チック・ウエッブ 1934年

Chick Webb 1934

1931年以来実に久しぶりの登場である。当然この3年間も活動していたと思われるが、不況下でレコーディングが無かったかあったとしても数は少なかったと思われる。ウェッブのレコードというのは、サイドマンとしての吹込みは非常に少なくあまり見かけない。その数少ない録音が5月に参加したメズ・メズロウとのセッションである。
このレコードは、日本ビクターから1964年に「ジャズ・コレクターズ・アイテム」シリーズの1枚として発売されたもので、僕はいつかは忘れたが中古レコード店で見つけた購入した。タイトルは「メズロウ&ラドニア」とあるように、クラリネットのメズ・メズロウとトランペットのトミー・ラドニアの4つのセッションから全16曲を収めている。そもそも今ではメズロウやラドニアのレコードはあまり見かけないので、これを見つけた時には嬉々として買ったことを覚えている。
レコード裏面のライナー・ノーツは油井正一氏が担当しており、それによれば、このレコードは大衆受けを狙ったものではなく、最初から本当のジャズ愛好家のみを対象として製作された、多分にハイ・ブロウなレコーディング・コンボの傑作集である。
まずメンバーがすごい。まさにオール・スターの顔ぶれで、白黒混合のレコーディングとしてはごく初期のものと言える。カミンスキー、メズロウ、フリーマンはオースチン・ハイスクール・ギャング出身のシカゴアン達であり、ベニー・カーター、ジョン・カービーはご存知ヘンダーソンやドン・レッドマンなどの楽団で名を売った名手、そしてウェッブも自身のバンドを持つ強力なリズムマンであり、そしてなんといってもウィリー・ザ・ライオン・スミスのコンボ・レコーディングはあまり見かけないのである。実に興味深い録音と言える。
粟村政昭氏は『ジャズ・レコード・ブック』メズロウの項でこのレコードを取り上げ、「メズロウの真価は、このレコードのようなより後年のレコーディングの中に記録されている。(中略)オール・スターによるスイング風のこれも歴史的な名演集である」と高く評価している。確かに素晴らしい演奏ばかりである。

<Date&Place> … 1934年5月7日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … メズ・メズロウ・アンド・ヒズ・リズム(Mezz Mezzrow and his rhythm)

Band Leader , Clarinet & Alto saxメズ・メズロウMezz Mezzrow
Trumpetマックス・カミンスキーMax Kaminskyルノー・ジョーンズReunald Jonesチェルシー・クォーリーChelsea Quealey
Tromboneフロイド・オブライエンFloyd O’Brien
Alto saxベニー・カーターBenny Carter
Tenor saxバド・フリーマンBud Freeman
Pianoウィリー・ザ・ライオン・スミスWillie the Lion Smith
Bassジョン・カービィJohn Kirby
Drumsチック・ウェッブChick Webb

ともかく豪華な顔ぶれである。多分僕が持っているチック・ウエッブがサイドマンとして参加したレコードはこれだけである。

<Contents> … 「メズ・メズロウとトミー・ラドニア」(Victor RA-5324)

F
A面1.センディン・ザ・ヴァイパースSendin' the vipers
A面2.オールド・ファッションド・ラヴOld fashioned love
A面3.カルメット街35丁目35th and Calumet
A面4.アポロジーApologies
A-1.[センディン・ザ・ヴァイパース]
メズロウのClソロで始まり、アンサンブルなども計算されているように思えるが、油井氏によればジャム・セッションだという。グロウルのTpソロはルノーでこの人のソロは極めて珍しいという。続くアルト・ソロはベニー・カーター、そしてTbソロが入り、再びアルト・ソロそして次のTpはカミンスキー、さらにスミスのソロが入り、合奏でエンディングに向かうがフェイド・アウトで終わるのは珍しい。
A-2.[オールド・ファッションド・ラヴ]
アレックス・ヒルとメズロウのアレンジ。ニューオリンズ風でTbがメロディーを吹く。Tpソロはカミンスキー。フリーマンのソロが入る。
A-3.[カルメット街35丁目]
「カルメット街35丁目」とは、サンセット・カフェをはじめ、歴史に残るシカゴのジャズ・スポットが集まっていた町の名前だという。オブライエンとメズロウのアレンジ。Tbソロ、Asソロからアンサンブルを経てエンディングに向かう。
A-4.[アポロジー]
「許してね」ということでメズロウの作曲になっているが、実はキング・オリヴァーの「ディッパーマウス・ブルース」をそっくりいただいたのでこう名付けたという。
ブギー調のナンバーで、ニューヨーク派の代表的なピアニスト、スミスがブギーを弾くのが興味深い。ブギー調であり、スイング的なリフが入るところが面白い。全般を通して短いが各自のソロがそれぞれ聴き応えがあって実に楽しい演奏となっている。ジョン・カービーのソロ、チック・ウェッブのブラシによるソロが聴けるのがうれしい。ただ惜しむらくはピアノの録音があまり良くなく聴きづらい。耳を凝らして聴いてみると意外と前衛的なことをやっているような気がする。

チック・ウェッブ「伝説」レコード・ジャケット

<Date&Place> … 1934年9月10日、11月19日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … チック・ウエッブ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Chick Webb and his Orchestra)

Band leader & Drumsチック・ウェッブChick Webb
trumpetマリオ・バウザMario Bauzaボビー・スタークBobby Starkタフト・ジョーダンTaft Jordan
Tromboneサンディ・ウィリアムスSandy Williamsクロード・ジョーンズClaude Jones
Clarinet & Alto saxピート・クラークPete Clark
Alto saxエドガー・サンプソンEdger Sampson
Tenor saxウェイマン・カーヴァ―Wayman Carver
Pianoジョー・スティールJoe Steele
Guitarジョン・トルーハートJohn Trueheart
Bassジョン・カービィ―John Kirby
チック・ウェッブ「伝説」A面ラベル 1931年の前回の録音時と比べるとメンバーは大幅に変わっている。ギターのトルーハート以外は新しいメンバーである。
9月10日と2か月後の11月19日の2セッションから計6曲収録されているが、2つの録音ではメンバーの交替はなく同じメンバー。

<Contents> … 「チック・ウェッブ/伝説」(SDL 10344)

A面5.ザット・リズム・マンThat rhythm man9月10日
A面6.ブルー・マイナーBlue minor9月10日
A面7.イッツ・オーヴァー・ビコーズ・ウィーアー・スルーIt’s over because we're through11月19日
B面1.その手はないよDon’t be that way11月19日
B面2.ホワット・ア・シャッフルWhat a shuffle11月19日
B面3.ブルー・ラグBlue rag11月19日
A-5.[ザット・リズム・マン]
1929年にアンディ・ラザーフ作詞、ファッツ・ウォーラー作曲の黒人レヴュー「ホット・チョコレート」の主題歌。1929年にデューク・エリントンが既に吹き込んでいる。陽気なストンプ調の演奏で、中間部のトランペット・ソロとヴォーカルはタフト・ジョーダン。他にサンプソンのAs、ウィリアムスのTbソロが入り、ラストのTpソロはボビー・スターク。
A-6.[ブルー・マイナー]
サンプソンの作ったスインギーな曲で、レコード解説の飯塚経世氏は「名曲」としている。ウェッブ楽団の根城サヴォイ・ボールルームでは、ダンサーたちに人気があった曲だという。ソロは、ウィリアムスのTb⇒クラークのCl⇒スティールのP(レコード解説の飯塚氏はカークパトリックとしているが、カークパトリックは参加していない)⇒ジョーダンのTp⇒サンプソンAs。
チック・ウェッブ「伝説」B面ラベル A-7.[イッツ・オーヴァー・ビコーズ・ウィーアー・スルー]
ウィリー・ブライアントの作った甘いソフトなバラードで、タフト・ジョーダンのTpとヴォーカルがフューチャーされる。
34年当時ルイ・アームストロングは欧州楽旅中で、その留守中ニューヨークではルイとよく似ているタフト・ジョーダンの演奏が好評を博したという。飯塚氏はよく似ていると書くが、たまたま似ているということではなくうまく真似をしているのであろう。Tpのカデンツァもうまく似せている。
B-1.[その手はないよ]
1934年サンプソンの作ったスインギーな名曲で、1938年ベニー・グッドマンで大ヒットし、スイング時代のスタンダード・ナンバーとなった曲たが、これがオリジナルだという。
ソロは、ウィリアムスのTs⇒サンプソンのAs⇒ジョーンズのTb⇒ジョーダンのTp、そして御大ウェッブのドラムの短いソロが入りエンディングとなる。
B-2.[ホワット・ア・シャッフル]
1931年の時のピアノのカークパトリックの作った曲で、実にスインギーなナンバーである。ジョーダンとスタークのTpやサンプソンのAs、ウィリアムスのTbなどのソロが楽しめる。
B-3.[ブルー・ラグ]
Asのサンプソンの作。後にアーヴィング・ミルズが歌詞をつけヴォーカル・ナンバーとしても奏されるようになったという。
ここで聴かれるTpソロはボビー・スタークで、続いてサンプソンのAs、スティールのブギー・ウギー風のピアノ・ソロが楽しい。

こう聴いていくとウェッブ楽団はメンバーが作曲もできるというのは非常な強みだったのではないかと思える。また全篇に渡って低音部を支えるジョン・カービーの存在も大きい。

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