ビリー・ホリデイ 1940年

Billie Holiday 1940

リリアン・スミス

前年1939年ビリーは『奇妙な果実』という衝撃的なレコーディング行った。このレコードはヒットし、反響も大きかった。自伝『奇妙な果実』によれば、この歌が人気を博したのはしばらく経ってからのことだったが、人々は好んでリクエストするようになり、ビリー最大のヒット曲になった。ただ南部でこの歌を歌うと必ずひと悶着起きるので歌わないことにしていたが、リクエストが来れば歌ったようだ。
南部出身の作家であり社会評論家でもあるリリアン・スミス女史(写真右)は、1944年異人種間のロマンスという、当時は禁止されていた物議を醸すテーマを扱った小説を出版する際、当初は別のタイトルを考えていたというが、ビリーの歌を知り、題名を『奇妙な果実』に変えたという。因みにこの本は地域によっては出版禁止となり、郵便公社の配送も禁じられたがベスト・セラーになった。
ビリーはこの曲のレコーディングの約2か月半後には本来のコロンビアへのレコーディングを開始し、カフェ・ソサイエティへの出演も続けた。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」レコード・ジャケット

<Date & Place> … 1940年2月29日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・アンド・ハー・オーケストラ(Billie Holiday and his orchestra)

Band leader & Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Alto saxジミー・パウエルJimmy Powellカール・フライCarl Frye
Tenor saxカーミット・スコットKermit Scott
Pianoソニー・ホワイトSonny White
Guitarロウレンス・ルーシーLawrence Lucie
Bassジョン・ウィリアムスJohn Williams
Drumsハロルド・"ドク"・ウエストHarold "Doc" West

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)

Record1 A-1.過ぎ去りし日のまぼろしGhost of yesterday
Record1 A-2.身も心もBody and soul
Record1 A-3.このままでいいのかしらWhat is this going to get us ?
Record1 A-4.又恋してしまったわFalling in love again

このセッションから、以前しばしばテディ・ウィルソンとの録音に参加していたロイ・エルドリッジが参加し、見事なプレイを聴かせてくれる。このセッションではビリーの歌唱が前面に出て、インストのソロは控えめである。ビリーの自信の表れであろうか。

A-1.「過ぎ去りし日のまぼろし」
早速エルドリッジがグルーミーなミュート・プレイを披露し、ビリーは間奏もなく一人で歌いきっている。感情を抑え切った見事な歌唱である。
A-2.「身も心も」
超有名曲。イントロのオープンと間奏のミュート・プレイは当時のエルドリッジの円熟ぶりを示す素晴らしいものだ。解説の巨泉氏は素晴らしいフレイジングと評価しているが、ビリーの歌唱も1度聴いただけでは、曲名が分からないような崩した歌い方である。
「このままでいいのかしら」
このセッションはみなそうだが、ここでも暗い雰囲気を漂わせたビリーの歌唱である。ソロはホワイトのピアノのみ。
A-4.「又恋してしまったわ」
当時のポップス・ナンバーと思われるが、ビリーは貫録さえ感じさせるような堂々たる歌いっぷりを示す。このセッションでは唯一TsとTpと2つのソロが入る。カーミットは短期間だけ活躍した人で、ソロが収録されているのはこの曲ぐらいであるというが、ホウキンスを思わせるような堂々たるソロである。続くエルドリッジも格の違いを感じさせる素晴らしいソロを披露する。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」1枚目A面

<Date & Place> … 1940年6月7日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・アンド・ハー・オーケストラ(Billie Holiday and his orchestra)

Band leader & Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Trumpetロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Alto saxビル・ボウエンBill Bowenジョー・エルドリッジJoe Eldridge
Tenor saxカーミット・スコットKermit Scottレスター・ヤングLester Young
Pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Guitarフレディ・グリーンFreddie Greene
Bassウォルター・ペイジWalter Page
DrumsJ.C.ハードJ.C.Heard

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)

Record1 A-5.苦しみに耐えてI'm pulling through
Record1 A-6.もっと話してTell me more
Record1 A-7.笑って行こうよLaughing at life
Record1 A-8.恋のひとときTime on my hands

ロイ・エルドリッジ、レスター・ヤングといえばスイング時代を代表するソロイストだが、解説の大和明氏によれば、これが初共演なのだという。前回録音でなかなか良いソロを披露したカーミットだが、レスターが参加しているこのセッションではさすがに出番がなかったようだ。

A-5.「苦しみに耐えて」
しみじみとした調子でビリーはじっくりと歌い込んでいる。短いが間奏のレスターのソロも秀逸。
A-6.「もっと話して」
複雑な内容のマイナーな曲だが、ビリーは執念といってもいいような迫力ある歌唱で聴く者の胸をえぐる。間奏のテディのソロも哀感がある。
A-7.「笑って行こうよ」
明るい感じのスインギーなナンバー。テディ、レスター、エルドリッジと続くソロは豪華極まりない。ビリーもノッてスイングしている。
A-8.「恋のひととき」
ゆったりとしたナンバーをもの憂げにしみじみと歌い込んでいくビリー、レスターのオブリガード、短いがテディの素晴らしいソロ、絶品である。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」レコード・ジャケット

<Date & Place> … 1940年9月12日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・アンド・ハー・オーケストラ(Billie Holiday and his orchestra)

Band leader & Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Trumpet & Vocalロイ・エルドリッジRoy Eldridge
Saxドン・レッドマンDon Redmanジョージ・オウルドGeorge Auldジミー・ハミルトンJimmy Hamiltonドン・バイアスDon Byas
Pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Guitarジョン・コリンズJohn Collins
Bassアル・ホールAl Hall
Drumsケニー・クラークKenny Clarke

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)&"Billie Holiday/Live and private recordings in Chronological order"

Record1 B-1.私のすべては貴方にI'm all for you
Record1 B-2.すべては音楽I hear music
Record1 B-3.&Rare studio cut二番せんじIt's the same old story
Record1 B-4.恋の予行演習Practice makes perfect

レコードに針を落として最初の20秒くらいでちょっとこれまでと違う雰囲気を感じる。解説を見ると、かのドン・レッドマンがプレイヤーとしてそしてアレンジャーとして参加しているとある。また、モダン・ドラミングの開祖ケニー・クラークが参加している。それが軽快なスイング感をもたらしているとは解説氏。なるほど!
元のディスコグラフィーでは、レッドマンとオウルドがAs、ハミルトンとバイアスがTsとなっているが、疑わしいので4人ともSaxで括ったとは解説氏。

「ビリー・ホリディ/クロノロジカル・オーダー」Rare syudio cuts
B-1.「私のすべては貴方に」
ゆったりとしたテンポに乗せて、ビリーは余裕の歌いっぷりを示す。全てを達観したような歌い方とは解説の巨泉氏。一方ソロを取るエルドリッジは短いが迫力あるソロを取る。
B-2.「すべては音楽」
これは現在でも歌われるスタンダードといっていい曲で、40年発表の当時では最新の曲という。ビリーは見事に消化した歌いっぷりをします。エルドリッジのソロは次の時代<ビ・バップ>の息吹を感じさせるという。Tsソロも聴き応えがある。
B-3.「二番せんじ」
解説氏は、これは酸いも甘いも味わい尽くした成熟した女の歌だという。25歳でこの表現力は恐ろしいほどだと書いている。
因みにこの曲のファースト・ヴァージョンが「ビリー・ホリディ/クロノロジカル・オーダー」に収録されている。もう少々詳しく書くと、「ビリー・ホリディ/クロノロジカル・オーダー」番外編23枚目”Rare syudio cuts”要するにスタジオ録音のレア音源として収録されている。聴いてみてもほとんど違いは分からない。
B-4.「恋の予行演習」
これは平凡なポップス・ナンバーだという。ビリーも取り立てて言うことはないというが、良くスイングしているし間奏のTp、Tsソロもスインギーでそれなりの出来映えを示していると思う。

「ビリー・ホリディ」レコード第5集」1枚目B面

<Date & Place> … 1940年10月16日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ビリー・ホリディ・ウィズ・ベニー・カーター・アンド・ヒズ・オールスター・オーケストラ(Billie Holiday with Benny Carter and his allstar Orchestra)

Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Bandleader , Clarinet & Alto saxベニー・カーター Benny Carter
Trumpetビル・コールマンBill Coleman
Tromboneベニー・モートンBenny Morton
Tenor saxジョージ・オウルドGeorge Auld
Pianoソニー・ホワイトSonny White
Guitarユリシーズ・リヴィングストンUlysses Livingston
Bassウィルソン・メイヤーズWilson Meyers
Drumsヤンク・ポーターYank Porter

<Contents> … 「ビリー・ホリディ物語 第5集」(SOPH 69〜70)

Record1 B-5.セントルイス・ブルース その1St. Louis blues part1
Record1 B-6.セントルイス・ブルース その2St. Louis blues part2
Record1 B-7.ラヴレス・ラヴLoveless love

この日のセッションはビリーのセッションではなく、W.C.ハンディの作品を録音するためにベニー・カーターをリーダーとするオールスター・バンドが組まれ、その2曲にビリーは起用されたのだという。因みにこの日は全4曲録音され、残りの2曲はブルース・シンガーのジョー・ターナーが起用されているという。4曲ともアレンジはベニー・カーターでここに収録されていない2曲も含めて実に素晴らしいアレンジであるという。

B-5、6.「セントルイス・ブルース」
ご存知超有名ブルース・ナンバー。ビリーがこういう歌を歌うのも実に楽しみである。ともかくビリーが歌うと普通の同曲とは思えない独自性がある。ソロはカーターがクラリネットで取っている。
B-7.「ラヴレス・ラヴ」
W.C.ハンディ作の変形ブルースという記述とブルースではないという記述がある。確かこの曲はディキシーの名曲「ケアレス・ラヴ」を素にしているはず。中間のオウルドのTsソロが良い。

「ビリー・ホリディ/クロノロジカル・オーダー」レコード・ボックス

<Date & Place> … 1940年12月19日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ジャム・セッション(Jam session WNEW radio program)

Vocalビリー・ホリディBillie Holiday
Trumpetホット・リップス・ペイジHot Lips Page
Tenor saxチャーリー・バーネットCharlie Barnetコールマン・ホウキンスColeman Hawkinsレスター・ヤングLester Young
Pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Guitar不明Unknown
Bass不明Unknown
Drums不明Unknown

<Contents> … "Billie Holiday/Live and private recordings in Chronological order"

Record1 B-6.「私の彼氏」
ラベルにはA面7曲目と書いてあるが、実際はB面6曲目が「私の彼氏」。A面7曲目は「アイル・ゲット・バイ」
ラジオ放送でのジャム・セッションという貴重な録音。メンバーがすごい、特にテナー・サックス。まずチャーリー・バーネットは「白いエリントン」と言われ、バンド・リーダーとして有名だがどういう経緯か参加している。ホウキンスとレスターの競演はそれだけで価値がある。しかし音が悪すぎる。ビリーの歌のバックにTsは聴こえるがそれほどのプレイとは思えずというかほとんど聴こえないし、ソロもない。ビリーのヴォーカルも好調とは思えない、声の「荒れ」が気になる。

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