グレン・ミラー 1928年

Glenn Miller 1928

グレンミラー著『125 jazz breaks for Trombone』

1928年はグレン・ミラーにとって正に激動の年であった。まずこの年”Glenn Millers's 125 jazz breaks for Trombone”、直訳すると「グレン・ミラーのトロンボーンの125種類のジャズ・ブレイク」つまりは「グレン・ミラーが解説するトロンボーン・ソロ・フレーズの125の実例集」という教則本のようなものだ。この本はメルローズ・ブラザーズというシカゴでは最も名の通った音楽出版社から1927年に出版されたものである。同じ年にベニー・グッドマンの”Benny Goodman's 125 jazz breaks for the saxophone and clarinet”という本が同じ出版社から発行されており、この本の存在がBGのミュージシャンとしての地位を高めたことは間違いないであろう。実際BGは、1928年大きな飛躍をし、所属していたベン・ポラックのバンドを卒業することになる。
そして同じことはミラーにも当てはまるのではないだろうか?ところがミラーの場合はそうことは順調に運ばなかったようだ。時期はどれにも書いていないのだが、この年ポラックの楽団には同じトロンボーンのジャック・ティーガーデンが加入してくる。4月6日吹込みのポラック楽団のパーソネルではTbがミラー一人であり、6月4日のベニー・グッドマンズ・ボーイズの吹込みにもミラーの名前が見える。しかし ミラーはバンドのメインのトロンボーン・ソリストだったが、ジャック・ティーガーデンが1928年にポラックのバンドに加わると、ミラーは自分のソロが大幅にカットされていることに気付く。ミラーは自分の未来はトロンボーン奏者としてではなく、アレンジと作曲にあると考えるようになったという。
話は遡って1923年ミラーはコロラド州ボルダーにあるコロラド大学に入学した。しかしほとんど大学の授業には出席せず、色々なバンドで働いていた。ここからは映画『グレン・ミラー物語』のストーリーである。多分その時に一人の女性と知り合い、恋人同士となって付き合い始める。後に彼の妻となるヘレン・バーガーである。ミラーは自分のサウンド創りに夢中になりヘレンとは2年間も音信不通になる。ミラーは所属していたバンドとの楽旅に出、デンヴァーに来たとき、ヘレンに電話をかけ、真夜中に彼女を訪れるのである。かなり自分勝手な男ではある(これは僕の感想)。2年間も音信不通の上でのこの行為である。ヘレンも最初は怒るが、次第に彼の情熱にほだされるようになる。しかしここでも2年間音信が途絶えるが、自分にはヘレンが必要だと悟ったミラーは、長距離電話でヘレンをニューヨークに呼び出して結婚を申込み、彼女も受け入れるのであった。メデタシ、メデタシ!そしてミラーは新しいサウンドづくりに邁進し、ある偶然から彼独特サウンドを作り上げることに成功します。このサウンドは全米中で大ヒットし、ミラーはスターダムに上り詰めていく。さらにメデタシ、メデタシ!その後勃発した第二次世界大戦で帰らぬ人となるのだがそれはまた後のお話。
このストーリーは時系列で追っていくと若干事実とは異なる。実際はミラーがヘレンと結婚したのは1928年であり、ミラーがポラックの楽団を去るのも1928年である。
ベン・ポラック・バンド 1928年 左の写真は1928年ニュー・ヨークのパーク・セントラル・ホテルに出演中のポラック楽団である。小さくて見難いと思うが、右から5番目でクラリネットを吹いているのがBGである。因みに指揮をしているのがベン・ポラック、後列ベースを弾いているのが兄のハリー・グッドマン、後列左から3番目トロンボーンがジャック・ティーガーデンである。ベン・ポラックが1928年のいつニュー・ヨークのパーク・セントラル・ホテルに出演していたか不明であり、なぜミラーがいないのかが分からないが、もしかするとミラーはトロンボーン奏者としての道はあきらめ、作・編曲の道に向かっていたのかもしれない。
ともかくこの年のミラーの参加作品を聴いていくことしよう。参加バンドはベン・ポラックの楽団でBGの絡みで発売されているものである。

Time-Lifeレコードボックス

<Date&Place> … 1928年1月23日 シカゴにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマンズ・ボーイズ・ウィズ・ジム・アンド・グレン(Benny Goodman’s Boys with Jim and Glenn)

Clarinet & Band leaderベニー・グッドマンBenny Goodman
Cornetジミー・マクパートランドJimmy McPartland
Tromboneグレン・ミラーGlenn Miller
Pianoヴィック・ブリーディスVic Briedis
Guitarディック・モーガンDick Morgan
Tubaハリー・グッドマンHarry Goodman
Drums & vibraphoneボブ・コンゼルマンBob Conzelman

<Contents> … ”Benny Goodman/Giants of jazz”(TimeLife STL-105)&”The young Benny Goodman”(Timeless CBC 1-088)

record1 A-2、CD-1.ア・ジャズ・ホリディA jazz holiday
record1 A-3、CD-2.ウォルヴェルライン・ブルースWolverine blues

この1928年1月23日の録音はBGにとって初めてのリーダーとしてのレコーディングである。メンバーの7人はベン・ポラックのバンドから5人とビックス・バイダーベックのバンドで活躍していたボブ・コンゼルマンを加えたものだった。それにしてもバンド名が、”Benny Goodman's Boys with Jim and Glenn”とは。やはりマクパートランドとミラーはBGにとって別格の信頼できる仲間ということなのだろう。
ア・ジャズ・ホリディ
解説のジョージ・サイモン氏は、テッド・ルイスはもちろんこれまで録音されたどのレコードとも似ていないBG独自のプレイと言っている。この辺りの評価は僕には分からないのでそのまま記しておこう。グレン・ミラーのゆったりとした編曲によって余裕を感じさせる雰囲気を作り出している。曲の出だしの部分から、コンゼルマンのヴァイブラフォンのコード叩き、滑るように上下するホーン、シングル・トーンによるギター・プレイ、初期のビックス、トラウンバウアー、エディー・ラングを想起させるような黙想的な憂いのある滑り出しで始まる。BGのソロもビックスの影響を感じさせるという意外な指摘をジョージ・サイモン氏はしている。短いが最後の方にミラーのソロもある。
ウォルヴェルライン・ブルース
ジェリー・ロール・モートンの作。解説氏によれば、ジミー・マクパーランドのベスト・プレイの一つに数えられるという。
またミラー、BG、マクパーランドの活気に満ちたディキシー風のプレイが聴きもので、マクパーランドはしばしば単なるビックスの模倣するような演奏をすることもあるが、ここでは彼自身を活かしたプレイをしている。彼の音はビックスよりも薄く暗めだが、よく歌っているとしている。

「ベニー・グッドマン秘蔵名演集」CDジャケット

<Date&Place> … 1928年4月6日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … ベン・ポラック・アンド・ヒズ・カリフォルニアンズ(Ben Pollack and his Californians)

Drums , vocal & Band leaderベン・ポラックBen Pollack
Cornetジミー・マクパーランドJimmy McParlandアル・ハリスAl Harris
Tromboneグレン・ミラーGlenn Miller
Clarinet , alto sax & Trumpetベニー・グッドマンBenny Goodman
Alto saxギル・ロディンGil Rodin
Tenor saxバド・フリーマンBud Freeman
Pianoヴィック・ブリーディスVic Breidis
Guitarディック・モーガンDick Morgan
Tubaハリー・グッドマンHarry Goodman
Violinアル・ベラーAl Bellerエド・バーグマンEd Bergman

<Contents> … 「ベニー・グッドマン秘蔵名演集」(PDTD-1046)

4.シンガポール・ソロウズ(Singapore sorrows)
イントロでは、ウッド・ブロックでオリエンタル・ムードを出している。続くヴォーカルはリーダーのベン・ポラック。最初のソロはBG、続いてミラー(Tb)、マクパートランド(Tp)と続きあっという間に終わる。

[The young Benny Goodman]CDジャケット

<Date&Place> … 1928年6月4日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマンズ・ボーイズ(Benny Goodman's Boys)

Clarinet , Alto sax , Baritone sax , Cornet & Band leaderベニー・グッドマンBenny Goodman
Cornetジミー・マクパートランドJimmy McPartland
Tromboneグレン・ミラーGlenn Millerトミー・ドーシーTommy Dorsey
Clarinet , alto saxファド・リヴィングストンFud Livingston
Pianoヴィック・ブリーディスVic Breidis
Guitarディック・モーガンDick Morgan
Tubaハリー・グッドマンHarry Goodman
Drumsベン・ポラックBen Pollack

Time-Life版にはトロンボーンはグレン・ミラー1人がクレジットされているが、”Young”にはトミー・ドーシーの名も載っている。

<Contents> … ”Benny Goodman/Giants of jazz”(TimeLife STL-105)&”The young Benny Goodman”(Timeless CBC 1-088)

CD-3.ジャングル・ブルース AJungle blues A
CD-4.ジャングル・ブルース BJungle blues B
CD-5.ルーム・1411 ARoom 1411 A
CD-6.ルーム・1411 BRoom 1411 B
record1 A-4、CD-7.ブルーBlue
CD-8.シャツ・テイル・ストンプShirt tail stomp

Tp奏者マクパーランドは回想する。「ベン・ポラックのバンドは、BGが自己名義のレコーディングを行っていた1か月間の間仕事がなかった。そんなある日BGは自分たちを呼び、明日レコーディングするぞと言ったという。それがこのレコーディングである」という。リーダーのポラックもBGのおかげで1か月ぶりの仕事にありついたわけである。
BGはクラリネットはもちろん、アルト、バリトン・サックスと大活躍する。野球の大谷選手真っ青の二刀流どころか三刀流、四刀流である。右はクラリネットを持ちながらアルト・サックスを吹くBG。

[ジャングル・ブルース]
ジェリー・ロール・モートンの作。エリントンばりのジャングル・サウンドである。CD版によればソロ・オーダーは次のようになる。
まずBGはクラリネットでソロを取り、そのまま続いてコルネットでソロを取り、リヴィングストンのクラリネットに引き継いでいるという。正に独り舞台である。そしてピアノのソロが入り、再びコルネットのソロが入るが、それは誰が取っているのであろう。解説の通りだとすればBGのコルネット・プレイもなかなか行けると思う。CD-4ではコルネットとクラリネットのバトルが行われる。これはニュー・オリンズ風の絡みではなく完全にバトっている。
[ルーム・1411]
これはグレン・ミラーとBGの初めての共作という。ディキシー風のナンバーである。ここではアンサンブルでBGはのクラリネット、続くバリトン・サックスでソロを取り、ブリーディスのピアノ、リヴィングストンのアルト・サックス、マクパートランドのトランペットに引き継いでいるという。<B>ではマクパートランドの後にもう一度クラリネットが出る。BGのバリトン・ソロもなかなか良い。最後の合奏もディキシー風である。
[ブルー]
”Benny Goodman/Giants of jazz”と”The young Benny Goodman”双方に収録されているので重要な作品なのだろう。
最初に聴こえるアンサンブルをリードするバリトンはもちろんBGによるものである。続いてマクパートランドのコルネット・ソロが入り、続くアルトのソロはまたしてもBGだという記載(Time-Life)とリヴィングストン(CD)という記載がある。
テッド・ルイス [シャツ・テイル・ストンプ]
Time-Life版解説のジョージ・サイモン氏は続く”Clarinetitis”がBGの作曲デビューと書いているが、CDのクレジットを見るとBGの作となっていてこちらの方が早い。
さらにCDの解説によると、このナンバーは、BGが憧れたエンターティナー、テッド・ルイス(Ted Lewis:1890〜1971)のバンドのパロディーなのだという。テッド・ルイスは現在ではほとんど顧みられない存在であるが、元はクラリネット奏者で自己名義のバンドを率い、1920年代のポピュラー・ミュージックの世界ではポール・ホワイトマンに次ぐ人気を誇るバンドだったという。BGは一時彼に憧れ、熱心に真似をしていたという。
ソロはBGのクラリネット(もちろんテッド・ルイス風に吹いているという)、マクパートランドのコルネット、BGのアルト、リヴィングストンのアルト、トミー・ドーシーのトロンボーンとなっているが、短いソロが目まぐるしく展開されるのでよく分からない。ミュートを巧みに操ったユーモラスな演奏で、テッド・ルイスを知る当時のアメリカのポピュラー音楽ファンは抱腹絶倒だったのだろうが、テッド・ルイスの「芸」を知らない我々には、面白さは半分も伝わらないが、実に楽しいいわゆる「笑うところ」であることは分かる。ドーシーもミュートを巧みに扱い面白い音を出している。アメリカのミュージシャンはこういう「芸」の一つも持っていないと務まらないのかもしれない。

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