エディ・ラング 1927年

Eddie Lang 1927

1926年レッド・ニコルスの初レコーディングにおいて、「ジャズ・ギターの父」と言われる面目躍如のプレイを示したエディ・ラング。彼のような傑出したアーティストのソロ、或いはリーダー・アルバムはないものかと思っていたら、あったのである。ビッグ・バンド全盛時代と言われる時代にこのようなスモール編成でも、素晴らしければレコーディングを行うという当時のレコード会社の姿勢にまず頭が下がる。

<Date&Place> … 1927年1月12日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … レッド・ニコルス・アンド・ヒズ・ファイヴ・ぺニーズ(Red Nchols and his five pennies)

Cornet & Band leaderレッド・ニコルスRed Nichols
Tromboneミフ・モールMiff Mole
Clarinet and Alto saxジミー・ドーシーJimmy Dorsey
Violinジョー・ヴェヌーティJoe Venuti
Pianoアーサー・シャットArthur Shutt
Guitarエディ・ラングEddie Lang
Drumsヴィック・バートンVic Berton

<Contents> … 「レッド・ニコルス物語」(MCA-3012)

B面5曲目.ビューグル・コール・ラグBugle call rag

これもディキシー的なナンバーであり、N.O.R.K.が得意としたナンバーであるという。因みに「ビューグル」とはいわゆるラッパのこと(写真右)。
各自のソロが聴けるところが良い。ヴェヌーティのソロが聴けるのは当時としては珍しいのではないかと思う。ヴェヌーティとラングによるデュエットは見事で当時から終生名コンビと謳われたという。しかし僕はラングとミフ・モールのTbソロが一頭地抜けていると思う。

<Date & Place> … 1927年2月4日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … フランキー・トラムバウアー・アンド・ヒズ・オーケストラ(Frankie Trumbauer and his orchestra)

Band leader & C melody saxフランク・トランバウアーFrank Trumbauer
Cornetビックス・バイダーベックBix Beiderbecke
Tromboneミフ・モール> Miff Mole
Clarinet & Alto saxジミー・ドーシーJimmy Dorsey
Alto sax“ドク”・ライカ―“Doc” Ryker
Pianoイッツィー・リスキンItzy Riskin
Banjo & Guitarエディー・ラングEddie Lang
Drumsチャウンシー・モアハウスChauncey Morehouse

<Contents> … 『ビックス・バイダーベック物語』(CBS SOPB 55017〜19)&“An introduction to Bix Beiderbecke 1924-1930”(Best of jazz 4012)

record2 A-1、CD-6.シンギン・ザ・ブルースSingin' the blues
record2 A-2クラリネット・マーマレードClarinet marmalade

まずパーソネルについて。上記の<パーソネル>は、3枚組レコードに記載されている「シンギン・ザ・ブルース」のものだ。CDでは、トロンボーンがミフ・モールではなくビル・ランク、ピアノがリスキンではなくポール・メルツ、ディスコグラフィーでは、アルトの“ドク”・ライカ―は参加しておらず、ピアノはリスキンではなくポール・メルツであるとなっている。
またレコード解説の油井正一氏は、同日録音ながら「クラリネット・マーマレード」では、ミフ・モール⇒ビル・ランク、エディ・ラング⇒ハウディ・クイックセルと交替すると述べている。

record2 A-1、CD-6.シンギン・ザ・ブルース
この録音は”ビックス”のレコード中、傑作中の傑作として名高いものである。ジャズ愛好家としても知られる村上春樹氏も「ビックスの偉大な才能を知るには、たった2曲を聴くだけで十分だ。”Singin' the blues”と”I'm comin' Virginia”である。(中略)この2曲を超える演奏はどこにもない。たった3分間の演奏の中に宇宙がある」と絶賛している。
油井正一氏は、このレコードが発売されるや、今までジャズになかった新しさのゆえに、全ジャズ界にショックを与えた。黒人リーダー、フレッチャー・ヘンダーソンでさえ、レックス・スチュアートを起用して、一音一音模倣したレコードを吹き込んだくらいである。トランバウアーのソロも素晴らしいが、その後に出るビックスのソロは、同時代のミュージシャンがみな暗唱するほど立派な構成とバランスを持っていた。ビックスの好きな人で、このフレーズを記憶していない人はあるまい。ソロと同時に、グループ全体の調和の良さも見逃すことができない。ジャズ史上、最も重要な一作と言われている」とまで述べる。
一方アメリカの音楽家であり評論家でもある毎度おなじみのガンサー・シュラー氏は”ビックス”の項で、「”Singin' the blues”における元気溢れるリップ奏法のような激情的爆発は、ルイ・アームストロングの演奏にはしばしば登場するが、バイダーベックではまれである」と述べるのみで、「ジャズ史上」などという大げさな表現は使われていない。
では、素人の僕はどう聴いたか?
僕は粟村師が「これに感動せぬ奴は人間ではない」とまで言い切ったジョー・スミスの”Stampede”(ルイが真似して吹いたという説もある)を聴いて感動しなかった人間である。正直感動しなかった。僕は以前油井氏が言うようにこのソロを覚えようと、MDに録音し毎晩寝る前に2週間くらい聞いたのである。でも覚えられなかった。僕が感じるのは、まずこの演奏の斬新さである。イントロの後突然エディー・ラングのGtだけをバックにしたトランバウアーのソロ、そして同様に”ビックス”のソロ、そしてClのソロとアンサンブルに入る、こういう新しさはこの時代誰にもできない構成だと思う。そしてそれをやらせたのはトランバウアーだと思うのである。

<Date&Place> … 1927年4月1日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … エディ・ラングとアーサー・シャット(Eddie Lang & Arthur Schutt)

Guitarエディ・ラングEddie Lang
Pianoアーサー・シャットArthur Schutt

<Contents> … “Blue Guitars vol.1&2”(P-Vine records BGOCD327)

CD1-2.エディズ・ツィスターEddie's Twister
CD2-2.エイプリル・キッセズApril Kisses

CD1-2.エディズ・ツィスター
シャットは、完全にバックに廻り途中で短いソロを弾くだけで、あとはラングの独壇場である。この時代として見ればよくこういう録音が実現できたなぁと思う。
CD2-2.エイプリル・キッセズ
ラングが速弾きや巧みなコード・ワークといったテクニックをいかんなく発揮する。ラングの自作というがメロディはヨーロッパ的である。

<Date & Place> … 1927年5月9日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … フランキー・トラムバウアー・アンド・ヒズ・オーケストラ(Frankie Trumbauer and his orchestra)

Band leader & C melody saxフランク・トランバウアーFrank Trumbauer
Cornetビックス・バイダーベックBix Beiderbecke
Tromboneビル・ランクBill Rank
Clarinetジミー・ドーシーJimmy Dorsey
Clarinet & Alto saxドン・マレーDon Murray
Alto sax“ドク”・ライカ―“Doc” Ryker
Pianoイッツィー・リスキンItzy Riskin
Banjo & Guitarエディー・ラングEddie Lang
Drumsチャウンシー・モアハウスChauncey Morehouse

<Contents> … 『ビックス・バイダーベック物語』(CBS SOPB 55017〜19)&“An introduction to Bix Beiderbecke 1924-1930”(Best of jazz 4012)

record2.B-2.オストリッチ・ウォークOstrich walk
record2 B-6、CD-8.リヴァーボートシャッフルRiverboat shuffle

こちらもトランバウアーのバンドとしての吹込みは約3か月ぶりとなる。3か月前とメンバーの移動はClのジミー・ドーシーがドン・マレイに替わったことであるが、この移動は前5月6日からの派生のためと思われる。どちらのナンバーも短いが様々な楽器のソロが散りばめられており、聴いていた楽しい。もしかすると名前のクレジットはないが、アレンジはビル・チャリスが手を貸したのかもしれない。
record2.B-2.オストリッチ・ウォーク
O.D.J.B.のナンバーで、1918年に吹込みを行っている。”ビックス”がヴィクトーラの前に陣取り練習していたナンバーで、高校生時代から”ビックス”のレパートリーだった。O.D.J.B.の録音については「オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド 1918年」をご覧ください。ともかくオリジナルのO.D.J.B.の演奏はクラリネットをフューチャーしたものだった。比べて聴いてみるとこちらの方がビックスのリードするアンサンブルのまとまりもあり、ソロも”ビックス”のCorやTbを交え変化に富んでいる。格段に聴き応えが上がっている。
record2 B-6、CD-8.リヴァーボート・シャッフル
はウォルヴェリンズ時代に一度吹き込んでいるナンバー。このHPでも前々回取り上げた。もともとこのナンバーは、”ビックス”と親しくなったホーギー・カーマイケルがウォルヴェリンズのために作り提供してくれたナンバーだという。ウォルヴェリンズの演奏はガンサー・シュラー氏が譜例を上げて解説するくらい、”ビックス”のソロの構成力の素晴らしさが発揮された演奏だった。演奏自体の基本的な組み立てはウォルヴェリンズと同じであり、ソロの構成も大きな違いはないが、こちらはこちらで聴き応えのソロである。

<Date & Place> … 1927年5月13日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … フランキー・トラムバウアー・アンド・ヒズ・オーケストラ(Frankie Trumbauer and his orchestra)

前回5月9日と同じ。

<Contents> … 『ビックス・バイダーベック物語』(CBS SOPB 55017〜19)&“An introduction to Bix Beiderbecke 1924-1930”(Best of jazz 4012)

record2 B-1、CD-9.私はヴァージニアへI'm coming Virginia
record2 A-3、CD-10.ニューオリンズへの道Way down yonder in New Orleans
record2 A-5、CD-11.フォー・ノー・リーズン・アット・オール・イン・CFor no reason at all in C

record2 B-1、CD-9 私はヴァージニアへ
前回取り上げた「シンギン・ザ・ブルース」と並ぶ”ビックス”の傑作として村上春樹氏も取り上げているナンバーである。テンポは遅くないがゆったりとした感じの演奏で、多分ここまでで最長のソロを”ビックス”が吹いている。ともかく構成がユニークで当時としては斬新極まりない演奏だったのではないかと思う。もしサッチモがこの曲を吹いていたらもっと、もっと吹き上げていたように思う。”ビックス”もエモーショナルに吹いているがそれでも、内省的でクールな感じがする。
record2 A-3、CD-10 ニューオリンズへの道
ここでも”ビックス”の長めのソロが聴ける。こちらは”ビックス”のリードするアンサンブルの後まずトランバウアーが長尺のソロを取る、非常にクールなソロである。後のレスター・ヤングに影響を与えたといわれるのも最もである。
record2 A-5、CD-11.フォー・ノー・リーズン・アット・オール・イン・C
CDによれば、バンド名は「トラム、ビックス・アンド・エディ」(Tram , Bix and Eddie)で、”ビックス”、トランバウアー、ラングのトリオによる吹込みである。何故かトランバウアー(Trumbauer)の略が”Tram”になっている。誤りかそれともわざとそう名乗ったのか?
問題作だろう。まずトリオによる吹込みということで興味が惹かれる。そして当然ラングがギターでリズムを担当し、”ビックス”のCorとトランバウアーのCメロディ・サックスがフロントを構成すると思って聴くとピアノの音が聴こえるので、クレジットのミスかと思うがそうではない。何と”ビックス”は大半ピアノを弾いているのだ。
油井氏の解説に拠ると、チャリスがゴールドケット楽団のために書いた”I'd climb the highest mountain”の編曲ヴァリエーションだという。”ビックス”はラストだけコルネットに持ち替えている。
この”ビックス”のピアノがどうかは僕には判断がつかない。エディ・ラングと二人になるところはどうもちぐはぐな感じがする。何といっても聴き処はレスター・ヤングを思わせるようなトランバウアーのソロであろう。この辺りの録音を聴くと、余り取り沙汰されないがトランバウアーという人の才気がひしひしと伝わってくる。ただものではないという感じだ。もっとこの人を評価すべきだろう。ジャズの本などではやはり”ビックス”がもて囃されるが、僕はトランバウアーという人の才能の豊かさを感じてしまう。

<Date&Place> … 1927年5月26日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … エディ・ラング (Eddie Lang)

Guitarエディ・ラングEddie Lang

<Contents> … “Blue Guitars vol.1&2”(P-Vine records BGOCD327)

CD1-5.ア・リトル・ラヴ、ア・リトル・キスA little love , a little kiss
CD2-3.プレリュード・イン・C・シャープ・マイナーPrelude in C sharp minor

CD1-5.ア・リトル・ラヴ、ア・リトル・キス
ラングが情感たっぷりに独奏を聴かせる。
CD2-3.プレリュード・イン・C・シャープ・マイナー
これもメロディはヨーロッパ的なメロディである。

<Date & Place> … 1927年9月17日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … トラム・ビックス・アンド・エディ(Tram , Bix and Eddie)

Band leader & C melody saxフランク・トランバウアーFrank Trumbauer
Piano & Cornetビックス・バイダーベックBix Beiderbecke
Guitarエディー・ラングEddie Lang

record2 B-4リンギン・アンド・ツイスティン(Wringin' and twistin')
5月13日録音の「フォー・ノー・リーズン・アット・オール・イン・C 」と同様トランバウアー、”ビックス”、ラングによるトリオ演奏である。今回も、いや前回以上に”ビックス”はほとんどピアノを弾いており、コルネットに持ち替えて吹くのは終了間際の2小節のみである。ここでの”ビックス”は全くといっていいほど目立たない。トランバウアーとラングのデュオのようだ。

<Date & Place> … 1927年10月25日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … フランキー・トラムバウアー・アンド・ヒズ・オーケストラ(Frankie Trumbauer and his orchestra)

Band leader & C melody saxフランク・トランバウアーFrank Trumbauer
Cornetビックス・バイダーベックBix Beiderbecke
Tromboneビル・ランクBill Rank
Clarinet & Alto saxドン・マレーDon Murray
Clarinet & tenor saxピー・ウィー・ラッセルPee Wee Russell
Alto sax“ドク”・ライカ―“Doc” Ryker
Bass saxエイドリアン・ロリーニAdrian Rollini
Violinジョー・ヴェヌーティJoe Venuti
Piano(Record liner note)アーサー・シャットArthur Shutt
Guitarエディ・ラングEddie Lang
Drumsチャウンシー・モアハウスChauncey Morehouse

<Contents> … 『ビックス・バイダーベック物語』(CBS SOPB 55017〜19)&“An introduction to Bix Beiderbecke 1924-1930”(Best of jazz 4012)

Record2. B-5.クライング・オール・ディCrying all day
Record2. B-3.善男は少ないものよA good man is hard to find

パーソネルについて、まずこの2曲はCDには収録されておらず当然記載がない。ディスコグラフィーとレコード解説では2か所ほど記載が異なる。一つはピアニストで、ディスコグラフィーではフランク・シニョレリとしているのに対しレコード解説で油井氏は「アーサー・シャット」と記している。僕にはもちろん決め手はないが、油井氏が正しいとすれば、油井氏も同日の“ビックス”のバンドでは、ピアノをフランク・シニョレリとしているのでフランキーの録音ではアーサー・シャットに替わったことになる。もちろん変わったのかもしれないが、どうであろう。油井氏に言わせればどちらも大勢に影響ないということかもしれないが。
もう一つは、油井氏はこの2曲中1曲“Crying all day”の録音日をレコード裏面では9月17日としている。しかし20頁ものの「ビックス・バイダーベック物語」では10月25日となっている。これは単純に油井氏の記載ミスだろう。ということでディスコグラフィー、「ビックス・バイダーベック物語」通り“Crying all day”は10月25日と解釈しよう。
因みに「ビックス・バイダーベック物語」Vol.2“Bix and Tram”レコード2面において、「イギリスで出された『ビューグルス・フォア・バイダーベック』という書物で“A good man is hard to find”におけるパーソネルにピー・ウィー・ラッセルの名が落ちている。こんなところから、たとえ後で出版されたものでも無条件に信用できない」と怒っておられるが、この言葉はそのまま油井氏にも当てはまるのではないかと思う。
不思議なのは、トランバウアーがリーダーを務めるバンドにはビックスが必ず加わっているが、ビックスがリーダーのバンドにはトランバウアーが加わっていない。これはどういうことなのだろうか?

Record2 B-5.クライング・オール・ディ
こちらのトランバウアー名義の録音は全くディキシー風がなく完全にスイング時代の演奏となっており、盟友二人のコンセプトの違いが浮き彫りになる。「一日中泣いている」というタイトルのように暗い曲ではないが、ゆったりとしたテンポで、アンサンブルが美しい。“ビックス”のソロも相変わらず好調で、ピー・ウィーの短いソロを挟んでディキシー風の合奏で終わる。
Record2 B-3.善男は少ないものよ
トランバウアーをフューチュアーしたナンバー。こういった録音を聴くと彼がのちのレスター・ヤングに多大な影響を及ぼしたことがよく分かる。ヴェヌーティーのViとロリーニのBass saxの絡みがあったりと変化に富んだ仕上がりとなっている。

<Date&Place> … 1927年10月21日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … エディ・ラングとフランク・シニョレリ(Eddie Lang & Frank Signorelli)

Guitarエディ・ラングEddie Lang
Pianoフランク・シニョレリFrank Signorelli

<Contents> … “Blue Guitars vol.1&2”(P-Vine records BGOCD327)

CD2-4.ザ・メロディ・マンズ・ドリームThe melody man's dream
CD2-5.パーフェクトPerfect

CD2-4.ザ・メロディ・マンズ・ドリーム
ラングとシニョレリの共作。ラングのギターの響きは後のジャンゴ・ラインハルトを思わせる。
CD2-5.パーフェクト
ラングの作。シニョレリのピアノ伴奏でラングがギターで歌うという趣向。

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