ジェリー・ロール・モートン 1923年

Jelly Roll Morton 1923

いよいよ1938年「ジャズを発明したのはこのワシじゃ」と言って騒動を引き起こしたジェリー・ロール・モートンの登場です。このジャズ初期に大きな役割を果たした巨人もこの1923年初レコーディングを含む重要な録音を開始しています。
1999年日本公開のゴールデングローヴ賞受賞のイタリア映画「海の上のピアニスト」に、主人公の天才ピアニストに挑戦して打ち負かされるピアニストとして登場し、若い映画ファンによく知られた人物となってしまいました。この映画は実在の物語ではなくフィクションですが、そこに実在の人物を登場させ、それも負け役として、というのはいかがなものかとも思いますが、日本でも漫画『巨人の星』などでは架空のピッチャー星飛雄馬が実在のプロ野球選手をきりきり舞いさせるのでこれもありかもしれません。
全米中を放浪していたモートンは、奇しくも1923年シカゴにたどり着き、しばらくはシカゴに落ち着きます。そして初のレコーディングという話が持ち上がるのですが、その経緯をモートン自身は、次のようにアラン・ロマックス氏に語っているそうです（ロマックス著『ミスター・ジェリー・ロール』）。
「1923年頃、私は有名な野球選手フリッツ・ポラードからThe Paramount Recording Companyのスカウトをしていたインク・ウィリアムスに紹介された。そこで上記のメンバーとレコーディングしたんだ。そのレコードはとても売れたよ。」
売れたかどうかは別にしてこれがジェリー・ロール・モートンの初吹込みとなります。

＜Date & Place＞　…　1923年6月　シカゴにて録音

＜Personnel＞ … ジェリー・ロール・モートン・アンド・ヒズ・オーケストラ　（Jelly Roll Morton and his orchestra）

Piano & band leader	…	ジェリー・ロール・モートン	Jelly Roll Morton
Cornet	…	ナッティ・ドミニク	Natty Dominique
Trombone	…	ロイ・パーマー	Roy Palmer
Clarinet & alto sax	…	ウィルソン・タウンズ	Wilson Townes
Alto sax	…	アーヴィル・ハリス	Arville Harris
Wood block	…	ジャスパー・テイラー	Jasper Taylor

＜Contents＞ … “Jelly Roll Morton 1923/24”(Milestone M-47018)

レコードⅡA-4.	マディ・ウォーター・ブルース	Muddy water blues
レコードⅡA-5.	ビッグ・フット・ハム	Big foot ham

上記のディスコグラフィーはレコード（Milestone盤）に記載されたもので、Web版のディスコグラフィーではこのレコーディングのパーソネルは次のようなものだとしている。原盤レコード会社は前述の通りパラマウント・レコード。
Cornet　…　ナッティ・ドミニクではなく、トミー・ラドニア(Tommy Ladnier)かバーニー・ヤング(Bernie Young)
Clarinet　…　ウィルソン・タウンズかアーネット・ネルソン(Arnett Nelson)かホレス・ユーバンクス(Horace Eubanks)
Alto sax　…　アーヴィル・ハリスではなくチャールス・ハリス（Charles Harris）かポール・スタンプ・エヴァンズ（Paul ”Stump”Evans）
これも僕には判定のしようがないのでどちらも記載しておくことにします。

ガンサー・シュラー氏はモートンを高く評価し、一項目を彼に当てています。特に処女録音である本録音には多くのスペースを割いています。
それによれば、モートンの器楽上の着想は、この1923年の最初のバンド録音以前の数年の時期に―成熟してはいなかったとしても―既に完成していたのではないかという。それは寄せ集めによる本録音と7月に行われるニュー・オリンズ・リズム・キングス（New Orleans Rhythm Kings ：以下NORKと略）と共演したジネット（Gennett）盤で明らかである。
シュラー氏によれば、ここでの演奏は、後期のヴィクターに行われた録音の、構造面、リズム面、音響面における異常なまでの多様性が披露されているわけではないとし、まず形式的観点からすると、モートンにしては反復が多すぎるが、彼の音楽的、様式的な特徴がはっきりと示されている。特に“Muddy water blues”におけるのんびりとした、大股の、3連のリズムやソロの3コーラスの背後で奏されるモートン自身の顕著に旋律的で、線的な一貫性を備えたピアノ伴奏に明らかである。
これに比肩するものは、ジャズの歴史においてはMJQ（Modern Jazz Quartet）のジョン・ルイスの鋭敏な旋律的伴奏が登場するまで存在しなかった。モートンがラグタイムや初期のジャズに典型的な「ウーン・パ」的な伴奏に満足しなかったことは明白であり、モートンは、それ自体としても繊細な仕組みを備えたテーマとなる右手の対旋律を用いて、時には変奏さえ使用してソロやアンサンブルそのものの伴奏を大胆に試みようとした。これによって、同時代の音楽家の誰よりも、例外的な才能を持つ人材よりもさらに先んじたのである。
事実即興されたこうした伴奏的背景は、それが表面上伴奏しているソロよりも、はるかに忘れがたい美を備えていて、旧式なアコースティック録音のレコードでは、モートンの伴奏音は聴き取りにくいけれども、それらは主要ソロイストの演奏をほとんど常に支え、装飾し、膨らませ、励ましているから耳を澄ませてみる価値がある。
“Muddy water blues”における彼の伴奏が我々の関心をそそるのは、とりわけこれがモートンの最初の録音だからである。ここでの彼の演奏には、不安定で未熟な気配が全くない。腕が達者で、バンドのピアニスト兼リーダーとしての自信にあふれる熟練した音楽家の仕事ぶりを見せている。彼の好みの右手の手法の一つ、形式感覚の乏しい下手な音楽家が使えば常套句となるものの使い方がとりわけ興味深い。これは前打音的装飾に過ぎないのだが、モートンは右手の音域の旋律線に煌めきと弾みをつけて使用したとする。
“Muddy water blues”ではこのささやかな音型が連続性を組み立てる一要素として使用される。前半のコーラスで何度か登場した後、これが最終的にはそのまま16回反復される音連鎖となる。別言すれば、トランペットのソロの間、ある種の連続音程として、集団のアンサンブルの復帰を誠に効果的に用意し、復帰のための合図を送る。
これらの面は自分のバンドの奏者から最大限の能力を弾き出すモートンの才能も明らかにしている。“Muddy water blues”の中間部を形成する三つの即興のコーラスはその時期としては標準以上のソロである。当の3人のソロイスト―アルト・サックスのアーヴィル・ハリス、クラリネットのウィルソン・タウンズ、コルネットの（多分）ナッティ・ドミニク―達が1923年では無名に近い若者であったことを知ると、決して凡庸ではない出来栄えである。シュラー氏の記すパーソネルはMilestone盤と同じである。
モートンは、フロント・ライン3本というニューオリンズの典型的な編成にサキソフォンを1本加えた編成から出発した。サキソフォンは1920年ではジャズの領域で広く使われ始めていたが、ニューオリンズの老練な音楽家たちは以前としてこれに抵抗していた。モートンは、20年代を通じて、ニューオリンズのアンサンブルの発想にサキソフォンを追加する試みをしばしば行い、その成果はまちまちだったが、この録音での奏者、アーヴィル・ハリスの選択は賢明で、彼の音とスイングは驚異的なまでにうまく溶け合っていると評価している。

何とも詳細な解説であるが、もちろん僕が全て解っているわけではない。僕の感じるところは、“Muddy water blues”は、アルト・サックス⇒クラリネット⇒コルネットとソロを取るが、この順番、さらにアルト・サックスのソロというのは当時珍しいのではないか？そしてこの3人のソロはなかなか良いのではないかと思うが、それはモートンの伴奏のおかげであると言われてもよく分からないというのが正直なところである。確かによくよく聴くとモートンの伴奏はグッと手数が多くなったり少なくなったりし、シュラー氏の言う「ウーン・パ」的な伴奏はしていない。モートンのありきたりのものは排するという取り組みの一端なのかもしれない。

＜Date & Place＞　…　1923年7月17日　インディアナ州リッチモンドにて録音

＜Personnel> … ジェリー・ロール・モートンとニュー・オリンズ・リズム・キングス (Jelly Roll Morton & New Orleans Rhythm Kings)

Cornet	…	ポール・メアーズ	Paul Mares
Trombone	…	ジョージ・ブルニーズ
Clarinet	…	レオン・ラポロ	Leon Rappolo
C Melody sax	…	ジャック・ペティス	Jack Pettis
Alto & tenor sax	…	グレン・スコヴィル	Glenn Scoville
Clarinet & tenor sax	…	ドン・マレイ	Don Murray
Piano	…	ジェリー・ロール・モートン	Jelly Roll Morton
Banjo	…	ボブ・ジレット	Bob Gillette
Tuba	…	チンク・マーティン	Chink Martin
Drums/td>	…	ベン・ポラック	Ben Pollac

上記はCD（「白人草創期ジャズ音楽」）記載のパーソネルで、ジェリー・ロール・モートンのディスコグラフィーと同じである。しかし別の（再発のRiverside盤）記載のパーソネルは若干異なる。
BanJo … ボブ・ジレットではなくリュー・ブラック（Lew Black）
ベース … チンク・マーティンではなくスティーヴ・ブラウン（Steve Brown）
これも僕には決め手がないので双方記しておこう。

＜Contents> … 「白人草創期ジャズ音楽」(AudioPark APCD-6001)

CD-11.	クラリネット・マーマレード	Clarinet Marmalade
CD-12.	ミスター・ジェリー・ロード	Mr.Jelly Lord

ガンサー・シュラー氏によれば、「1923年7月、モートンとN.O.R.K.は偶然か、意図的にかは不明であるが、リッチモンドのジネット社のスタジオで顔を合わせた」のだそうです。約1か月前まで単なる放浪のピアニストだったモートンが、なぜジネットのレコーディング・スタジオにいたのかは定かではないが、シート・ミュージック等で名を知られる存在だったのかもしれません。そしてそこでN.O.R.K.（ニュー・オリンズ・リズム・キングス：以下NORKと略）と共演を果たします。ジャズ・レコードにおいて白人と黒人が共演するのは、これが初めてのことです。この歴史的録音は、NORKのメンバーたちがモートンを尊敬していたことから実現したと言われますが、そもそもどうしてNORK達はモートンを知っていたのでしょう？そんなに一挙に名声は上がるものなのでしょうか？
この近辺のジネット・セッションをまとめると、
7月17日　ジネット・レコード
NORK with モートン … ソビン・ブルース（Sobbin' blues）、クラリネット・マーマレイド（Clarinet Marmalade）、ミスター・ジェリー・ロード（Mr. Jelly lord）3曲
モートン・ピアノ・ソロ … キング・ポーター（King porter）、ニュー・オリンズ・ジョイズ（New Orleans joys）2曲
7月18日　ジネット・レコード
NORK with モートン … ロンドン・ブルース（London blues）、ミレンバーグ・ジョイズ（Milenberg joys）2曲
モートン・ピアノ・ソロ … グランパーズ・スペルズ（Grandpa's spells）、カンサス・シティ・ストンプ（Kansas City stomp）、ウォルヴェリン・ブルース（Wolverine blues）、ザ・パールズ（The pearls）4曲
まとめるとNORKとの共演が5曲、ソロを6曲録音している。但し別ヴァージョンもあるようだ。
7月17日NORK with モートン … 3曲、モートン・ピアノ・ソロ … 2曲、NORKのみ … 1曲
7月18日NORK with モートン … 2曲、モートン・ピアノ・ソロ … 4曲
つまりNORKとの共演が5曲、ソロを6曲録音しています。この内NORKとの共演が5曲中2曲がオーディオ・パークのCD「白人草創期ジャズ音楽」(APCD-6001)に、ピアノ・ソロがマイルストーン・レコードから出ていた2枚組レコード“Jelly Roll Morton 1923/24”(M-47018)に収録されています。
ともかくシュラー氏は、「彼らは5曲共演したのだが、リズムがしばしば硬直し、響きが不安定で、形式が不細工だったこのグループに対するモートンの影響は、グループだけの録音とモートンが加わった録音を大まかに聴き比べるだけではっきり分かる」と述べています。NORKはこれに先立つ3月12、13日に5曲ほどレコーディングしており、それらとモートンの加わった録音を比較して聴いてみると大きく異なると述べているのでしょう。
僕の持っているのは2曲で聴き比べをしていませんが、この2曲に関しては、多分モートンのアレンジが功を奏し寛いだスイング感のある演奏に仕上がっていると思います。
クラリネット・マーマレード
シュラー氏は「このバンドでモートンは、バンドを寛がせ、肩の凝らないスイング感覚に近いものを生み出した。これはO.D.J.B.によって有名になったラグタイムと行進曲に由来する曲「クラリネット・マーマレード」でとりわけ明らかである」と書いている。
この曲「クラリネット・マーマレード」はギクシャクしたツー・ビートの処理をこうむりがちな曲であるのに、モートンは2小節のブレークをたくさん挿入したり、コーラスごとに楽器法を変化させることによって、そしてまた彼自身の想像力に富むピアノ伴奏によって、硬直したリズムやテクスチュアを和らげた。モートンお気に入りの終止の技法も用いている。つまり最後のアウト・コーラスを準備の2小節の楽句で口火を切ることで開始し、次いで力強いドラムのバック・ビートで拍車をかけて最後のコーラスへ移行する（かなり訳が混乱していてよく分からない）。
僕なりの感想を書くと、割と早いテンポなのにもかかわらず、シュラー氏の言うようにゆったりとした寛いだ感じのする演奏である。なるほどブレークは多くうまいことN.O.R.K.のメンバーの見せ場を作っている。モートンのピアノはところどころしか聞こえないが弾むようなリズムで盛り上げているし、これもラストの部分しか聞こえないがポラックのバック・ビートも効果的である。
ミスター・ジェリー・ロード
シュラー氏によれば、この録音は、「これら13面分の録音の中で一つ成功したもの」としている。ただシュラー氏が言う「これら13面分」がどれなのか特定するのが困難である。またシュラー氏は章の別の箇所でこの曲を取り上げているが内容が若干相違する。同じ録音を取り上げていると思うのだが、違うかもしれない。しかし「Kazooのうるさい演奏」というは“Steamboat four”しか考えられず、後の同曲の録音は本作だけのはずである。
そしてシュラー氏はまず204頁から205頁にかけて、
モートンが後に「スモーク・ハウス・ブルース」などの録音で完成するもう一つの技法ダブル・タイムの導入という点でも際立っている。この段階では、モートンはレオン・ラポロのノーマル・タイムのクラリネット・ソロの伴奏部で自らダブル・タイムを始める場合以外は、バンド全体をダブル・タイムに導くようなことはやっていない。その楽句のモートンの組み立ては、非対称的に作られているので、興味深い。その二つの8小節の楽句で、5小節分は3連符でノンビリ進み、次いで、6小節目のブレークでダブル・タイムに入り、7小節と8小節で事事進むチューバのブレークを準備し、それからさらに2小節分ダブル・タイムに戻って、最後に本来のアンサンブルのダブル・タイムが整えられる。そしてこのアンサンブルのダブル・タイムが次に登場する長い単音のクラリネットのブレークの完璧な引き立て役となる。ごく単純な手段によって、モートンは両極端のリズムをせわしなく行き来する。一方ではダブル・タイムによってリズムをとことんまで活気づけ、他方では、音を長く保つことによって時間のほとんど停止したような感じが作り出される」と述べている。
しかし206頁においては
これには、モートンのお気に入りの旋律的主題のひとつを巧みに歪曲した引用や、リズミカルに意外な先取音に変えられることによって「不協和音」にまで昇華した見事なブルーノートの衝突音を散りばめた、煌めくようなピアノ・ソロが少なくとも内包されているからである。しかし他の楽器のアンサンブルの方が2本の気の抜けたサックスと下手な声部進行によって台無しにされている。
実際のところ、バンドがモートンではなくF.アレクサンダーなる人物の書いたメルローズの手持ちの編曲譜を参照していることは明らかである。
それにしてもモートンは、最後のコーラスのオーケストレイションの不味いバランスを回避することはできたはずである。そこでは何とトランペットが2本のサックスの下の音域で第3のパートを吹いているのだ。これら様々な失敗は、モートンが何らかの理由で練習を計画できなかったか、より良い編曲を作れなかったことを示唆している。
と書いている。まずこの文章の意味、よく分かりますか？翻訳が良くない。
僕の感想は、ここでもブレークをうまく使っていて、全体的にはとてもレイジーなナンバー。1か所だけ急展開する部分があるが、ここもブレークを入れ元のムードに戻すというように工夫を凝らしている。

＜Date & Place＞ … 1923年7月17、18日　インディアナ州リッチモンドにて録音

＜Personnel＞…ジェリー・ロール・モートン　（Jelly Roll Morton）

Piano

…

ジェリー・ロール・モートン

Jelly Roll Morton

＜Contents＞ … “Jelly Roll Morton 1923/24”(Milestone M-47018)

レコードⅠA-1.	キング・ポーター	King porter	6月17日
レコードⅠA-2.	ニュー・オリンズ・ジョイズ	New Orleans joys	6月17日
レコードⅠA-3.	グランドパーズ・スペルズ	Grandpa’s spells	6月18日
レコードⅠA-4.	カンサス・シティ・ストンプ	Kansas city stomp	6月18日
レコードⅠA-5.	ウォルヴリン・ブルース	Wolverine blues	6月18日
レコードⅠA-6.	ザ・パールズ	The pearls	6月18日

上記ジネットへ吹き込んだピアノ・ソロ部分です。モートンのソロ・ピアノ・プレイに関してもシュラー氏は詳細な分析をしている。曰くジャズはアンサンブルの音楽であって、他の楽器によって伴奏されない場合ジャズ・ピアニストは3つの役割を果たさなければならない。一つはメロディーそしてハーモニー、もう一つはリズムである。ラグタイムからジャズに持ち込まれた左手のストライド奏法が最初期の妥協的な解決策であった。
モートンがジャズを生み出すために、このラグタイムのリズムのメリハリを丸くすることによって、しばらくの間は、10本の指でメロディー、ハーモニーそしてリズムという3つの機能を極限に至るまで駆使したという。その証拠が1923年と24年にリッチモンドのジネット社のために録音したピアノ・ソロがこのことを証明しているという。
シュラー氏は言う、「1923年にモートンが録音した6面分のソロは楽想のみならず技巧の点でも間違いなく質が高い。モートンは、これらの録音では、すでに検討した3つの構造的レベルを完璧に駆使する巨匠である。モートンの演奏は明晰で良くスイングする。ラグタイムのピアノのジャズへの変形の過程でモートンが触媒的役割を果たしたことは、“King porter stomp”（レコードでは“King porter”としか記載されていない）、“New Orleans joys”と当時の他の大半のピアニストや最良のラグタイムのピアニストの録音とを比較してみるべきである。」これはちょっと素人には難しいであろう。
1923年の録音は、モートンの多彩な和声進行の点でも注目に値する。これを聴くとき、モートンは、ブラス楽器のコード音や全声部総出演のアンサンブルの響きを耳にしながら、自分の指を伸ばして、このオーケストラの演奏と張り合おうとしている印象を抱かせられてしまう。同時代の人たちと比べると、モートンは音域やテンポやもちろん旋律との関係にも対応して、和音のバランスを考える異様なまでに過敏な耳の持ち主だった。モートンの敏感なタッチもこれと関係する。音の強い最後のコーラスですら、タッチは決して強引ではない。こうした特徴は、“Kansas city stomp”のトリオの箇所の、持続された素敵な和音の響きに最もよく聴き取ることができる。モートンはこれらのソロの録音ではおおむねテンポが正確である。アンサンブルの録音では、しばしばみられるテンポの急ぎがいささかもない。

中の1曲“New Orleans joys”では、両手をそれぞれ独立させて、2つの拍節、2つのリズムで同時進行する試みを実験している。これは多くの評論家を当惑させたものだが、シュラー氏の考えでは、40年代半ばにエロール・ガーナーが誠に巧みに活用した「どっちつかずの」リズムの最初の録音である。
問題の楽句の絶対的に正確な記譜はおそらく不可能である。可能であるとしても、記譜が複雑になりすぎて、実質上は判読不可能である。しかしモートンの意図を反映する相当に忠実な翻訳を書くとすれば、次の通りになる…譜例8。
何人かの評論家があいまいながらも示唆したように、モートンのリズムがまごついたわけではないことは明らかである。単に、音楽を二つの別箇なテンポの水準に分枝しようと試みているのだ。問題の楽句の第2小節において、モートンは左手にほぼ1/10分（8分音符の5連符の一つ分）先行するように、右手のテンポを調節する。
この旋律は、普通のやり方で演奏すれば、以下のようになる…譜例9。

リズム的にちょっぴり先に転移されることによって、旋律はビートの間に落下する。モートンが、右手の短縮されたテンポの枠内で、ニューオリンズ・スタイルに内在する大股の歩調の3連符の感覚を保持しようとした点に注目すると面白い。我々は、引き伸ばされた譜例8の第2小節とこの小節の冒頭の8分休符の余分な長さ（記譜では反映されていない）にこれを目撃する。―この後翻訳が混乱をきたし何を言っているか訳が分からなくなる。そしてモートンが第2小節でやろうとしたことをできる限り正確に記譜しようとすれば次の譜例10のようになる

譜例8の第5小節において、モートンは、第二のテンポ外れの楽句、その完成に4小節分要して、第9小節に至って再び曲の主要なテンポと旋律に接続する、長いアーチを描く旋律線を導入する。この楽句全体を際立たせているのは、モートンの左手が単純な4/4ではなく、それ自体不揃いなビートの型を持つハバネラ（或いはチャールストン）のリズムを奏でているからである。
モートンは、ここでエロール・ガーナーを除けば、60年代に至るまでジャズの音楽家が真剣には探索しなかった事柄に、60年代ではポリリズムというよりも無リズム的な意味で探索された事柄に取り組んだのである。
ここまでがシュラー氏の解説である。難しい。全部は理解できないが、確かに“New Orleans joys”の左手の動きは変わっている。要はそれまでのスコット・ジョプリンに見られるラグタイムとは趣を異にしていることは僕にもわかる。僕はストライド奏法を熟知しているとは言えないが、その他の曲もありきたりの演奏ではないとは思える。
レコードⅠA-5.ウォルヴリン・ブルース」は、「ブルース」ではないのに出版社によって勝手に「ブルース」という言葉が付けられた。このことはモートンを困らせたが、この曲は「圧倒的な成功を収めた」と言います（ガンサー・シュラー『初期のジャズ』)。つまりまだ「ブルース」は新規の音楽であり、こうしてタイトルにつけることによって出版社はヒットを狙ったのだと思われる。

僕は持っていないのですが、ディスコグラフィーによれば1923年にはこの後もう1度ゼネラル・フォノグラフ社(General Phonograph Corporationn)に2面分の録音を行っています。以下データだけですが記載しておきます。

＜Date & Place＞　…　1923年10月　シカゴにて録音

＜Personnel＞ … ジェリー・ロール・モートンズ・ジャズ・バンド　（Jelly Roll Morton's Jazz Band）

Piano & band leader	…	ジェリー・ロール・モートン	Jelly Roll Morton
Cornet	…	ナッティ・ドミニク	Natty Dominique
Trombone	…	ズー・ロバートソン	Zue Robertson
Clarinet	…	ホレス・ユーバンクス	Horace Eubanks
Drums	…	W.E.バートン	W.E.Burton

＜Contents＞ …

Some day sweetheart

London blues

このWebサイトについてのご意見、ご感想は、メールでお送りください。

お寄せいただいたご意見等は本文にて取り上げさせていただくことがあります。予めご了承ください。

ジェリー・ロール・モートン 1923年

Jelly Roll Morton 1923

＜Date & Place＞ … 1923年6月 シカゴにて録音

＜Personnel＞ … ジェリー・ロール・モートン・アンド・ヒズ・オーケストラ （Jelly Roll Morton and his orchestra）

＜Contents＞ … “Jelly Roll Morton 1923/24”(Milestone M-47018)

＜Date & Place＞ … 1923年7月17日 インディアナ州リッチモンドにて録音

＜Personnel> … ジェリー・ロール・モートンとニュー・オリンズ・リズム・キングス (Jelly Roll Morton & New Orleans Rhythm Kings)

＜Contents> … 「白人草創期ジャズ音楽」(AudioPark APCD-6001)

＜Date & Place＞ … 1923年7月17、18日 インディアナ州リッチモンドにて録音

＜Personnel＞…ジェリー・ロール・モートン （Jelly Roll Morton）

＜Contents＞ … “Jelly Roll Morton 1923/24”(Milestone M-47018)

＜Date & Place＞ … 1923年10月 シカゴにて録音

＜Personnel＞ … ジェリー・ロール・モートンズ・ジャズ・バンド （Jelly Roll Morton's Jazz Band）

＜Contents＞ …

このWebサイトについてのご意見、ご感想は、メールでお送りください。

＜Date & Place＞　…　1923年6月　シカゴにて録音

＜Personnel＞ … ジェリー・ロール・モートン・アンド・ヒズ・オーケストラ　（Jelly Roll Morton and his orchestra）

＜Date & Place＞　…　1923年7月17日　インディアナ州リッチモンドにて録音

＜Date & Place＞ … 1923年7月17、18日　インディアナ州リッチモンドにて録音

＜Personnel＞…ジェリー・ロール・モートン　（Jelly Roll Morton）

＜Date & Place＞　…　1923年10月　シカゴにて録音

＜Personnel＞ … ジェリー・ロール・モートンズ・ジャズ・バンド　（Jelly Roll Morton's Jazz Band）