ビリー・ホリデイ 1941年

Billy Holiday 1941

ビリー・ホリディの1941年の録音を聴いていこう。音源は前回と同じで、CBSから出ていた「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69)と、"Billie Holiday/Live and private recordings in Chronological order"(レコード23枚組ボックス)です。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」レコード・ジャケット

<Date & Place> … 1941年3月21日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・ウィズ・エディー・ヘイウッド・アンド・ヒズ・オーケストラ(Billie Holiday with Eddie Heywood and his orchestra)

Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Band leader & Pianoエディー・ヘイウッドEddie Heywood
Trumpetシャド・コリンズShad Collins
Alto saxレスリー・ジョナキンスLeslie Johnakinsエディー・ベアフィールドEddie Barefield
Tenor saxレスター・ヤングLester Young
Guitarジョン・コリンズJohn Collins
Bassテッド・スターギスTed Sturgis
Drumsケニー・クラークKenny Clarke

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)

Record2 A-1.みんなすることLet's do it
Record2 A-2.わが心のジョージアGeorgia on my mind
Record2 A-3.暗闇のロマンスRomance in the dark
Record2 A-4.オール・オブ・ミーAll of me

スイング時代最高のコラボレーションの一つと言われたビリーとレスターの約9か月ぶりの共演。解説に拠れば、レスター・ヤングは1940年12月13日(たまたまその日は金曜日だった)のレコーディングを嫌って、カウント・ベイシーの楽団を退団していたという。そしてレスターは1941年2月27日に自己の楽団を率いるのだが、これはわずか約1か月も経たないうちに解体してしまう。このレコーディングは、レスターがバンドを解体した3日後の録音だという。
メンバーのシャド・コリンズ(Tp)はベイシー楽団からの盟友で、ジョン・コリンズ(Gt)と共にレスターのバンドに加わった。 「ビリー・ホリディ/クロノロジカル・オーダー」Rare syudio cuts

Record2 A-1.「みんなすること」
コール・ポーター作のナンセンス・ソングだという。当時売り出し中の人気ピアニスト、エディ・ヘイウッドも味のあるフレージングを聴かせ、ここでのレスターはホーキンス風のフレイジングを吹いているという。 それにしても歌詞がいただけない。冒頭”Chinks do it , Japs do it"と歌っているが、”Chink”は中国人の別称であり、”Jap”は日本人の別称である。コール・ポーターがこんな曲を作っているとは知らなかった。Let's do itの”it”はセックスのことだろう。
Record2 A-2.「わが心のジョージア」
ホーギー・カーマイケル作の名作で後にレイ・チャールズが大ヒットさせたナンバー。解説の巨泉氏は、「ビリーは迫力あるアタック、高音を駆使した新鮮なフレイジングで勝負している」と書いているが、僕は少々崩し過ぎだと思う。こうなると望郷の念を表現したいんだかテクニックを見せたいのかが分からなくなる。
Record2 A-3.「暗闇のロマンス」
軽快なスイング・ナンバー。ヘイウッドのピアノ・ソロが光る。
なお、「Live and private recordings」付録の”Rare studio cuts”というLP1枚にはこの別ヴァージョンが収録されている。
Record2 A-4.「オール・オブ・ミー」
解説の大和氏、巨泉氏ともに絶賛する一大傑作。ビリーのフレイジング、リズム感、フィーリングは最高で切々たる表現の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいという。ビリーのヴォーカルが終わってレスターの僅か8小節のソロだがこれまた絶品で、このレスターに挑むようなビリー、そしてそれを受けるレスター、共に最高のコラボレイションを聴かせてくれる。一言でいえば、「まさにしびれる」1曲である。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」2枚目A面

<Date & Place> … 1941年5月9日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・アンド・ハー・オーケストラ(Billie Holiday and her orchestra)

Band leader & Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Saxジミー・パウエルJimmy Powellレスター・ブーンスLester Booneアーニー・パウエルErnie Powell
Pianoエディー・ヘイウッドEddie Heywood
Guitarポール・チャップマンPaul Chapman
Bassグラチャン・モンカーGrachan Moncur
Drumsハ―バート・コーワンズHerbert Cowans

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)

Record2 A-5.ブルーな気分I'm in a lowdown groove
Record2 A-6.財はみずから築くべしGod bless the child
Record2 A-7.ブルーな私Am I blue ?
Record2 A-8.孤独Solitude

解説に拠れば、アレンジはヘイウッドが担当しているという。またこの頃のビリーは初期の低唱を効かせた表現から離れ、十分に高音を出し切った艶のある声を聴かせ充実した歌唱を示しているという。全てスロウ・ナンバーで統一し、伴奏の在り方を含めて絶頂期におけるビリーの典型的なセッションであるという。 自伝『奇妙な果実』

Record2 A-5.「ブルーな気分」
レイジーでグルーミーなビリーの歌唱とエルドリッジの短いながら実に渋い円熟したミュート・ソロが素晴らしい。
Record2 A-6.「財はみずから築くべし」
自伝『奇妙な果実』によれば、母親とお金のことで喧嘩した後に作った曲という。このシリーズは、邦題の意訳がすごいが、これは正式な邦題なのだろうか?最近はそのまま「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」となっているような気がするが…。ともかくビリーの歌唱の迫力がすごいとは巨泉氏。
Record2 A-7.「ブルーな私」
エルドリッジのオブリガードを受けながらビリーは割とストレートに歌っている。僕はこういうストレートに歌うビリーの方が好きだなぁ。
Record2 A-8.「孤独」
ご存知のようにデューク・エリントンの作。ビリーが歌う初めてのエリントン・ナンバーだという。これも自伝によれば母親が好きで、鈴のような甲高い声で歌ったという。かなりテンポを落とした歌唱である。ここまでスロウなナンバーはこれまでになかったのではないかと思う。

「ビリー・ホリディ/クロノロジカル・オーダー」レコード・ボックス

<Date & Place> … 1941年6月 ニューヨーク・モンローズ・アップタウン・ハウス(Monroe's uptown house)におけるジェリー・ニューマンズ・プライヴェイト・レコーディング

<Personnel> … ビリー・ホリディ(Billie Holiday)

Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Alto saxフロイド・"ホースコラー"・ウィリアムスFloyd "Horsecollar" Wiiiams
Piano不明Unknown
Bass不明Unknown
Drums不明Unknown

<Contents> … "Billie Holiday/Live and private recordings in Chronological order"&"Harlem Odyssey"(Xanadu 112)

Record1 B-1.&A-1.君ゆえに泣くI cried for you
Record1 B-2.&A-2.ファイン・アンド・メロウFine and Mellow
[Harlem Odyssey]レコード・ジャケット
「君ゆえに泣く」
ビリーの愛唱歌として有名な曲。ここでビリーは、例の引っ張るようなタイミングでかなり崩して自由に歌っている。アルトのフロイド・“ホースコラー”・ウィリアムスは初登場のアルト奏者で、レスターに近い感じの割といいプレイを行っている。
「ファイン・アンド・メロウ」
ビリーはブルース歌手のようなイメージがあるが実は余りブルースを歌っていないことはよく知られている。ところがこれは典型的なブルース。ビリーは高音域で歌っている。客席の反応もかなり大きく、観客もビリーのブルースを聴きたがったのかなと思う。

ジェリー・ニューマンズ・プライヴェイト・レコーディング(Jerry Newman's private recordings)
最後に「ジェリー・ニューマンズ・プライヴェイト・レコーディング」に触れておこう。
ジェリー・ニューマン(本名:Jerome Robert Newman)は、1918年8月24日にニューヨーク・ブルックリンで生まれで、当時はコロンビア大学の学生でした。彼はアセテート・ディスク録音機をハーレムの「ミントンズ・プレイハウス」と「クラーク・モンローズ・アップタウン・ハウス」に持ち込み、主にアフター・アワーに行われるセッションを無許可に録音を行いました。しかし間もなく「録音禁止亭令」が出され、録音はできなくなります。無許可で録音を行ったことは決して褒められたことではありませんが、彼のこうした行為が無ければ、スイングとモダン・ジャズの過渡期について分からないことがもっともっと多かったはずです。
彼は数多くの録音を残していますが、最も有名なのは、ミントンズ・プレイハウスでチャーリー・クリスチャンの演奏を録音したもので、これは「チャーリー・クリスチャン・アット・ミントンズ」としてレコード化され、貴重なバップ胎動期の録音としてつとに有名です。
カール・ウォイデック氏によれば、ニューマン氏自身の関心が、このバップの台頭ということにあったかどうかは不明で、その証として彼はチャーリー・パーカーの録音は一度しか残していません。実に得難い業績を残した人物ですが、その彼がビリー・ホリディのライヴも録音していたとはこのレコードで初めて知りました。実に貴重な音源です。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」2枚目B面

<Date & Place> … 1941年8月7日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・ウィズ・テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Billie Holiday with Eddie Teddy Wilson and his orchestra)

Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Band leader & Pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetエメット・ベリーEmmett Berry
Clarinetジミー・ハミルトンJimmy Hamilton
Alto saxハイミー・シャーツァーHymie Schertzer
Tenor saxベイブ・ラッシンBabe Russin
Guitarアル・ケイシーAl Casey
Bassジョン・ウィリアムスJohn Williams
DrumsJ.C.ハードJ.C.Heard

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)

Record2 B-1.ジムJim
Record2 B-2.君待つ海辺I cover the waterfront
Record2 B-3.愛か別れかLove me or leave me
Record2 B-4.暗い日曜日Gloomy Sunday

約1年ぶりのテディ・ウィルソンとのセッション。メンバーはベニー・グッドマンから独立して結成した自分のバンドのメンバーを中心に構成している。この録音において最も注目すべきことは、これまでほとんど無視してきたヴァ―ス部分から歌い始めていることである。4曲中3曲においてヴァ―スを歌っている。これは作詞・作曲者の意図を忠実にくみ取り、歌詞の内容をこれまで以上に重視するようになった証と言える。 「ビリー・ホリディ物語 第5集」解説

Record2 B-1.「ジム」
「ジム」はJamesの短縮形。つまり男の名である。ちっとも優しくしてくれないジムだが、自分は彼への思いを抑えきれないという切ない歌だが、実に抑えた歌い方である。テディのピアノも良く全体的に美しい歌である。
Record2 B-2.「君待つ海辺」
この曲はビリーの愛唱歌になる曲で、ここではきっちりヴァ―スを歌っている。3年後コモドアに決定的な名唱を残すことになるが、これもこれで素晴らしいと思う。
Record2 B-3.「愛か別れか」
この曲は今でも歌われ演奏されるスタンダードだが、ヴァ―スが歌われるのは珍しいという。間奏のベイブ・ラッシンのテナーも中々良い。
Record2 B-4.「暗い日曜日」
ちょっと古い人なら知っている自殺者が続出したという伝説のダミアのシャンソン曲(ただし作曲者はハンガリー人)。ビリーは一言一言噛みしめるように歌う。ダミアに引けを取らない名唱。

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