ビックス・バイダーベック 1924年

Bix Beiderbeck 1924

ウォルヴァリンズはオーケストラと称していながら7人編成と小ぶりである。どうもこのバンドは余り高く評価されていないような気もするが、なかなかどうしてレベルが高いような気がする。Tsなどこの時代のヘンダーソン楽団のコールマン・ホーキンスに比べても上なのではないか?今回取り上げたのは1924年の吹込みであるが、ルイはまだニューヨークに進出してヘンダーソン楽団で録音する前である。確かにジャズ史上影響力が高いのはルイの方だろうか、時代的にはビックスの方が先に自身のスタイルを作り上げたということになる。

<Date & Place> … 1924年5月6日〜10月7日 インディアナ州リッチモンドにて録音

<Personnel> … ウォルヴァリン・オーケストラ(Wolverine orchestra)

Bandleader & Pianoディック・ヴォイナウDick Voynow
Cornet & Pianoビックス・バイダーベックBix Beiderbecke
Clarinetジミー・ハートウェルJimmy Hartwell
Tenor saxジョージ・ジョンソンGeorge Johnson
Banjo/Guitarボブ・ジレットBob Gillette
Tubaミン・ライブルックMin Leibrook
Drumsヴィック・ムーアVic Moore

<Contents> … “An introduction to Bix Beiderbecke 1924-1930”(Best of jazz 4012)

CD-1.オー・ベイビー!Oh Baby !1924年5月6日
CD-2.リヴァーボート・シャッフルRiverboat shuffle1924年5月6日
CD-3.タイガー・ラグTiger rag1924年6月20日
CD-4.ビッグ・ボックスBig boy1924年10月7日

同一メンバーによる5か月間に渡っての録音。全てリッチモンドにあるジネット(Gennett)への録音
CD-1.オー・ベイビー!
短いテーマ合奏の後、ビックス30小節、Bj8小節、Ts30小節、Cl16小節とソロが続く。この時代こうしたソロ主体の演奏というのは珍しいのではないかと思う。シュラー氏は、ビックスのソロは、テーマの単純な装飾を行うだけだが、暖かい音色と寛いだスイングのおかげで、取るに足らない曲が魅力的なものになっていると書いているが、僕にはそれぞれのソロは時代に先駆けた内容を持っているように聴こえるのだが。

「リヴァーボート・シャッフル」譜例

CD-2.リヴァーボート・シャッフル
ホーギー・カーマイケルがインディアナ大学時代親交のあったウォルヴァリン・オーケストラのために書いた曲。シュラー氏はこの作品を重要なものとして取り上げ、譜例まで上げて解説している。但し日本語訳が混乱しており何を言っているのか分からないのが残念である。参考まで湯川氏の訳をそのまま掲載してみる。
「ビックスの偉大な抒情の才能のみならず、着想の流れを構成に無駄のない微細な作品にまでまとめ上げる才能を示す。
譜例は、いくつかの着想(X、Y、Z)が同期的な要素として再登場して、ソロに冷静に計算されたまとまりを与える様子を明らかにしている。
ブルー・ノートを中心とする動機のZの実際の姿は記譜不可能である。これは最初は、黒人に特有な屈折を込めて、全音階的な記譜法の範囲を逸脱するフラット気味の音調で演奏される。2番目に登場する箇所では、ビックスは、このブルー・ノートを全音分の音程で5拍に渡って完璧に維持されるグリッサンド音へと変形する。
しかしながら、これらの楽句では、これと関連するYの楽句の場合と同様に、ルイ・アームストロングやキング・オリヴァーがこうしたブルー・ノートの音程に与えた『ホットな』或いは『汚れた』音調を聴き取ることはできない。ビックスにあっては、ブルー・ノートは純粋で、完璧に制御された響きであって、・音程や音色の制御のために『ホットな』あるいは『汚れた』音調は排除されてしまう。」
CD-3.タイガー・ラグ
O.D.J.B.の当たり曲。ビックスはO.D.J.B.のTp奏者ニック・ラ・ロッカのファンだったというのでこの曲など習作時代何度も吹いていたろう。リズムは明確な4/4ビートであるとシュラー氏は書くが、僕にはディキシー伝来の2ビートっぽく聴こえる
CD-4.ビッグ・ボックス
こちらのリズムは4ビートっぽい。スイングしている。ビックスのCorはスムーズによく歌っている。もう一つ注目はピアノ・ソロでこれを弾いているのはビックス。CD解説によるとビックスのピアノが記録されたのはこれが初めてであるという。
野球でいえば大谷翔平選手のような活躍ぶりで、ビックスがこのバンドのスターだったことがよく分かる。

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