy Thomas | |||||
| Two trumpet、 | Trombone、 | Reeds、 | Violin、Piano、 | Banjo、 | Bass、 | Drums | … | Unknown |
CD-13.ホワット・ア・ディ! (What a day !)
カール・フェントンは、作曲家兼バンド・リーダーで、1920年代を通じてブランズウィック・レコードのスタジオ・バンドを務めていた。これもジャズというよりも歌手エディ・トーマスのポップ・ヴォーカル・ナンバーで、前曲同様構成上クラリネットの音色、ソロが欲しかったので呼ばれたという類の録音であろう。
エディ・トーマスと同姓同名のドゥー・ワップ、R&B系の歌手がいるが別人。
| Band leader | … | ベン・ポラック | Ben Pollack | |||
| Cornet | … | ジミー・マクパーランド | Jimmy McParland | |||
| Trumpet | … | ルビー・ウエインシュタイン | Ruby Weinstein | |||
| Trombone | … | ジャック・ティーガーデン | Jack Teagarden | |||
| Clarinet & alto sax | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman | |||
| Alto sax | … | ギル・ロディン | Gil Rodin | |||
| Tenor Sax , clarinet & flute | … | ラリー・ビニョン | Larry Binyon | |||
| Violin | … | アル・ベラー | Al Beller | 、 | エド・バーグマン | Ed Bergman |
| Cello | … | ビル・シューマン | Bill Schumann | |||
| Piano | … | ヴィック・ブライディス | Vic Breidis | |||
| Banjo | … | ディック・モーガン | Dick Morgan | |||
| Bass | … | ハリー・グッドマン | Harry Goodman | |||
| Drums | … | レイ・ボデューク | Ray Bauduc | |||
| Vocal | … | バート・ローリン | Burt Lorin |
CD-9.バッシュフル・ベイビー (Bashful baby)
ルイ・シルヴァー、クリス・フレンドの合作したポップス曲。バート・ローリンのヴォーカルをフューチャーした平凡なアレンジながら後半BGがフル・コーラスのソロを取る。ヴォーカルのバート・ローリンは1928年のフランキー・トランバウアーの吹込みに参加していた「スクラッピー・ランバート」の変名である。既にBGスタイルを作り上げていたことを示していると野口氏は書くが、BGの意図でこういう形になったかどうかは分からないと僕は思う。
| Trumpet | … | フィル・ナポレオン | Phil Napoleon | ||
| Trombone | … | ミフ・モール | Miff Mole | ||
| Clarinet | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman | ||
| Tenor sax | … | ベイブ・ラッシン | Babe Russin | ||
| Piano | … | アーサー・シャット | Arthur Schutt | ||
| Bass | … | ジョー・タート | Joe Tarto | ||
| Drums | … | スタン・キング | Stan King | ||
| Vocal | … | エヴァ・テイラー | Eva Taylor |
A-4.ターン・オン・ザ・ヒート(Turn on the heat)
コロンビア・レコードのハウス・バンド「ザ・チャールストン・チェイサーズ」に加わっての録音で、この年B・G・ディサイルヴァとリュウ・ブラウン、ロイ・ヘンダーソンの3人が共作した映画「サニー・サイド・アップ」の主題歌という。ちょっとばかり「二人でお茶を(Tea for two)」に似たメロディーである。ヴォーカルのエヴァ・テイラーの後の快活なBGのソロが聴きものと解説の飯塚氏。
| Trumpet | … | ボブ・エフロス | Bob Effros | 、 | トミー・ゴット | Tommy Gott |
| Trombone | … | トミー・ドーシー | Tommy Dorsey | 、 | チャーリー・バターフィールド | Charlie Butterfield? |
| Clarinet | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman | |||
| Reeds | … | ジョー・デュビン | Joe Dubin | 、 | Unknown | |
| Piano | … | アーヴィング・ブロドスキ | Irving Brodsky | |||
| Guitar | … | トニー・コルッチ? | Tony Colucci | |||
| Bass | … | ジャック・ハンセン | Jack Hansen | |||
| Drums | … | スタン・キング | Stan King |
CD-16.ドゥ・ヤ・ラヴ・ミー?(ジャスト・ア・タイニー・ビット・ドゥ・ヤ?)[Do ya love me ? (Just a tiny bit , do ya ?]
これもジャズではない。バンマスのベン・セルヴァンはたぶん日本ではあまり知られていないと思うが(僕はもちろん知らなかったが)、最も多くのタイトルのレコードを発表したというギネス記録を持っているという。なんとその数は1万3000とも2万曲ともいわれるらしい。ものすごい数である。
そもそもこういう音楽を何というのかが分からない。ともかくある曲をレコーディングする、音の構成としてクラリネットが欲しい、ではBGでも呼ぼうかということになって録音されたようにしか思えない。