ディジー・ガレスピー 1940年
Dizzy Gillespie 1940
僕の最も信頼するジャズ評論家粟村政昭氏はその著『モダン・ジャズの歴史』でディズの初吹き込みにふれた後次のように記している。
「テディ・ヒルの下を離れた後、ディジーはキャブ・キャロウェイの傘下に加わり結局39年の秋から41年9月まで在団してここを追われた。」
この「追われた」事情については後に触れるとして、粟村氏によれば、この当時ディズの興味はもっぱら新しいハーモニーの探究にあって、楽器を十分に鳴らすということについては、比較的関心が薄かったといわれる。もちろんこれは、彼がこうした基本的な修練をないがしろにしていたということではなく、何が第一関心事であったかという比較の問題であろう。いじれにしろ、「グッド・トーン」ということが最優先したスイング時代にあっては、こうしたディズ流の考え方が、第一線の連中のそれとかなりかけ離れたものになっていたことは事実であろうと記している。
その例として、当時同じキャブ・キャロウェイ楽団の大スターであったチュー・ベリーは、コマーシャル・バンドのリーダーであったフレディ・マーチンのテナーを良い音をしているという理由だけで高く買っていたという。それだけに彼がキャブのバンドの中にミルト・ヒントンというよき理解者を見出し得たということは、彼自らの働きかけがあったにせよ幸運な配偶であり、この当時ディズはヒントンと謀って、しばしばステージの上で日頃の研鑽の成果を試みたという。しかしリーダーのキャブはこうしたディズのプレイを嫌って、「チャイニーズ・ミュージック」と呼んで冷笑したという話が伝わっているが、その割には何度も彼にソロの機会を与えており、ディズがキャブの下で吹きこんだ64曲のスタジオ録音のうち、計10曲に彼のソロを聴くことができるという。
この粟村氏の記述は、ディスコグラフィーにキャブ・キャロウェイのバンドでの録音が載っていないことの要因が見落としではないかと思わせるに十分である。
ディズ自身の理想なり関心なりがどうであれ、ジョナ・ジョーンズが加入してからのキャロウェイ楽団は、録音に臨んではもっぱらジョーンズにトランペット・ソロを取らせるようになった。もしキャブとの衝突が無く「追われる」ことがなかったとしても、彼が引き続きそこに留まったかどうかは大いに疑問である。ただ、パーカーと違って生来ビッグ・バンドでプレイすることを好んだディズは、キャブのバンドが一流のオーケストラであったことは十分承知していたであろうし、その点での失着が全くなかったとは言い切れないだろう。
忘れないうちに「追われる」原因を書いておこう。ただこれは資料によって若干の相違がある。
ある資料は、ディズの唾がキャブに当たったことで腹を立てたキャブがディズを解雇するが、これに怒ったディズは、持っていた小型ナイフで刺してしまった、という記述があり、また一方ステージ上演奏中キャブが譜面の束を誤ってディズの椅子の上においてしまった、これを自分に対する嫌がらせと思ったディズは日頃のわだかまりもありついに我慢が出来ず小型ナイフでキャブに突きかけ、ナイフはキャブの足に刺さってしまった云々…。
真相は僕などの知るところではないが、僕はこの話を初めて読んだとき、何度か来日公演を見(テレビでだが)、ユーモアたっぷりで愉快なオジサン風のディズが人をナイフで刺すなどとはとても信じられなかった。ともかく2人の間には以前から軋轢があったことは確かであろう。
しかしいかなる事情があるにせよ、所属するバンドのリーダーを傷つけるということは、その後の音楽活動に支障が出て当然と思われるのだが、ディズは翌42年6月にはレス・ハイト楽団で、7月にはラッキー・ミリンダ楽団で吹込みに参加していることからこの事件のマイナス面での影響はそれほど大きくなかったと見て差し支えないと思われる。
粟村氏はキャロウェイ時代の録音の内ドン・レッドマンがアレンジした“Cupid’s nightmare”や“Hard times”辺りのソロが有名だというが、この両曲とも1940年に録音されている。これらも全体としてはまだまだロイ・エルドリッジの亜流といった線が強く、後年の改革を思わせる鋭さは、いまだ表面には表れていないと粟村氏は評している。
<Date&Place> … 1940年3月8日 シカゴにて録音
<Personnel> … キャブ・キャロウェイ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Cab Calloway and his orchestra)
僕が持っているキャブの前回(1939年7月17日)録音から大幅な移動がある。注目はディズである。
Trumpet … アーヴィング・ランドルフ ⇒ ディジー・ガレスピー
Trombone … クロウド・ジョーンズ、デ・プリースト・ホィーラー ⇒ タイリー・グレン、クエンティン・ジャクソン
Clarinet & Alto Sax … チャウンシー・ホウトン ⇒ ヒルトン・ジェファーソン
Baritone sax&Clarinet … ジェリー・ブレイク ⇒ In
Guitar … モーリス・ホワイト ⇒ ダニー・バーカー
<Contents> … "Cab Calloway/Boog-it"(Green line records JJ-607)
| A面-3. | チョップ、チョップ、チャーリー・チャン | Chop , chop , Charlie Chan |
| A面-4. | ブーグ・イット | Boog-it |
A面-3.「チョップ、チョップ、チャーリー・チャン」、A面-4.「ブーグ・イット」
どちらもキャブのヴォーカルがメインである。中間にTs、Tpソロが入るが多分チューとガレスピーであろう。
<Date&Place> … 1940年5月15、18日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … キャブ・キャロウェイ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Cab Calloway and his orchestra)
前回3月8日から移動無し。
<Contents> … "Chu Berry/1937-40"(Everybody's 1002)&"Cab Calloway/Penguin swing"(Archives of Jazz 3801082)&"Chu Berry/Chu"(Epic SICP 4013)
| 邦題 | 原題 | 録音日 | 収録 | 収録箇所 |
| ザ・ローン・アレンジャー | The lone arranger | 5月15日 | "1937-40" | B面3. |
| ザ・ローン・アレンジャー | The lone arranger | 5月15日 | "1937-40" | B面4. |
| コーリング・オール・バーズ | Calling all bars | 5月18日 | "Penguin" | CD-6. |
| ザ・ローンレンジャー | The lone ranger | 5月18日 | "Penguin" | CD-7. |
| フーズ・ヤフーディ? | Who’s Yehoodi ? | 5月18日 | "Penguin" | CD-8. |
| トプシー・ターヴィー | Topsy turvy(Hard times) | 5月18日 | "Chu" | CD-11. |
ザ・ローン・アレンジャー
5月15日に2回、18日と計3回吹き込んでいるが、よくタイトルを見ると5月15日のは"The lone arranger"(寂しき編曲家)であり、5月18日のは"The lone ranger"(寂しき突撃兵)と異なるが曲は同じである。どちらが間違えているのであろう?Webで検索する限りどうも"The lone arranger"(寂しき編曲家)が正しそうである。
3回の吹込みの内5月18日盤には(previously unissued)とあるので発売されなかった可能性が高い。ということはどういうことなのだろう?5月15日に2回吹き込んだが満足いく出来ではなく、18日にもう一度吹き込んだが満足できず、結局5月15日吹込みを<正>としたということだろうか?
3ヴァージョンとも構成は同じで、アンサンブル中心、間にTs、Tpそしてもう一度Tsソロが入る。これはチューとディズであろう。僕には3ヴァージョンとも甲乙はつけがたい感じがするが、どれがマスターとなったのかは今のところ不明である。
コーリング・オール・バーズ
未発表テイクという。アンサンブルの後TpとTsのソロ、再度短いTp、Tbのソロ、そしてアンサンブルとTsの絡みがありアンサンブルとなって終わる。アンサンブルの響きなどグレン・ミラーを感じさせる箇所もある。Tpソロ(多分ディズ)の輝かしい響きが印象的である。
フーズ・ヤフーディ?
アンサンブルの後語りのようにキャブのヴォーカルが始まる。ヴォーカルの後アンサンブルを間に挟んだTsソロが入り、再びヴォーカルとなる。このTsソロは余裕を感じさせるリラックスしたものである。
トプシー・ターヴィー
ガレスピーによるソロが有名であるが、先ずはキャブのヴォーカルでスタートする。ディズのソロはその後に出る。この時期としては割と長尺で確かに素晴らしい。そして続くチューのソロも聴き応えがある。最後はキャブの語りとアンサンブルで終わる。
<Date&Place> … 1940年6月27日 シカゴにて録音
<Personnel> … キャブ・キャロウェイ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Cab Calloway and his orchestra)
前回5月18日から移動無し。
<Contents> … "Cab Calloway/Penguin swing"(Archives of Jazz 3801082)&"Chu Berry/Chu"(Epic SICP 4013)&"Chu Berry/1937-40"(Everybody's 1002)
| 邦題 | 原題 | 収録 | 収録箇所 |
| バイ・バイ・ブルース | Bye bye blues | "Penguin" | CD-9. |
| カモン・ウィズ・ザ・カモン | Come on with the "Come on" | "Chu" | CD-12. |
| ゴースト・オブ・ア・チャンス | (I don't stand)a ghost of a chance (with you) | "Chu" | CD-13. |
| ゴースト・オブ・ア・チャンス | (I don't stand)a ghost of a chance (with you) | "1937-40" | B面5. |
バイ・バイ・ブルース
アンサンブルの後まずソロを取るのはチュー、これが素晴らしい。そしてディズの輝かしいソロへ受け渡される。次いでタイリー・グレンのヴァイブのソロとなるがこれはであろう。最後にミルト・ヒントンの短いBソロも入る。ノン・ヴォーカル・ナンバー。
カモン・ウィズ・ザ・カモン
アップ・テンポのナンバー。アンサンブルからキャブのヴォーカルが入り、まずソロを取るのはチュー。これも素晴らしい。この時期チューは絶好調だったのではないだろうか。アンサンブルを挟んでディズの短いソロ、Cl、Tb、Dsの短いソロが散りばめられる。
ゴースト・オブ・ア・チャンス
"Chu"にはmatrix No.WC3163-1、"1937-40"には別ヴァージョンのmatrix No.WC3163-2が収録されている。
構成はどちらも同じで全篇アンサンブルをバックに力強いチューのTsソロがフューチャーされる。どちらも素晴らしいが"Chu"の方がマスターであろう。いずれにせよチューの代表作であることには間違いない。
<Date&Place> … 1940年8月5,28日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … キャブ・キャロウェイ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Cab Calloway and his orchestra)
前回6月27日から移動無し。
<Contents> … "Cab Calloway/Penguin swing"(Archives of Jazz 3801082)&"Chu Berry/Chu"(Epic SICP 4013)&"Chu Berry/1937-40"(Everybody's 1002)
| 邦題 | 原題 | 録音日 | 収録 | 収録箇所 | 収録 | 収録箇所 |
| サンセット | Sunset | 8月5日 | "Penguin" | CD-10. |
| パパズ・イン・ベッド・ウィズ・ヒズ・ブリッチェズ・オン | Papa's in bed with his britches on | 8月5日 | "1937-40" | B面6. |
| キューピッズ・ナイトメア | Cupid's nightmare | 8月28日 | "Penguin" | CD-11. |
| ホット・エア | Hot air | 8月28日 | "Penguin" | CD-12. |
| ロンサム・ナイツ | Lonesome nights | 8月28日 | "Chu" | CD-14. | "1937-40" | B面8. |
| ロンサム・ナイツ | Lonesome nights | 8月28日 | "1937-40" | B面7. |
サンセット
一転してスローなナンバー。アンサンブルはミュートのTpがリードを取る。Tsの短いソロの後ヴォーカルが入るがここではC調なしである。Tpのソロはない。
パパズ・イン・ベッド・ウィズ・ヒズ・ブリッチェズ・オン
アンサンブルからバンドのコーラス、そしてキャブのヴォーカルとなる。ソロはチュー続いてディズ、グレンの短いソロが入り、再びキャブのヴォーカルとなる。
キューピッズ・ナイトメア
キャロウェイ時代でディズのソロの有名なナンバーでヴォーカルはなし。冒頭でアンサンブルをリードするところとアンサンブルの後の2カ所Tpソロがあるが、実際聴いてみると実に短い。審美耳がない僕には重要性が分からないでいる。
ホット・エア
アンサンブルの後TpとTsは2カ所で短いソロを取るが、この頃はソロが売り物ということではなかったのかと思う。ヴォーカルなし。
ロンサム・ナイツ
"1937-40"には、matrix No.CO 28518-1と2の2つのヴァージョン、"Chu"にはmatrix No.CO 28518-1が収録されている。matrix No.CO 28518-1がマスターであろう。
構成はどのヴァージョンも同じ。テンポを抑えたナンバー、途中短いTpソロが入るが、「ゴースト・オブ・ア・チャンス」同様チューの素晴らしいTsソロが全編を支配している。これもチューの代表作と言えるであろう。
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