柴田浩一氏はその著『デューク・エリントン』で、各年のデュークとその楽団に起こった主な出来事を簡単にまとめている。それによるとこの年は、
個人技を十二分に発揮させるため、その人のために書いた最初の作品『クーティのコンチェルト』、『バーニーのコンチェルト』を、この年初めて発表したことを最初に掲げている。デュークはその成果が気に入ったのかこの年中に、ローレンス・ブラウン、レックス・スチュワートのためのコンチェルトも作っている。
次にアーサー・ホエッツェルが退団し、ウォーレス・ジョーンズが入団したことを上げている。しかし各種ディスコグラフィーでは記述が異なる。
HistoryのCDに付いているパーソネルでは、ウォーレス・ジョーンズが加わっての初録音は1936年12月21日である。
一方Ellingtoniaでは、ホエッツェルは1936年12月21日を含め1938年2月2日の吹込みまで参加し、ウォーレスは1938年2月24日の吹込みに参加、しかし3月3日ではホエッツェルが戻り、4月11日からはずーっとウォーレスである。
それでは左下CD3枚セット”Columbia years”ではどうかというと、1938年2月2日の録音ではアーサー・ホエッツェル、2月25日ではウォーレス、しかし3月3日ではホエッツェルに戻り、12月19日はウォーレスで、以降はずーっとウォーレスである。どうもかみ合わない。
メンバーの移動について見れば、もう一人ワシントン時代からの盟友オットー・ハードウィックである。彼は2月27日の吹込みには参加しているが翌日28日には不参加。Historyでは7月17日から、Ellingtoniaでは7月29日から復帰している。
次に柴田氏は、マネージャー、アーヴィング・ミルズが2つレコード会社を設立したことを挙げている。2つのレーベルの内「マスター」レーベルにはオーケストラ、「ヴァラエティ」レーベルにはコンボを録音したとある。Historyには初録音時のレーベルの記載がなく、Ellingtoniaはどちうらも「マスター」レーベル、”Columbia years”では、コンボは「ヴァラエティ」レーベルと記載されているが、ミルズのレコード会社の音源は1曲しか収録されていない。
因みに柴田氏によれば、Tpのクーティ・ウィリアムスはこの時期絶頂期を迎えたという。一音たりとも破綻がなく、間を測りながらの創造的な吹奏はすごみさえ感じさせるという。
またこの年も歌手が加わったり、メンバーも録音時に不在だったりするが、基本メンバーは下記で大きな移動はないので、以降移動があったら記載することにしよう。
この回も音源は、全てHistory社から出ている"The Duke"(History 204140 302〜204159 302)CD40枚組(一部”Columbia years”にも収録)なので、コンテンツ表記は収録場所、曲名のみにする。
| Band leader & Piano | … | デューク・エリントン | Duke Ellington | |||
| trumpet | … | アーサー・ウェッツェル | Arthur Whetsel | 、 | クーティ・ウィリアムス | Cootie Williams |
| Cornet | … | レックス・スチュアート | Rex Stewart | |||
| Trombone | … | ジョー・”トリッキー・サム”・ナントン | Joe “Tricky Sam” Nanton | 、 | ローレンス・ブラウン | Lawrence Brown |
| Valve‐Trombone | … | ファン・ティゾール | Juan Tizol | |||
| Clarinet,Soprano,Alto & sax | … | ジョニー・ホッジス | Johnny Hodges | |||
| Clarinet , Alto & Bass sax | … | オットー・ハードウィック | Otto Hardwick | |||
| Clarinet & Tenor sax | … | バーニー・ビガード | Barney Bigard | |||
| Clarinet,Alto & Baritone sax | … | ハリー・カーネイ | Harry Carney | |||
| Banjo & Guitar | … | フレッド・ガイ | Fred Guy | |||
| String Bass | … | ビリー・テイラー | Billy Taylor | |||
| Drums | … | ソニー・グリア | Sonny Greer | |||
| Vocal | … | アイヴィー・アンダーソン | Ivie Anderson |
HistoryとEllingtoniaとのパーソネルの違いは、Historyはこの録音に関してはTbのローレンス・ブラウンがいないとしているのに対してEllingtoniaは参加しているというところだけである。
Ellingtoniaによれば、この日に先立つ1月3日に3曲ほど録音をしているがそれはすべて破棄され、この日のレコーディングが行われたという。そしてこの録音はダブル・ベースではなくビリー・テイラーだけが加わっている。
| CD16-13. | アイ・ドント・ノウ・ホワイ・アイ・ラヴ・ユー・ソー | I don’t know why I love you so |
| CD16-14. | ダイナ・ルー | Dinah Lou |
1936年の次の録音は、1か月余り後の2月末に行われる。日付としては2月27日と28日であり、2日間にわたる同一セッションととらえてよいだろう。
| CD16-15. | イズント・ラヴ・ザ・ストレンジスト・シング | Isn't love the strangest thing | 2月27日 |
| CD16-16. | ノー・グレーター・ラヴ | (There is) No greater love | 2月27日 |
| CD16-17. | クラリネット・ラメント(バーニーズ・コンチェルト) | Clarinet lament(Barney's concerto) | 2月27日 |
| CD16-18. | エコーズ・オブ・ハーレム(クーティーズ・コンチェルト) | Echoes of harlem(Cootie's concerto) | 2月27日 |
| CD16-19. | ラヴ・イズ・ライク・ア・シガレット | Love is like a cigarette | 2月28日 |
| CD16-20. | キッシン・マイ・ベイビー・グッド・ナイト | Kissin' my baby good night | 2月28日 |
| CD17-1. | オー・ベイビー!・メイビー・サムデイ | Oh baby ! maybe someday | 2月28日 |
パーソネルが少々ややこしい。曲と共に紹介していこう。これまでのエリントンの録音は、基本的に1セッションは同一メンバーで行ってきたのに対し、かなりの変わりようである。
D16-15.[イズント・ラヴ・ザ・ストレンジスト・シング]
パーソネルは、1月20日と同じメンバー。ClのリードするアンサンブルからそのままClソロとなり、アイヴィーのヴォーカルとなる。Tpがオブリガードを付ける。そしてTpソロとなる。
D16-16.[ノー・グレーター・ラヴ]
パーソネルはほとんど同じだが、ベースだけがビリー・テイラーからヘイズ・アルヴィスに代わるのである。
曲は今でも奏されるアイシャム・ジョーンズ作のスタンダード・ナンバー。非常にオーソドックスなアレンジでこの曲の演奏のスタンダードを作ったような気がする。
D16-17.[クラリネット・ラメント]
ベースはそのままアルヴィスで、オットー・ハードウィックが抜けるのである。
冒頭記載した個人技を十二分に発揮させるため、その人のために書いた最初の作品。ゆったりとしたテンポで全面にビガードのクラリネットがフューチャーされる。
D16-18.[エコーズ・オブ・ハーレム]
ベースはアルヴィス
個人フューチャーものの第2弾。全盛期を迎えつつあったクーティーに焦点を当てたとあって、この面でも1、2を争う聴きものとなっている。クーティーはオープンで、ミュートで単に早吹きではなくじっくりと取り組んでいる感じがする。しかし何故かこの曲からハードウィックが抜けるのである。
D16-19.[ラヴ・イズ・ライク・ア・シガレット]
この2月28日の録音では、ハードウィックは初めから参加しておらず、ピート・クラークというアルト・サックス奏者が加わる。アンダーソンのヴォーカル入り。
CD16-20.[キッシン・マイ・ベイビー・グッド・ナイト]
Asがリードするアンサンブルは、ちょっとラテンの香りがする。ビリー・テイラーも加わり、ツイン・ベースとなるとあるが、2本のベースとは聴こえない。アンダーソンのヴォーカル入り。続いてオープンのTpソロ、Clソロが入る。
CD17-1.[オー・ベイビー!・メイビー・サムデイ]
これもビリー・テイラーも加わったツイン・ベースという。アンダーソンのヴォーカル入りで、オブリガードはクーティー⇒ホッジス。エリントンの作でちょっとテンポを速めに取ったスインギーなナンバーに仕上げている。
ディスコグラフィーを見ると、5月に放送用の録音をしたようだが、レコーダ化はされなかったようである。次にCDに収録されているのは、7月にニューヨークで行われたセッションとなる。
この日は4曲とも同じメンバーによって録音されている。Historyではアルト・サックスがオットー・ハードウィックとしているのに対して、Ellingtoniaではピート・クラークが加わったとしている。
| CD17-2. | シュー・シャイン・ボーイ | Shoe shine boy |
| CD17-3. | イット・ウォズ・ア・サッド・ナイト・イン・ハーレム | It was a sad night in harlem |
| CD17-4. | トランペット・イン・スペイド(レックスズ・コンチェルト) | Trumpet in spades (Rex's concerto) |
| CD17-5. | ヤーニング・フォー・ラヴ(ローレンシズ・コンチェルト) | Yearning for love(Lawrence's concerto) |
| CD17-6. | イン・ア・ジャム | In a jam |
| CD17-7. | エキスポジション・スイング | Exposition swing |
| CD17-8. | アップタウン・ダウンビート(ブラックアウト) | Uptown downbeat(Blackout) |
次の録音は約4か月半後の12月中旬、カリフォルニアのハイウッドで行われる。巡業の途中での録音だったのだろうか?
| Band leader & Piano | … | デューク・エリントン | Duke Ellington | |
| trumpet | … | レックス・スチュアート | Rex Stewart | |
| Trombone | … | ローレンス・ブラウン | Lawrence Brown | |
| Soprano & Alto sax | … | ジョニー・ホッジス | Johnny Hodges | |
| Clarinet & Baritone sax | … | ハリー・カーネイ | Harry Carney | |
| Guitar | … | ブリック・フリーグル | Brick Fleagle | |
| String Bass | … | ビリー・テイラー | Billy Taylor | |
| Drums | … | ジャック・マイセル | Jack Maisel |
| CD17-9、CD-1. | リグザシャス | Rexatious |
| CD17-10、CD-2. | レイジー・マンズ・シャッフル | Lazy man’s shuffle |
レックス・スチュワート名義で「マスター」レーベルへの吹込み。柴田氏によれば「マスター」レーベルはビッグ・バンドのはずだが、Ellingtoniaには8名のコンボでも「マスター」と記載してある。レックス・スチュワート名義の録音だが、実質的なリーダーはデュークであろう。Epicから出ている「ザ・デュークス・メン」(Epic EICP 602)にも収録されている。
ギターがフレッド・ガイではなくHistoryではブリック・フリーグル、Ellingtonia、「ザ・デュークス・メン」解説ではシール・バーク(Ceele Burke)となっており、ドラムがHistoryではジャック・マイセル、Ellingtonia、「ザ・デュークス・メン」解説ではソニー・グリアとなっている。どちらが正しいかいつもながら判断できない。曲はどちらもスチュワートのオリジナル。
CD17-9.[リグザシャス]
アンサンブルをリードするTpはレックスであろう。しかしソロはAs⇒Cl⇒Tb⇒Cl⇒Tb⇒Ts⇒Tp。あまりレックスの出番は多くない。
CD17-10.[レイジー・マンズ・シャッフル]
スチール・ギターのような音が聴かれるのが面白い。こちらもTpの出番は多くない。
| Band leader & Piano | … | デューク・エリントン | Duke Ellington | |
| trumpet | … | クーティ・ウィリアムス | Cootie Williams | |
| Valve-Trombone | … | ファン・ティゾール | Juan Tizol | |
| Clarinet | … | バーニー・ビガード | Barney Bigard | |
| Baritone sax | … | ハリー・カーネイ | Harry Carney | |
| String Bass | … | ビリー・テイラー | Billy Taylor | |
| Drums | … | ソニー・グリア | Sonny Greer |
| CD17-11、CD-5. | クラウズ・イン・マイ・ハート | Clouds in my heart |
| CD17-12、CD-6. | フロリック・サム | Frolic Sam |
| CD17-13、CD-7. | キャラヴァン | Caravan |
| CD17-14、CD-8. | ストンピー・ジョーンズ | Stompy Jones |
Historyでは、Trumpetがアーサー・ホエッツェルからウォーレス・ジョーンズ(Wallace Jones)に変わったとするが、Ellingtoniaでは引き続きアーサー・ホエッツェルだとしている。
またAlto saxはHistoryではハードウィック、Ellingtoniaではピート・クラークとしている。
また双方ともギターはフレッド・ガイとしているが、なぜ5日前のセッションではブリック・フリーグル(History)、シール・バーク(Ellingtonia)を起用したのだろう?
| CD17-15. | スキャッティン・アット・ザ・コットン・クラブ | Scattin' at the cotton club |
| CD17-16. | ブラック・バタフライ | Black butterfly |
| CD17-17. | ムード・インディゴ・アンド・ソリチュード | Mood indigo and solitude |
| CD17-18. | ソフィスティケイティッド・レイディ・アンド・イン・ア・センチメンタル・ムード | Sophisticated lady and in a sentimental mood |
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