ジャグ・バンド 1924年

Jug Band 1924

昔のジャグ・バンド

僕が学生の頃、1970年代前半野外で行われたロック・フェスティヴァルやフォーク・フェスティヴァルなどに出かけると、必ずと言っていいほどロックやフォークのバンドの合間に「ジャグ・バンド」なる分野のバンドが出演していた。そのメンバーたちはワーク・シャツを着て、ジーンズのオーヴァーオールといういでたちで、見るからに都会ではなく、カントリーそしてマウンテンという言葉が似合う素朴な音楽を演奏していた。僕自身はその時はほとんど興味を持てなかったのだが、「こういう人たちもいるんだなぁ、自然に囲まれた山奥で静かに平和に暮らしている、あるいはそういった暮らしに憧れている人たちなんだぁ」としか思い描けなかった。
ジャグ ウィキペディアは次のようにまとめている。「この「ジャグ・バンド (jug band)」 とは、20世紀の初めごろにアメリカ合衆国南部の地域で興った音楽バンドの形式、あるいはそのバンドの演奏の音楽のひとつ。ジャグ・バンドの「ジャグ」とはウイスキーなどの飲み物を貯蔵するための瓶を意味する。ジャグは、口に息を吹き込むことによって、低音楽器として使用される。元々ジャグ奏者 (ブロワー(Blower)と呼ばれる) がバンドに加わることが多いことからこのような名前が付けられたものと思われるが、必ずしもジャグ・ブロワーはジャグ・バンドの必須条件ではない。実際に今も昔も、ジャグ・ブロワーを含まないジャグ・バンドは数多く存在する。」
『ジャズ百科辞典』(スイングジャーナル社発行)では、「アメリカで古くから使われている取っ手付きの酒瓶(ジャグ)の空瓶の口を唇にあてて吹き低音の気適温を出してチューバのような音を出し、楽器として使ったのは、楽器を持てなかった黒人たちの知恵、工夫によるものだが、そのジャグを中心にハーモニカ、バンジョー、カズー、ヴァイオリン、ウォッシュボード(洗濯板)、クラリネットで編成した土俗的な一種ジャズ・バンド。」と解説している。
「一種のジャズ・バンド」としながら日本では、<マウンテン・ミュージック/ヒルビリー>⇒<ジャグ・ミュージック>から<フォーク・ソング>、<ブルース>という系統の流れとしてとらえられることが多く、ジャズとの接点は軽視されてきたような気がする。実際スイングジャーナルなどジャズ専門誌上でもほとんどジャグ・バンドの記事は見かけてことはなかったと記憶する。
昔のジャグ・バンド ブラック・ミュージックの歴史に詳しい中村とうよう氏によれば、ラングストン・ヒューズの『ジャズ』が少年時代のルイ・アームストロングが近所の悪童連中と、ハーモニカ、煙草の箱で作ったギター、洗濯板、タライで作ったベース(ウォッシュ・タブ)を使った4人組のスパズム・バンドを編成して街角で小銭を稼ぐ情景から始めているという。そしてこうした手製の楽器や代用品の楽器、ハーモニカ程度の安価な楽器を使う楽団は、南部のあちこちで黒人たちが試みたことに違いないという。つまりは編成が様々な「ジャグ・バンド」は、20世紀の初めごろアメリカ南部中心にたくさん存在していたのである。
しかしこうした演奏がレコーディングされることはなく、現在のわれわれがレコードで聴くことができるのは、1920年代以降南部のいくつかの街で演奏を行っていたプロのジャグ・バンド、ウォッシュボード・バンドであり、そうした楽器を取り入れたジャズ・ジャグ折衷バンドの演奏ということになる。
さて現在最初のジャグ・バンドのレコーディングと言われているのは、ケンタッキー州ルイヴィル出身のシンガー、サラ・マーチンが1924年9月に吹き込んだものという記述(Wikipedia)とケンタッキー州ルイヴィルを中心に活動していたクリフォード・ヘイズ率いる「ディキシー・ジャグ・ブロワーズ」が1924年に吹き込んだもの(中村とうよう氏)という2種類の記述がある。当然僕には決め手がないので、2つの説を紹介するにとどめる。
日本では、アメリカでよく使われるという右のような「ジャグ」が少ないためか、僕が学生時代に見たジャグ・バンドはジャグを使ったバンドはなく、左上のようなウォッシュ・タブ(タライを使ったベース)を使っていたと記憶している。

ジェリー・ロール・モートン

ここで注目のレコーディングがある。それはジェリー・ロール・モートンの1924年の吹込みである。モートンは1923年からシカゴに落ち着き、当時最新のレコード吹込みも行い、そのレコードもある程度の売れ行きを示し、シカゴでの音楽活動はまずまずのスタートを切ったと言われる。そのレコーディングについては「ジェリー・ロール・モートン 1923年」を参照。
「Jelly Roll Morton 1923/24」レコード・ジャケット

モートンがシカゴに落ち着いて2年目、3回目のレコーディングが4月に行われる。それはパラマウント・レコード(Paramount Records)に吹き込んだ計3面分で、モートンの数ある録音の中でも異色のものと言える。

<Date & Place> … 1924年4月 シカゴにて録音

<Personnel>…ジェリー・ロール・モートンズ・スティームボート・フォー (Jelly Roll Morton's Steamboat four)

Piano & band leader…ジェリー・ロール・モートンJelly Roll Morton
Comb…“メンフィス”“Memphis”
Kazoo…W.E.バートンW.E.Burton
Clarinet…ボイド・センターBoyd Senter
コゥン

<Contents> … “Jelly Roll Morton 1923/24”(Milestone M-47018)

レコード��A-6.ミスター・ジェリー・ロード・テイク1Mr. Jelly Lord (take 1)
レコード��A-7.ミスター・ジェリー・ロード・テイク2Mr. Jelly Lord (take 2)

<Date & Place> … 1924年4月 シカゴにて録音

<Personnel>…ジェリー・ロール・モートンズ・ストンプス・キングス (Jelly Roll Morton's Stomps Kings)

Piano & band leader…ジェリー・ロール・モートンJelly Roll Morton
Comb…“メンフィス”“Memphis”
Kazoo…W.E.バートンW.E.Burton、不明Unknown
Banjo…不明Unknown
カズ―

<Contents> … “Jelly Roll Morton 1923/24”(Milestone M-47018)

レコード��B-1.ステディ・ロールSteady Roll

さてこれは<ジャグ・ミュージック>でしょうか?もしそう判断すれば、最初に述べたようにサラ・マーチン、クリフォード・ヘイズの1924年9月よりも早い録音で、初のジャグ録音ということになる。しかし「手製の楽器や代用品の楽器、ハーモニカ程度の安価な楽器を使う」のが<ジャグ・ミュージック>だとすれば、モートンの弾くピアノほど<ジャグ>っぽくない楽器も少ないでしょう。さらにこれを考える上での気になる点がある。モートンは、レコード��A-6、7.の「ミスター・ジェリー・ロード」を後に(1926年2月)パンチ・ミラーなどニュー・オリンズ系のミュージシャンたちと吹込みを行っている。(「ジェリー・ロール・モートン 1926年」を参照)。それを聴くとディキシーランド系の演奏と思える。そうすると<ジャズ>と<ジャグ>の違いは楽器編成の違いということになります。この辺りのことについて僕には結論を出せないが、<ジャズ>と<ジャグ>は非常に近しい関係の音楽ということだけは言えると思う。
もう一つ気になるのが、こういったジャグ・ミュージックの録音はモートン自身が望んだものなのかそれとも乞われて参加したものかという点である。その辺りに関することはもちろんこの吹込みに関してもガンサー・シュラー氏は一言も触れていない。誰も解説してくれないので、勝手に推測してみる。読まれた方は誰にも話さない方が良いですよ。話したら笑われますよ。
「Jelly Roll Morton 1923/24」第3面 ラベル ニュー・オリンズ時代からモートンは様々な音楽に関する興味・関心そして進取取得の情熱は大変強いものがあったと言われる。この時代のピアニストの常として基本はラグタイムに軸足を置きながら、クラシックを学び、ハバネラやチャールストンのリズムなどを取り入れる試みを行っている。そして彼は1907年ニュー・オリンズを出て全米各地を放浪している。そこで彼はケンタッキー州を訪れた時にルイヴィルかどこかでジャグ・ミュージックと出会い興味を惹かれたのではないだろうか?そして自身のラグタイムを基本とした”ジャズ”とジャグ・ミュージックのコラボレーションをやってみようと思ったのではないだろうか?
僕はモートンの全録音を持っているわけではなく彼の全てを知るわけではないので言い切ることはできないが、この「ジャグ・ミュージック」とのコラボは以後行われることはなかった。それはジャグ・ミュージックというものが、前述のようにジャグやウォッシュボードといった身の回りのものを使って行われる演奏であって、「音」そのものは面白いかもしれませんが、ハーモニーやリズム、メロディーといった音楽の根本的なところには何の新規性があるわけではなく、モートンにとって得られるものが少なかったのではないだろうか?
演奏を聴いた素直な感想は、まずジャズではほとんど使わないカズ―(Kazoo)やコゥン(Comb)を使っているので、不思議な聞きなれないサウンドに当惑する。”Comb”とは普通「櫛」のことで、その楽器としての使われ方がよく分からないが、どうも口に当て、音は口から出だし、櫛の歯を通すことで変わった音にするように思われる。音が悪いこともあってクラリネット、カズ―、コンブがそれぞれソロを取っているようにも聴こえ、どれがどれやら分からず、喧しいだけの演奏にも聴こえる。僕はやはり<ジャズ>の方がいいな。
因みにパーソネルについて、Kazooを担当しているのはレコードではW.E.バートンとなっているが、Web版ディスコグラフィーではジャック・ラッセル(Jack Russell)となっている。両セッションで「コゥン」(Comb)を担当している”Memphis”なる人物については皆目見当もつかない。また「ストンプス・キングス」の第2カズーをレコードでは不明としているが、Web版ディスコグラフィーではラッセル・センター(Russell Senter)、バンジョーをレコードでは不明としているが、Web版ディスコグラフィーではボイド・センター(Boyd Senter)としている。ここでは全てレコード記載の方を採用しておいた。

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