コールマン・ホーキンス 1945年

Coleman Hawkins 1945

映画「The Crimson canary」ワン・シーン

コールマン・ホーキンスは、前年1944年バップに取り組み、ディジー・ガレスピーのバンドのメンバー、ジョージ・ウォーリントンを除く全員を雇い入れ、バップに取り組んだ録音を行っている。しかし1945年に入ると、ガレスピーはバンドを離れ、自己のコンボやチャーリー・パーカーと組んでより、バップを徹底させるような活動を始める。そこでホークも新たなバンドを組んで活動を行う。アルバム裏面のAlun Morgan氏によるライナー・ノートによると、Tpのマギー、ピアノのトンプソン、ベースのペティフォード、ドラムのデンジル・ベストは当時ホークのレギュラー・バンドのメンバーであったという。そこに当時ハリー・ジェイムス楽団に在籍していたGtのリュースをこのレコーディングのために呼んで吹き込んだ。それがこのLPである。
Tpのハワード・マギーは、アンディ・カークのバンドに44年6月まで在籍し、以後ジョージ・オールド、カウント・ベイシーを経てコールマン・ホーキンスのバンドの一員としてカリフォルニアに向かい自分のコンボを率いたとある。セカンド・セッションに当たる3月2日の録音に加わっているTbのディッケンソンと3月9日にペティフォードに変わってベースを担当したシモンズは、当時エディ・ヘイウッドのバンドのメンバーだったという。なぜこのセッションに加わったのかは記載されていないと思う(英語なのでよく分からない)。ペティフォードがディズやパーカーとのバンドに加わるために抜けた穴埋めに、ディッケンソンが紹介したのかもしれない。
さて、このホークのバンドは、ロス・アンゼルスのビリー・バーグのクラブへ3か月から4か月の間出演するためにハリウッドに来ていた。そしてその間ユニヴァーサル映画“The Crimson canary”のサウンド・トラックを録音したという。Youtubeで“The Crimson canary”を検索すると、ホーク、マギー、ペティフォードがフロントに立ってA-1”Rifftide“を演奏するシーンを見ることができる(写真右)。
さて、このアルバムの感想を一言でいうと、<スイング>=<バップ>の中間に位置するようなアルバムで、非常に上質の演奏が楽しめる仕上がりになっていると思う。僕が勝手に師事する評論家の粟村氏も「たとえモダンにはなりえずとも進取の気性に満ちた」作品と述べている。
もう少し言うと、このアルバムには、2種類の演奏が混在しているのである。それは意識してそうしているのかどうかは分からないが、一つは<バップ志向>というかバップの香るものともう一つは<生粋スイング>である。収録全12曲中ホークが5曲提供しているが、それらに<バップ志向>があるように感じられるのである。
一方<生粋スイング>においては、特にホーキンスのテナーが良く歌うのである。マイルドによく歌う、その上音がいい。ホークのテナーの音は中音質がふくよかで力強く、素晴らしく魅力あふれた音色を聴かせてくれるのだ。

「ハリウッド・スタンピード」レコード・ジャケット

<Date & Place> … 1945年2月23日 ロサンゼルス・ハリウッドにて録音

<Personnel> … コールマン・ホーキンス・アンド・ヒズ・オーケストラ(Coleman Hawkins And His Orchestra)

Band leader & Tenor saxVocalコールマン・ホーキンスColeman Hawkins
trumpetハワード・マギーHoward McGhee
Pianoサー・チャールズ・トンプソンSir Charles Thompson
Guitarアラン・リュース
Bassオスカー・ペティフォードOscar Pettiford
Drumsデンジル・ベストDenzil Best

<Contents> … "Coleman Hawkins/Hollywood stampede"(Capitol 5C052 82802)

A面1.リフタイドRifftide
A面2.4月のパリApril in Paris
A面3.スターダストStardust
A面4.スタッフィStuffy
「リフタイド」
ホークのオリジナル。スタンダード・ナンバー“Lady be good”のコード進行を使っているという。後にセロニアス・モンクが「ハッケンサック("Hackensack")」というタイトルとして録音し、バップのクラシックとなったと解説のモーガン氏は書いている。そう言われればバップぽいリフ・ナンバーだと思う。マギーとホークの短いソロが入る。そうして聴くとホークの演奏は音数が多いこともあってかバップ臭がし、一方マギーのソロはロイ・エルドリッジに通じるスイング臭がするのである。
「パリの4月」
ヴァ―ノン・デュークとE.Y.ハーバーグの作ったカウント・ベイシー楽団で有名な曲。ここではテーマのメロディーそのものはほとんど登場せず、ゆったりとしたテンポでホーク⇒マギー⇒ホークがソロを取る。こういったスタンダード・ナンバーでのホークは、中低音を活かしたテナー・サックスのという楽器の魅力を十分に聴かせてくれる。
「スターダスト」
ホーギー・カーマイケル作の不朽の名曲。短いベースのイントロの後で飛び出すマギーのTpの朗々たるテーマ吹奏は、この曲の定番的な吹奏と思うが、他にこういう演奏は聴いたことが無い。僕がもしトランペット奏者なら、一生に一度はバンドをバックにこのフレーズを歌い上げたいと思うだろう。続くホークもテナーらしい中低音を活かした素晴らしいソロ・ワークを聞かせてくれる。これも<スイング系>の演奏。
「スタッフィー」
これもホークの作。TpとTsのユニゾンで始まる<バップ系>の演奏。ホークのソロは正に豪放そのものである。珍しくギターのリュースの短いソロが聴ける。

「ハリウッド・スタンピード」レコード・ラベルA面

<Date & Place> … 1945年3月2日 ロサンゼルス・ハリウッドにて録音

<Personnel> … コールマン・ホーキンス・アンド・ヒズ・オーケストラ(Coleman Hawkins And His Orchestra)

Trombone … ヴィック・ディッケンソン(Vic Dickenson) ⇒ In

<Contents> … "Coleman Hawkins/Hollywood stampede"(Capitol 5C052 82802)

A面5.ホワット・イズ・ゼア・トゥ・セイWhat is there to say ?
A面6.アイム・スルー・ウィズ・ラヴI'm through with love
B面1.ハリウッド・スタンピードHollywood stampede
B面2.ラップ・ユア・トラブルズ・イン・ドリームスWrap your toubles in dreams
「ホワット・イズ・ゼア・トゥ・セイ」
曲はこれもヴァ―ノン・デュークとE.Y.ハーバーグの作。ホークの滋味に溢れたバラード・プレイが素晴らしい。<スイング系>。
「アイム・スルー・ウィズ・ラヴ」
作者としてマッティ・マルネック、ファド・リビングストン、ガス・カーンの3人の名前が載っている。
短いギターのイントロで始まる。これもゆっくりとしたテンポで歌い上げるホークのテナーの素晴らしいバラード・プレイが聴ける。新たに加わったディッケンソンもソロを取るがちょっとユーモラスなソロで、ホークと比べるとやはり<スイング臭>が強い。
「ハリウッド・スタンピード」
これもホークの作。“stampede”とはたまに聞く言葉であるが、どんな意味だろうか?英和辞典を引くと「どっと逃げ出す」とか「殺到する」とかという意味が載っている。これではよく分からないなぁ。Web英和辞書を見ると「突発的な大衆行動」というのもある。訳すとしたら「ハリウッド大騒ぎ」という辺りかな?
TpとTsのユニゾンで始まる<バップ臭>のする曲。マギー、ホークが1コーラス、そしてディッケンソン、トンプソンが半コーラスずつソロを取る。トンプソンはスイングっぽいがシングル・トーンがいい感じのソロだ。
「ラップ・ユア・トラブルズ・イン・ドリームス」
作者としてハリー・バリス、テッド・ケーラー、ビリー・モルという3人の記載がある。TsとPの掛け合いなどが楽しい<生粋スイング>といった感じがする曲だ。短いがペティフォードのソロも聴ける。

「ハリウッド・スタンピード」レコード・ラベルB面

<Date & Place> … 1945年3月9日 ロサンゼルス・ハリウッドにて録音

<Personnel> … コールマン・ホーキンス・アンド・ヒズ・オーケストラ(Coleman Hawkins And His Orchestra)

Trombone … ヴィック・ディッケンソン(Vic Dickenson) ⇒ Out
Bass … オスカー・ペティフォード ⇒ ジョン・シモンズ(John Simmons)

<Contents> … "Coleman Hawkins/Hollywood stampede"(Capitol 5C052 82802)

A面5.サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミーSomeone to watch over me
A面6.ツー・マッチ・オブ・ア・グッド・シングToo much of a good thing
B面1.イッツ・ザ・トーク・オブ・ザ・タウンIt's the talk of the town
B面2.ビーン・スープBean soup
「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」
ベースがペティフォードからジョン・シモンズに変わる。ソロ・オーダーは、ホーク⇒トンプソン⇒マギー⇒ホーク。3人それぞれ持ち味を出ししっとりとした曲に仕上げている。 この曲はジョージ・ガーシュイン作で、日本でも野村不動産のCMに使われたりしたおなじみのメロディー。
「ツー・マッチ・オブ・ア・グッド・シング」
ホーク作だが、これはスイングっぽい感じがする。これもマギー、トンプソン、ホークがそれぞれいい感じのソロを聴かせてくれる。
「イッツ・ザ・トーク・オブ・ザ・タウン」
ジェリー・リヴィンソン、マーティ・サイメス、アル・ネイバーグの3人の名前が作者として記載されている。これもホークのテナーをフューチャーしたバラード・ナンバー。ホークの音色は本当に素晴らしく、見事なカデンツアなど聴き所が多い作品。
「ビーン・スープ」
ホーク作でやはりバップとスイングの中間を行くような感じの作品。Pのイントロに始まり、テーマの後トンプソン、マギー、ホークの順でソロを取る。

僕はずっとこのアルバムを単に「ホークの素晴らしいテナーが聴けるスイング時代の傑作」とスイングの作品と決めつけていたが、実はそうではなくもしかすると<スイングtoバップ>時代を反映した作なのかもしれない。

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